この世には入手困難なお菓子というものがいくつかある。

朝イチで並ばないと買えない富士見堂の「あんこ天米」や、カフェタナカのクッキー缶「レガル・ド・チヒロ」、完全予約制のうえ購入者からの紹介でしか買えない京都・村上開新堂のクッキーなどなど……。

ここ数年、私がチャレンジした中でも最も入手困難だったのが「霜ばしら」という和菓子であった。

・冬季限定・霜ばしら

「霜ばしら」を販売しているのは、宮城県仙台市にある老舗和菓子店「九重本舗 玉澤」.

昔から皇室献上品のお菓子などを作っているそうなのだが、中でも有名なのが冬季限定の「霜ばしら」という飴

子供の頃にお茶菓子目当てで通っていた茶道で、冬になるとこの「霜ばしら」がお茶請けとして出されており、サクサクした不思議な食感と美味しさで30年以上も忘れられずにいた。茶道でいろんなお菓子をいただいたが、これ以上のインパクトがあったお菓子はない。

あのお菓子、もう一度食べてみたいな……と思って「サクサク 飴 白い」などで検索してようやくたどり着いたのが「霜ばしら」であった。


・月に1度だけネットで通販しているが…

冬季限定のお菓子で、非常に繊細なため大量生産は不可能。月に1〜2度だけ通販しているらしいという情報を得たものの、それからが大変だった。

九重本舗玉澤のXアカウントをフォローしていると「来月分の霜ばしらの通販開始しました」とゲリラ的に告知が流れてくるのだが、届いた瞬間に通販サイトにアクセスしないとまず無理。時の運が必要だ。

さらに1分以内にカートに商品を入れても、決済でもたつくと完売になってしまう。毎年の福袋戦線で鍛えた能力をもってしても、買えないのだ。

そんなこんなで1年以上、買えないまま月日は流れていき、ようやく購入できたときは2024年のすべての運を使い果たした……とさえ思った。



・いざ、30年ぶりの霜ばしら

購入できたのは霜ばしらギフトセット「定禅寺」(6048円)。霜ばしら単体のものは即売り切れで買えず、セットと相成った。


まずは主役「霜ばしら」から。

白い丸い缶を開けると……しっかりしたプラスチックの蓋が現れる。

このフタがめちゃくちゃ固いんだけど、力まかせに開けると中にはいっている粉が飛び散るので要注意。

缶の中には雪のような白い粉がぎっしり敷き詰められている。ちなみに、この粉は湿気防止と飴を衝撃から守る らくがん粉である

中央に小さな1本線が見えるのでそれを引き出す……。


これこそが「霜ばしら」!


まさに、朝露に輝く霜柱をそのままお菓子にしたような見た目。口の中に入れて噛むと「サクッ」と快い音がして、上品な甘さがすうっと口の中で溶けていく。

まるで霜柱を踏みしめたような音と食感。見た目も味わいもすべてが冬の霜柱を体現している。ここまで風流なお菓子があったろうか。


しんしんとした冬の雪景色を切り取り、そのままお菓子にしたようである。


・超繊細な霜ばしら

1枚目だけが上の方に刺さっていて、残りの「霜ばしら」は白い粉の底に敷き詰められている。

食べるときはこの粉をフタの上に移して、缶からサッと「霜ばしら」を引き抜く。

「霜ばしら」は湿気に非常に弱いので、引き出したらすぐに粉を缶の中に戻すべし。

独特の軽やかなサクっとした食感は、手作業で飴をねって引き伸ばしているらしい。たしかにこの繊細な味わいは大量生産できなさそう。



・他のお菓子も美味

詰め合わせの中には他にも「九重本舗玉澤」の代表的なお菓子が入っている。

屋号にもなっている「九重」は明治天皇の仙台行幸に際して献上し、ひどく気に入られたという。

金平糖のような見た目の「九重」はお湯を注いでいただくお茶とお菓子の中間のような不思議なお菓子

お湯を注いでしばらくすると、フワフワと九重が浮かんでくる。中に入っているのはあられで、上品な甘さと一緒にあられの香ばしさをいただく。

これまた霜ばしらと同じように食感や香りを楽しむような上品なお菓子。見た目も美しい風流さ。


さらに、この「九重」を使った葛湯も入っていたのだが個人的にはこれが大ヒット。

ほの甘くてもったりとした葛湯の中に浮かぶピンクや黄色のあられ、砂糖菓子のかわいいことよ! 体もあたたまる……。


そして、東北の銘菓である「杜のゆべし」も。実はこれまで「ゆべし」は特別好きなお菓子でもなかったのだけど、ゆべし感が変わるほど美味しかった

カリッとしたくるみ、生地のむっちり感、ほどよい醤油の香りと塩気が絶妙。ゆべしってこんな美味しかったのか〜。


さらに、自分であんこを挟む「お手作りもなか」も、小豆が立ったあんと最中の皮の香ばしさがたまらない。

霜ばしら以外もこんなに美味しいなら詰め合わせを買って正解だったな。



・東北の美学

九重本舗のお菓子は上品な甘さと香りや食感が特徴のようだった。あられや最中の皮の美味しさはさすが米どころ東北である。

私は九州出身なのだが、九州のお菓子はカステラのように卵と砂糖をたっぷり使ったガツンと甘みが強いものが多いのに対して、九重本舗玉澤のお菓子は甘みが上品で、それでいてどこか素朴さもある。

銘菓はその地方ごとの特色とか美味しさの美学が反映されているのかもしれない。食べながら、雪の降る仙台を思い浮かべる時間はとても贅沢だった。

「霜ばしら」の入手は難しいかもしれないけど、他のお菓子もとても美味しいのでぜひ食べてみてほしい。

ちなみに、Amazonや楽天で売られているものは転売商品で価格が倍以上になっているので、公式サイト以外で買わないようにご注意を。


参考リンク:九重本舗玉澤
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.

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