
会場の扉をくぐった瞬間、明らかに空気の温度感が変わるのがわかった。声援、熱気、緊張──。
ここは回転寿司チェーン くら寿司の貝塚事務所。この日は世界のくら寿司店舗のナンバーワンを競う『KURA-NO.1 GRAND PRIX 2025』(以下KURA-1グランプリ)が開催されていた。
回転寿司のグランプリ……それって一体どんな競技なの? 会場の様子は?? どの店が優勝したの?? ってなワケで、当日の会場の様子をまるっとお伝えしよう!!
・世界の店舗が3つの部門で競い合う
まずはじめに、KURA-1グランプリがどのような大会なのかを簡単にご紹介しよう。
第4回目となる2025年は初めての世界大会。日本国内から22店舗、台湾とアメリカから1店舗ずつの全24店舗が集まった。
1チーム3人構成で、「寿司製造(お持ち帰り)」「ネタ切り」「デザート」という3部門の総合得点から上位3チームを決める。そしてその3チームで決勝戦を行い、世界ナンバーワンの店舗を決めるというシステムなのだ。
・白熱の予選大会
会場に足を踏み入れると、マイクを握る司会者の声が高らかに響いていた。
テンポよく競技者を紹介する様子は “社内イベント” にありがちな内輪感がまるでない。代わりに漂っていたのは、真剣勝負を勝ち抜いてきた者たちが集う “世界大会” らしい緊張感と熱気。
私用により予選3競技目、デザート部門から観戦を始めた筆者は、すっかり温まった会場の空気に一気に飲み込まれた。
会場の真ん中にある競技エリア内には、キッチンカウンターが4台配置されている。
そして、それを取り囲むようにたくさんのテーブルが並べられ、店舗ごとに出場者たちが座っていた。
全24店舗と聞いた時からわかっちゃいたが、想像以上に人の数が多い。今後の人生で、こんなに大勢のくら寿司スタッフと同じ空間にいることなんて 一生ないだろうなぁ……!
まずは会場をぐるっと回ってみる。
待機中の出場者の皆さんは、お菓子を食べながら談笑したり作戦会議をしたりと、案外なごやかな雰囲気が漂っている。
対照的に、競技中のキッチンカウンターはピリピリとした緊張感に包まれていた。
デザート部門の予選で選ばれたお題は、白玉クリームあんみつ。白玉・あんこ・アイスクリームなど具材が多く、工程も複雑に見える。
せっかくなので まずは最前線で観戦をさせてもらうと、競技者の手がブルブルと震えている様子が見てとれる。
手順を間違えて悔しそうな表情を浮かべている人もおり、大勢に囲まれて採点されるという非日常的な舞台に 皆さんプレッシャーを感じてるようだった。
調理後はすみやかに審査員が集まり、完成したメニューをじっくりと観察しながら採点が行われていた。
採点基準はスピードだけでなく、盛り付けの美しさ・マニュアル通りの作業手順かどうかなども加味されるのだそう。普段の仕事をどれだけ正確にこなしているかが高得点の肝になるってことらしい。
審査員の後ろでは3人のスタッフが肩を叩いてねぎらい合っており、その様子は完全にスポーツの試合を見ているかのよう。
──まさか “くら寿司の通常業務” が、ここまで競技化されているとは。
うぅ~ん、アツいなKURA-1グランプリ。いつの間にか出場者たちに感情移入し、応援をしてしまう自分がいた。
・運命の決勝戦
激戦だった予選の結果、決勝戦へと進んだのは兵庫県 大蔵谷店・大阪府 城東今福店・東京都 町田店の3チームであった。
決勝戦でも、予選と同様に「寿司製造部門」「ネタ切り部門」「デザート部門」の3種目で戦うこととなる。
ただし寿司製造では寿司の数が15個 → 20個に、ネタ切りではネタの数が15枚 → 30枚に、デザートでは課題メニューが白玉クリームあんみつ → この日初披露された大会用デザート(しかも、3種のデザートの中からくじ引きで決定する)へと変更され、さらに技術が要求される内容となっていた。
