一大ブームが起こり、すでに飽和点に達している感もあるカプセルトイの世界。かつては都市部にしかなかったカプセルトイ専門店が地方でもオープンし、今は緩やかに裾野が広がっている。

そろそろアイディアも出尽くしたか……と思っていたが、それは筆者の大きな間違いだった。今回発見したのは、世界にたった1台しかない、地方発カプセルトイマシンだ。これからはローカル×少数生産×希少性のムーブメントが確実に来る……!


・サトウ孔芸のカプセルトイ

そのマシンは、ショッピングモールにもカプセルトイ専門店にも並んでいない。青森県青森市でスクリーン印刷などを手がける「サトウ孔芸」の敷地内にひっそりと設置されている。

外観からはここにマシンがあるとは思えないようなごく普通の事業所。言われなければ通り過ぎてしまいそうだ。知る人ぞ知る、秘宝のようなカプセルトイ。

販売しているのは「ねぷた」1回1000円と、「金魚ねぷた」1回500円。1000円のマシンも500円玉×2枚なので、硬貨を用意して行こう。

ガチャリと回してカプセルをゲット。


「ねぷた」は3種類、「金魚ねぷた」は5種類あるが、もっとも金魚らしい赤金魚が出たのが嬉しい!

カプセルは半透明なのでその場で中身の確認が可能。平日、担当者が在社していれば両替やコンプリート支援も行っているとのこと。この辺りも、どこかのんびりした手作りの雰囲気が漂っている。



・まずは「ねぷた」を組み立てる

帰宅後に開封してみると、カプセルトイではなかなか見ない大判の説明書が入っていた。裏面には英語版解説もあり、日本土産にもよさそう。

作りやすさを考慮してパーツは最小限に絞っているというが、それでもカプセルトイとしては異例のパーツ数!

もともと同社では大小さまざまな工作キットを販売しており、どんどん小さくしていった結果、カプセルに入れることを思いついたという。

流行や予算から企画を立てるカプセルトイメーカーとは逆の発想で、業界の「前例」とか「常識」にこだわらない本格キットなのがユニーク!

パーツはカット済み。すぐに組み立てを始められる。

パーツの合いもばっちり。基本的にはスナップキットのプラモデルのように「パチン」と凹凸がハマっていくが、補強にボンドを使ってもよさそう。

この形、知っている!

県外の人にはわかりにくい「ねぶた」と「ねぷた」。語源は同じで、どちらも間違いではないというが、「青森ねぶた」と「弘前ねぷた」は別の祭り。

青森市で行われ、立体的な人形で神話などの名シーンを再現するのが「青森ねぶた」。弘前市で行われ、武者絵、美人絵を描いた扇形の灯籠(とうろう)が町内を練り歩くのが「弘前ねぷた」だ。

扇部分に絵を貼っていく。紙もきれいに裁断済みなので、ハサミもカッターも不要。

完成! 手のひらサイズの美しい「ねぷた」ができた。内部に付属のLEDを組み込むことができる。



・続いて「金魚ねぷた」を組み立てる

よしよし、この調子でサクッと「金魚ねぷた」も作ろう。ホテルや公共施設で飾られているのをよく見るが、もとは子どもたちに提灯(ちょうちん)として持たせたものだという。価格は500円と半分で、パーツも圧倒的に少ないので楽勝だ。

────とナメてかかった筆者は、カワイイ顔した大ボスが待ち構えていることを知らなかった。

木枠を作って紙を貼るという手順は「ねぷた」と同じ。説明書を見ながら、カット済みの木片を組み合わせていく。

コロンとした丸いフォルムが浮かび上がってきた。前後左右に注意しながら留め具で固定する。

……のだが、説明書と同じ形になっていないことに気がつく。あれれ?

一度外してやり直す。柔軟性のある木組なのでやり直しは簡単だ。

各パーツはよく似ているが、それぞれ切り欠きの位置などが違う。パーツに裏表もあるので、向きを見失いやすい。間違えると後に別パーツを足すときに困るはずなので、慎重に、慎重に……

あれ? やっぱり違う???


「メンタル・ローテーション」という概念をご存知だろうか。実物がなくても頭の中で物体を360度から把握できる空間認知能力のことで、これが得意な人は立方体の展開図をすぐに想像できたり、脳内の地図をぐるぐる回転できたりする。

筆者はこれが壊滅的に苦手。行き慣れたビルでも違う入口から入ると途端に方向がわからなくなる。旅先で頼りになるのは自分の感覚ではなく、常に看板や標識だ。

たぶんこの方向、という感覚を信じるとロクなことにならないので必ず地図を見る。自分を絶対に信用しない。絶対にだ。

苦肉の策として、向きをペンで書き込んでから組み直した。組み立て後は見えなくなるのでOK。

続いて紙を貼っていく。「ねぷた」と違って球体状の木組に貼るので少し難しい。

なんかこの作業、熟練の職人ぽいな。頭の中では「プロフェッショナル 仕事の流儀」のテーマが流れる。

が、盛り上がる気分とは裏腹に、貼り合わせた紙は微妙にズレており、鼻の高さが異なる上に唇が繋がっていない金魚が爆誕した。筆者はそろそろ「手先は結構器用です」と自称するのをやめた方がいいかもしれない。

まぁ、逆に愛着が湧いて「うちの子」感がある気も。尾びれなどを貼って完成だ。こちらもLEDを仕込むことができる。



・日が暮れてから点灯の儀

わくわくしながら夜を待ち、暗い部屋でライトを点灯してみると……


幻・想・的!


付属のLEDが祭りらしい暖色系の灯りなので、雰囲気も満点。絵を手がけているのは本物のねぷた絵師、山谷寿華さん。

むさ苦しい部屋が一気に祭り会場に! 耳を澄ませば祭り囃子が聞こえてきそう。というか、妄想に頼らずともYouTubeがあればいくらでも囃子を流せる!

日本の夏祭りは和紙を通して灯りをともす、灯籠(とうろう)や提灯(ちょうちん)を使った飾り物が多いけれど、本当に風情があってきれいだと思う。

そのままでも精巧だけれど、点灯した方が何倍にも魅力的になる。筆者は自宅にひとりだが、祭り気分でワッショイだ。

LEDは接触が少し甘く、点灯させ続けるのが難しかったので、もしこれから作る人がいたらボタンを押し込んだ状態でマスキングテープなどで固定してしまうのがおすすめ。

今年の本物の「弘前ねぷたまつり」は8月1日(木)~8月7日(水)に開催。現地に来たら、ぜひ足を伸ばして同社にも寄ってみて欲しい! 自分しか知らないレア物を手に入れた気分になれる。

カプセルトイよりも大きいものになるが、オンラインストアでは工作キットも販売中だ。



・今回ご紹介した施設の詳細データ

名称 サトウ孔芸(InstagramXオンラインストア
住所 青森県青森市浪岡大字五本松羽黒平31

時間 平日9:00~17:00は両替・コンプリート支援あり


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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