あの壮大な世界観や個性的すぎる登場人物たちを、一体どうやって実写化するのかという懸念を見事に吹っ飛ばした映画版『ゴールデンカムイ』。WOWOWでのドラマシリーズ化も決定するなど興奮冷めやらない。

作者の野田サトル先生は徹底した取材姿勢で知られ、作画モデルとなる建物が多数存在することを過去記事でもレポートした。中でも北海道小樽市はアシㇼパの住むコタンから近く、また鶴見中尉らのアジトがある重要ポイント。

第七師団への愛を胸に、“北のウォール街” 小樽を訪ねてみた。以下それぞれのエピソード、セリフ、設定は原作漫画に準拠している。映画版の先も多く含まれるためネタバレ注意だ。


・たびたび登場する「小樽運河」

小樽を代表する観光スポット「小樽運河」。歴史的建造物が多く残るロマンチックな散歩コースであるだけでなく、作中に幾度となく登場する定番スポットでもある。言ってみれば鶴見中尉たちの庭!

たとえば鶴見中尉が武器商人から銃器を買い付け、試射を行っているらしきシーン(コミックス4巻)。背景にはシャチホコが印象的な旧小樽倉庫が描かれている。現在は小樽市総合博物館運河館として運用中。

当時は岸壁からそのまま舟に乗り込んで海に出られたようだ。このほか、月島軍曹が「えご草ちゃん」の髪の毛を捨てた場所(コミックス15巻)もこの近辺。

過去と決別し、鬼軍曹の道を歩き出す覚悟のシーンだ。とはいえ、他人の苦しみへの共感や面倒見のよさを捨てきれないのが月島軍曹。江渡貝くぅんやスヴェトラーナへの接し方など、本来の人柄がちらちらと姿を見せる。

同じく小樽運河は、鯉登少尉に追われる稲妻強盗が逃げ込んだ場所(コミックス11巻)。「旧大家倉庫」前は稲妻強盗&蝮のお銀が倒れた場所と思われる! 鶴見中尉をして「愛があった」と言わしめた極悪夫婦。

お銀が大切に持っていた荷物に対し、鶴見中尉らのとった行動も胸に染みる。ときに狂気的な振る舞いも見せる鶴見一行だが、「ただの悪人」ではないということを示す象徴的なエピソードだ。このときの “彼” はたびたびコタンの風景に描かれ、元気に過ごしていることがわかる。

なお、鶴見中尉らのアジトも運河からそう遠くないと思われるが、建物は札幌市郊外の「北海道開拓の村」にモデルがある。



・和泉守兼定を取り戻した「百十三銀行小樽支店」

小樽の静寂を破り、堺町通りで起きた爆発。土方歳三が銀行強盗を企て、名刀・和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)を奪還した舞台(コミックス4巻)がこちら!

小樽市指定歴史的建造物となっている「旧百十三銀行小樽支店」だ。小樽運河からも徒歩5分ほどで、現在はガラス細工などを扱う「小樽浪漫館」として多くの観光客が訪れる。

鶴見中尉と土方歳三が邂逅(かいこう)したのはあの窓だろうか?


銀行当時の写真も残るが、外壁のカラーリングやアーチ状の入口など、作中では現在の店舗外観がそのまま描かれている。これは現代のファンとしては盛り上がる!

そのすぐ向かいには、「旧名取高三郎商店」が。

一階屋根にある「うだつ」に注目。「うだつ」とは火事のときに隣家への延焼を防ぐ防火壁で、金持ちでないと造れなかったことから「うだつが上がらない」という言葉が生まれたとか。へえぇぇぇ!

その「うだつ」、杉元佐一を怪しんで二階堂兄弟が蕎麦屋に踏み込んだ後、鶴見中尉が「そこまで」と銃声を響かせる場面(コミックス2巻)の背景とそっくり。

なお、蕎麦屋は過去記事の「北海道開拓の村」に現存。もともとは小樽にあった建物で、同園に移築されたのだそう。この場面で杉元が食べている「にしん蕎麦」がめちゃくちゃ美味しそう!