ぶっちゃけ 見学しながら「デザート部門だけ異様にハードル高くない?」と思ったのが正直なところだが、司会者曰く「マニュアルが作り込まれているので、初めてでも指示通り調理すれば問題ないはずです」とのこと。
さすが、全国から猛者が集うKURA-1グランプリの出場者であれば、これぐらいなんてことないのかもしれない……。(と言いつつ、課題発表の瞬間にデザート担当の出場者が叫んだのを筆者は見逃さなかった)
──さて、KURA-1グランプリ全体を通しての特徴のひとつがテンポの早さだ。
あっという間に会場は決勝仕様に模様替えされ、4つあったカウンターキッチンは3つに、そしてステージ前方には決勝進出者用の椅子がズラリと並べられた。
各チームから1人ずつがキッチンへと向かい、いよいよ決勝戦がスタートする。まずは寿司製造部門だ。
カメラを構える報道陣に囲まれ、空気は予選よりもさらにピリピリとした緊張感に包まれている。
カウンター上には課題となる大きなトレーと、その他のこまごまとした道具が置かれているのみ。今回が寿司製造部門の初観戦となる筆者は、なにが起こるのかと固唾を飲んで見守ることしかできない。
「……準備はいいですか?」
「はい」
「それでは、スタート!」
ストップウォッチが押され、競技者がバッと勢いよく作業をスタートする。
あまりに早くスムーズな動きに気圧(けお)されて記憶が定かではないのだが、まずは左手のマシンから出てくるシャリを均等に並べ、
カウンター下部の冷蔵庫からネタを取り出し、シャリの上に載せる。
悩んでいる様子は一切なく、まるでそうプログラムされているかのように正確でスピーディな動きだ。
そして ネタの種類が変わるごとに、布巾で手を拭く。
盛り付けが終わったらストップボタンを押し、競技終了。かかった時間はわずか1分50秒。は、早いなっ……!
息をつく暇もなく、審査がスタートする。
まさに真剣勝負、この間全員がほとんど無言である。あまりの緊張感から、にぎやかなBGMや司会者の声が別世界のように遠く聞こえた。
採点が終われば、相変わらずテンポよくキッチンの片付けと競技者交代が行われ、すぐにネタ切り部門がスタートする。
ぐぬぬ、一瞬たりとも目を離すことができないぜ。
ネタ切り部門では半身におろされたサーモンが提供され、それをネタに適したサイズへ切り分ける技術が試される。
「スタート!」の掛け声とともにサーモンを半分に切り分け、
さらに、1枚ずつスライスしていく。
目にも止まらぬスピードに、筆者もカメラのシャッターを切りながら思わず息をのんでしまう。
勢いそのままに、2分34秒で完成。
審査ではキッチンの片付けの様子やネタ1つあたりの重さなど、すべての作業内容が細かくチェックされている印象だ。コレ、出場者はもちろんだけど審査員も相当なプロなんだな。
そしていよいよ決勝最後の種目となった、デザート部門。
課題は、先ほど披露されたばかりの大会用デザート。競技者は一度デモンストレーションを見学し、マニュアルを読み込んだだけで挑むという、まったくの初見メニューだ。
ピリリと一層引き締まった会場で、「スタート!」の声と同時に調理が開始された。
まずは『マスクメロンと完熟マンゴーのフルーツタルト』を作る城東今福店。
続いて『いちごとマスカルポーネの紅白ティラミス』を作る町田店。
最後は『芳醇宇治抹茶パフェ』を作る大蔵谷店。
どのチームも、手元とマニュアルを交互に見ながら、初めてとは思えない無駄のない動きでスムーズに作り進めていく。
さすがは決勝戦。完成したスイーツが美味しそうなのはもちろんのこと、調理後のカウンターが清潔で美しいのも印象的だった。
・栄えあるKURA-1グランプリ2025の優勝チームは…
ついに全種目が終了し、和やかな雰囲気となった会場内。
司会者のアナウンスとともに結果が発表され、KURA-1グランプリ2025の優勝チームとなったのは……
町田店! おめでとうございます!!
