ライターの表現力はどれほどのものなのか? その実力を投票形式でたしかめる企画「表現王選手権」。今回は読者の皆さんにお送り頂いたキャッチコピーのなかから、優れた3作品を紹介する特別編をお伝えしよう。

前回の最後に「夏休み」をテーマにコピーをお送りくださいとお伝えしたところ、約200件もの応募があった。お送り頂いた皆さん、ありがとうございます! 正直、こんなに多くの応募があると思っていなかったので、私(佐藤)自身ビックリしております。

メンバーの考えるコピーに勝るとも劣らない作品の数々、それらの中から「コレは!」と私が思った3作品です。今回も最後に次のテーマの応募があるよ!

・前回の答え合わせ

まずは前回「スイカ」の答え合わせ。スイカは夏の風物詩であり、暑くなるとムショーに食べたくなる果物のひとつだ。端的にスイカそのものの魅力を伝えるのも良いし、スイカを食べる場面を描くのも良いだろう。

誰がどのコピーを考えたのか、さっそく答え合わせをしよう。それぞれの名前の後ろの星印は、これまでの1位の獲得回数を示している。


1位 「夏の到来を告げる味」 古沢崇道☆☆☆☆
2位 「夏のムードを果物にしました」 御花畑マリコ☆
3位 「塩をかけると甘くなることを教えてくれた果物」 佐藤英典
4位 「棒で割った方がなぜか美味い」 原田たかし☆
5位 「スイカは飲み物。」 中澤星児☆
6位 「出川のヘルメット」 砂子間正貫
7位 「人間もカブトムシも大好き、すいか」 P.K.サンジュン☆☆☆
8位 「夏の形をした鈍器」 あひるねこ
9位 「夏を凝縮して球体に閉じ込めたらこうなった」 和才雄一郎☆
10位 「俺たちは忘れない。羨望の眼差しを集める「最速の男」を。」 GO羽鳥
11位 「風呂の後の水分補給はスイカに限る!」 Yoshio


以上の結果となった。今回またしても古沢が勝利して、ついにサンジュンを抜いて単独トップに立った。

古沢はどうやら勘所をつかんだようだ。ここ最近のコピーを振り返ると、わかりやすさを優先しており、扇風機の「夏に吹く風」、梅雨の「夏の足音」、そして今回スイカの「夏の到来を告げる味」と、パターン化しているように見受けられる。

わかりやすいのは良いのだが、短い文章に込められた奥深さや物語性が乏しいように感じる。彼の持ち味のわかりやすさに、さらなる要素が加われば、もっともっと上手く表現できるはず。さらなる進化が見たいところだ。


一方、今回10位に終わった羽鳥の「俺たちは忘れない。羨望の眼差しを集める「最速の男」を。」だが、これはスイカ早食いの特技をもった志村けんさんのことを指している

志村さんの名前を出さずに志村さんのことを伝える。これはある意味、読者がそれを読み解いてくれることを信じた賭けだ。古沢のわかりやすさと対局にあり、わかりやすさを犠牲にしてでも伝えたかった意味の深い作品といえるだろう。



・応募約180作品

さて、今回は投票をお休みして、読者の皆さんにお送り頂いた作品を紹介させて頂こう。繰り返すがテーマは「夏休み」。約200件の応募のうち、一部重複送信されたものもあるので、それらを省くとだいたい180作品寄せられている

多くの作品が「夏休み = 天国と地獄」といったニュアンスのものだった。学生時代(小学生時代)を思い出して、40日間遊び放題の天国が始まるのだが、最終日間際に宿題に挑む地獄が待っているというもの。

そのほか、長期休暇は大人になって得難いものであること。学校が休みになると親にとっては大変な日々が始まること。夏の景色や風情に関するものなど、非常に幅広く集まり、唸るほど上手い作品も少なくなかったのだ。