・暴走列車、地獄行きの「小樽市総合博物館」

小樽運河から離れ、少し郊外にある小樽市総合博物館(本館)は、全国でも屈指の鉄道博物館。野外展示を含め、数十両の鉄道車両が保存・展示されているという。

中でもホールに展示されている蒸気機関車「しづか号」は必見!


「暴走列車、地獄行きだぜ」(コミックス30巻)のほか、展示されている客車「い1」はアシㇼパたちが刺青の暗号を解こうとする一等車(コミックス28巻)そのまま。

ストーブ回りで刺青人皮を広げるアシㇼパたち。豪華な装飾や五稜星マーク、ふかふかのソファもそのまんま! 杉元はソファでうとうとする中で東京時代を回想する。

同館公式Xによると、取材時に野田先生は「機関車の暴走させ方」について熱心に機関士に質問されていたそう。たぶん誰も正解を知らない難問だっただろう。



・ニシン御殿「旧青山別邸」

小樽といえばニシン漁。そしてニシン漁といえば作中屈指の変態、辺見和雄である。

かつて小樽ではニシンの産卵によって海が白くにごる群来(くき)が風物詩だったのだとか。そのニシン漁で財をなした「鰊大尽(にしんだいじん)」の豪邸が現存している。

「旧青山別邸」内部は辺見和雄の働く漁場の親方の家(コミックス5巻)として登場。(※もうひとつのモデルに同じ小樽市内の鰊御殿があるが、2024年現在休館中)

鶴見中尉は出資者を求めてたまたま屋敷を訪れており、杉元と因縁の再会を果たす。

この中庭が作中に登場。洋琴を弾きこなす鶴見中尉からは「育ちのよさ」がうかがわれる。ちなみに曲はベートーヴェンの「熱情」だそう。

文化財保護のため邸内は撮影不可だが、マキシム機関銃から逃げ惑った「牡丹の間」や、ピアノのあった「比田井天来の間」、アシㇼパが豪華さに驚いた有田焼のトイレなどがある。

パトロンを求めていた鶴見中尉だったが、乱闘の末に死人も出て気味が悪いとして屋敷の建て直しが必要となり、出資の話は白紙になる。中尉がっかり。

現在、併設の貴賓館にはレストランがあり「にしん蕎麦」も提供する。骨までホロホロとくずれる甘いニシンと、シンプルな蕎麦の相性が抜群! 普段は魚介類を好まない筆者だが、これは美味しい。ヒンナである。



・串刺しほっぺの花園団子

原作でも映画版でも強烈なインパクトを残した「串団子」シーン(コミックス2巻)。筆者の耳からは玉木宏さんの「ふぅじぃみぃ~」が離れない。

「小樽の花園公園名物の串団子だ」と説明されるが、実際に明治時代、団子を販売していたお店があったそう。当時とは違う店だが、現在は「菓匠 小樽新倉屋」で花園団子を楽しめる。テイクアウトのほか、ドリンクと一緒にイートインも可。

ショーウィンドウには、ものすご~くひっそりと鶴見中尉が!!!!


これが絶品! 団子がふわっふわで、いくらでも無限に食べられそうな軽さ。「お正油」は優しい甘じょっぱさが唾液腺を刺激する。そして「胡麻」には、これでもかというほどたっぷり胡麻がまぶされている。

ふわふわ感が素晴らしいので、なるべく時間をおかずに食べるのがおすすめ。「作中に登場した」という予備知識がなくても旨い! 旨すぎる!

しかし、この串を頬に刺して平常心でいられる自信はない。



・当時の風景が色濃く残る小樽

このほか現在はだいぶ姿を変えているものの、古写真を見ると「作中の風景とそっくり!」という場面が数々あり、日本郵船小樽支店や色内大通り、花園大通りなどが特定できるそう。小樽市総合博物館運河館には古写真のデジタルアーカイブがある。

上記のうち小樽運河、金融街、新倉屋はJR小樽駅を起点に徒歩で訪問可能。博物館と旧青山別邸はやや郊外にあり、自家用車やバスなどの交通手段が必要だ。

今さら言うまでもないが、日没後の夜景も素晴らしい。この街を登場人物たちが駆け抜けたと思うと胸アツ! 散策しながら金塊争奪戦に思いを馳せたい。


参考リンク:小樽観光協会公式サイト「おたるぽーたる」
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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