優勝の秘訣を聞かれ「チームワークです」と答える姿からは、やはり、スポーツマンシップがにじみ出ている。いつも同じ職場で協力し合うスタッフ同士だからこそ、互いの強みを理解し、支え合いながら挑む姿勢が自然と生まれるのだろう。
──以上、白熱の試合となったKURA-1グランプリ2025。広報担当の方から取材のお声がけをいただいたときは「くら寿司のキッチンの裏側が見られるかも」と、正直、軽い気持ちでお引き受けした。
だが いざ目の当たりにしたのは、くら寿司の店舗で日々行われている業務を競い合うだけのはずなのに、見ているこちらまで胸が熱くなるような真剣勝負のドラマであった。
ひょっとすると皆さんが訪れるくら寿司の店舗でも、今回の大会のような真剣勝負な日々が繰り広げられているのかもしれない。そう思うと、いつもの一皿にもちょっとしたドラマが宿っている……ように見えちゃうかもね!
参考リンク:くら寿司公式サイト
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]
▼KURA-1グランプリ2025で優勝された町田店の山本さん、富澤さん、鈴木さん。「大会前は、いつもの仕事の中で丁寧な作業を意識したことで、スキルアップにもつながりました」という言葉が頼もしかった
▼同日に開催された接客コンテストで優勝された津店の木下さんは、勤務11年目のベテラン。「笑顔、お客様に寄り添うこと、話すスピードの3点に気を付けて接客をしています」大会では他の店舗スタッフの接客を間近で見たことで、もっとがんばろうと思えたのだそう
▼今大会で最年長という茅ヶ崎今宿店の影山さん。審査員から「素晴らしい」「キレイですね」という声の上がる会心の出来。「でも、緊張して片付けがうまくできなかったんです」と謙虚な方でした
▼アメリカチームの皆さんは、予選8位ということで「8のポーズ」
▼デザートを担当したAbner Sadolさんは、アメリカ店の店長。「KURA-1グランプリがこんなに大きな大会だと知って驚きました。アメリカに帰ったら、従業員のみんなに日本での経験を伝えたいです」
▼台湾チームの皆さんは応援グッズを持参。デザートを担当した許凱閎さん(一番左)からは「緊張のあまり、作業手順が頭から飛んでしまった。次回があるならリベンジしたいです」というコメント
▼台湾オリジナルの「くら寿司ポーズ」で記念撮影させてもらいました
▼調理が終了した時点で押すストップボタン。押す瞬間は、見ているだけの筆者までドキドキした
▼決勝戦の待ち時間では、チーム3人でデザートの調理手順について作戦会議する様子も
▼決勝2位の大蔵谷店が作ったお持ち帰り寿司。バランスよく並べられて美しい
▼同じく大蔵谷店のネタ切り。丁寧で正確な包丁さばきに思わず拍手をした
▼非日常的な会場では、いつものメンバーであるスタッフ同士の応援が力になる
▼決勝戦のデザートが発表された瞬間は、会場全体がざわめいた。まさかくじ引きで、初めて作るメニューで競うなんて驚きだ
▼大会用のデザートメニューは、ひょっとしたらいつか店舗に並ぶかもしれない……とのこと
▼決勝戦前、本社スタッフによるデザート調理のデモンストレーションが行われた。マニュアルを凝視しながら作る姿に、司会者からは「フェアの初日みたいですね!」という “くら寿司ジョーク” が飛び出した
▼予選 → 決勝 → 結果発表と、会場はめまぐるしく模様替えされていった
▼テレビ取材の数も多く、非日常的で大興奮な会場でした
高木はるか














































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