ロケットニュース24

1500円をケチったばかりに悲劇になった夜行バスの話

2024年6月8日

人の価値観がそうであるように、お金の価値観も人それぞれである。ただ、お金の価値観も時と場合によって変化するから不思議なもの。例えば「安い1500円」と「高い1500円」があるように。

これは私が「1500円ぽっちケチらなければ良かった……!」と心の底から感じたリアルな話。たかが1500円、されど1500円。私が確実に言えるのは「今後、夜行バスの1500円はケチらない」ということである。

・久しぶりの夜行バス

私の中で夜行バスは「リーズナブルな移動手段」というイメージがある。新幹線や飛行機より移動時間は長いものの、交通費を抑えられる手段。そして実は私は夜行バスに乗った経験がほとんどない。

最後に夜行バスに乗ったのはもう7~8年前のことで、それも当時最先端だった「ゴージャス系夜行バス」の取材を兼ねたものであった。普段の遠距離移動はもっぱら「飛行機」か「新幹線」を利用してる。

そんなもんだから私の中に「夜行バスに乗るなら交通費を抑えてナンボ」というケチケチ精神があったのかもしれない。結果的にこれが悲劇を生むことになるのである。



・仙台へ

さて、私が乗車したのは東京から仙台行きの夜行バス。新幹線ではなく夜行バスにした理由は、どうしても明け方には仙台に到着していたいからであった。最も早い新幹線より1時間ほど早く到着する夜行バスに惹かれたのである。

移動時間はかなり長くなるが、私にとってその1時間はかなり魅力的。慣れていないためか、夜行バスに “ややロマンチックなイメージ” も持っていた私は、久しぶりに夜行バスのチケットを手配することにした。

私が発見したのは5500円の夜行バスで、新幹線と比較すると価格は半分ほど。「この値段は魅力的だな~」なんて思っていたところ、最後に「プラス1500円でアップグレードしますか?」的な案内が表示されたのである。

・拒否

どうやら追加で1500円を支払うと、座席が4列シートから3列シートになるもよう。確かに3列シートの方が良さげではあるが、そうなると5500円で済むハズの交通費が「7000円」になるというワケだ。

もしかしたら「7000円だと新幹線の半額にはならない」と、一瞬頭によぎったのかもしれない。先述した「夜行バスに乗るなら交通費を抑えてナンボ」という心持ちもあってか、私はアップグレードを拒否したのであった。

そして迎えた当日。そのこともすっかり忘れていた私が夜行バスに乗り込むと、バスの前方には広々とした3列シートが。無邪気に「最近の夜行バスめっちゃイイじゃん!」と思ったものの、そう私の座席は4列シートである。

こう言っては何だが、3列シートを見てしまった直後の4列シートは「新築」と「築70年」くらいの差を感じてしまう。なにせ3列シートは座席が独立しており「真横に誰もいない設計」はかなり大きい。



・後悔

一方、4列シートは誰かが必ず真横にいる仕様。しまった……! 家族や友人ならいざ知らず、赤の他人が真横に来る可能性を私はこの瞬間まで忘れていた。……グヌヌ。こうなれば後は「真横が空席」の可能性に賭けるしかない。

……が、着席した1分後には私よりも10歳は年配とみられるおじさんが真横の席にすべり込んできた。……終わった。あたり前だが仙台までの約7時間、このおじさんと私はわずか10センチほどの距離を隔ててバスに揺られるのである。

足を伸ばしたり体勢を変えるたび「迷惑がられているんじゃないか?」という疑心が私の中に芽生える。ペットボトルを開ける音、のどが鳴る音でおじさんを起こしてしまわないか? 

また座席を倒す際も「後ろの人に迷惑ではないか?」などと、私の中で果てしなく続く極度の神経戦。いつしか私は心の中でこう唱え続けていた。「1500円ケチらなければ良かった。3列シートにすれば良かった」と。



・学び

もちろん3列シートにしたからと言って、全てのストレスが消えるわけではあるまい。ただ密着一歩手前の4列シートよりは、ゆったりと過ごせたことだろう。自分の浅はかさを責め続け、やがてバスは仙台に到着した。

いま思えば「夜行バスをアップグレードする1500円」は、かなり有意義な1500円の使い方だと確信している。「安い1500円」と「高い1500円」があるならば、確実に「安い1500円」であろう。

たかが1500円、されど1500円。私が確実に言えるのは「今後、夜行バスの1500円はケチらない」ということ。「何歳になっても学びはある……」と負け惜しみを呟きつつ、私は早朝の仙台に降り立った。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:Rocketnews24.

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