3作品を紹介する前に、私の考えた『夏休み』のコピーを5つ、カンタンな説明とともに紹介させて頂こう


・佐藤の考えた「夏休み」のコピー5つ

◆「「〇〇をして楽しかった」を描き飽きた…」
夏休みの宿題のひとつの絵日記を、最終日にまとめ描き。数日分はまともに描くけど、そのうち描くことがなくなって「海に行って楽しかった」「山に行って楽しかった」など、単調な内容になり、ついに描くことがなくなる様子を表現した。

◆「あと何回、みんなで夕焼け見れるかな」
休みの終わりが近づくにつれて、夕暮れ時は切なくなる。友達とあと何日遊べるかな? 沈み行く夕日を見ながら、そんなことをつぶやく様。

◆「帰宅して姿を見る度に黒くなる。身長伸びたか?」
休みの間、毎日外で遊んでいる子どもを、帰宅する度に目にして、段々日焼けして行く様を見ている親の視点。夏休み終盤に差し掛かって、背丈が少し伸びてきたことに気づく。暗に遊びを通じて成長していることも踏まえて。

◆「8月31日夜、この子には悪いけど笑いが止まらん」
激動の夏休みの最終日、「学校に行きたくない」と嘆く子をよそに、母は静かにほくそ笑む。

◆「『家族旅行』という名の異世界への冒険が始まる」
夏休みの家族旅行。都会の子は親の郷里の田舎へ。もしくは家族で海外へ。また国内の避暑地へと旅行に出かける。家族と共に見知らぬ地域へ旅立つ子どもにとっては、まさに異世界への冒険にほかならない。その興奮と緊張を表現した。

以上、5点。子どもの視点と親の視点を織り交ぜて考えてみた。今回応募に多かった、「始まり」「終わり」「夏」「夏休み」「宿題」などの言葉をあえて使わずに、それらを表現している。


キャッチコピーは短い文章の中で、テーマとなっているものの魅力と、そしてささやかな物語が詰め込まれている方が良いと私は考えている。そしてその文章を読んだ瞬間に、読者の脳裏に明確なイメージを届けたい。そういう観点から、次の3作品を選んだ。



・「夏休み」の優秀3作品

◆アイスの名残りさん 「照る暑さに目を細めれば、輝く笑顔に虫かご揺れる」

玄関もしくは縁側に立って、虫かごを手に駆けて帰ってくる子どもの様が目に浮かぶ。手に虫かごを掲げて「見て、こんなに採れた!」と喜ぶ姿。その様子を「輝く笑顔」と表現しているところに、アイスの名残りさんの愛情の深さが窺える。

それは田舎の祖母の家でのことなのか、それとも近場の裏山でのことなのか。いずれにしても、夏休みの一場面を切り取った秀逸なコピーだ。短い文章の中に物語を読み取れる。


◆yukaaaaaさん 「生まれて初めて〆切に追われるイベント」

端的に夏休みの宿題を表現した見事なコピーだ。「宿題」と言わずに宿題と分からせるところが素晴らしい。大人になれば仕事で締め切りに追われるのは当たり前。そんな締め切りを最初に体験するのが夏休みの宿題だったんだと、改めて気づかされた。


◆さとうさん 「おかーさんも、欲しいんだよ!」

夏休みは子どもにとっては遊び期間だが、親にとっては普段以上に忙しくなる。その心の叫びを一言で表現している。余分な説明はなく、なかば魂の叫びともとれる「欲しいんだよ!」の思い。あえて文中に「夏休み」を入れないことで、より迫力が増している点も評価したい。



ということで、以上3作品を優秀作として紹介させて頂いた。もちろん、このほかにもたくさん素晴らしい作品があったが、今回は私の独断で選出させて頂いたことをご了承ください。


次回はいつものように編集部メンバーも参加し、普段通り投票形式で企画を行う。皆さんからお送り頂いたキャッチコピーをいくつか選出し、メンバーと共に投票の対象とさせて頂く。

つまり、メンバーと読者で票を取り合うことになるのだ。場合によっては、編集部メンバーに投票で勝っちゃうかもよ!? そんなわけで、次のテーマは「梅干し」で行きたいと思う。

我こそは! という人は、ぜひ応募して頂きたい。ご応募、お待ちしてます!

執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24