2024年4月16日に復活した松屋の期間限定メニュー「ごろごろ煮込みチキンカレー(780円)」と言えば、もはや同店の一大人気商品である。復活のたびに人々は狂喜し、当サイトのあひるねこ記者も「ごろチキ」を神と崇め、その再臨を神事として扱っている。
一方で松屋の公式サイトによると、「ごろチキ」は松屋社員から「モンスターメニュー」という通称を与えられているらしい。筆者は「ごろチキ」を食べたことがなかったのだが、一つのカレーが神ともモンスターとも呼ばれているのを知ると流石に気にもなってくる。
そういうわけで「本当にそれほど美味しいのか」確かめるべく、今さらながら初実食レビューを敢行するのだが、前もって一つ告白しておかねばならない。筆者はカレーがそこまで好きではない。たまに食べたくなることはあるものの、2、3口で大抵満足してしまう。
例えば「一生カレーが食べられなくなる代わりに数百万円相当の金塊をやろう」と契約を持ちかけてくる悪魔がいたとして、筆者はしばし黙考したのち、悪魔と固い握手を交わす公算が大きい。そのくらいカレーにはあまり執着がない。
つまり当レビューは「そんな性分の人間であっても『ごろチキ』は楽しめるのか」という観点も含んでいるのだが、とはいえ実物を目の当たりにした時点で、すでに筆者の心はかなり沸き立っていた。
何せ香りが良い。強く複雑で、本格的な匂いが鼻をつく。とてもファストフード店の、しかも牛丼屋の商品とは思えない。今回は本商品をUber Eatsで自宅に取り寄せたのだが、窓を開けてこの匂いを垂れ流していたら隠れ家的カレー店に擬態できそうなほどかぐわしい。
にわかに期待が募る。果たして「ごろチキ」は、筆者に取りつく悪魔を祓うエクソシストたりえるのか。神でありモンスターでありエクソシストともなるといよいよ大ごとだが、「ごろチキ」は成し遂げてくれるのか。
神妙にカレールーに口をつけると、さらに驚きは続いた。スープカレーに近いようなサラリとした口当たり、舌をヒリヒリと焼くキレのある辛さ。想像していたよりだいぶ尖った商品だ。特に辛さに関しては、不得意な人は食べにくいレベルではなかろうか。
しかし、だからこそと言うべきか。濃厚かつスパイシーな旨味がなめらかに口内を駆け巡り、胃へ流れ落ちていく爽快感は、喉が渇いている時に飲むビールがもたらす感覚を彷彿させ、強烈に心身に刻み込まれる。
そこへもって、商品名にもなっている大ぶりのチキンが追い打ちをかけてくる。スプーンをどこに潜らせてもチキンに当たるような充実ぶりだ。十分に煮込まれた分厚い肉は崩れるように柔らかく、たっぷりとルーが染み込んでいる。
ああ、これは、非常に恐ろしい。火照る口内とは裏腹に、筆者は内心冷や汗をかいていた。個人的な結論を正直に言うと、周囲の人々のように狂うほど夢中になってはいない。しかし、首の皮一枚である。とてつもなくギリギリである。
もし自分がカレーを愛する人間であったら、間違いなくこの商品に人生をかき乱されていただろうと、そう確信している。喉元にぴたりと刃をあてがわれて、「本当なら仕留めてやりたいが、今回は特別に勘弁してやる」と、そう耳元で囁かれている。
先ほどビールを引き合いに出したが、実のところ筆者はアルコール類もそこまで好きではない。だがそれでも、うだるように暑い夏場にキンキンに冷えたビールを飲んだ時は、「何だこの美味い飲み物は」と思わされた。
このカレーにも、それと似た感動を覚えている。たとえ好物でなくとも、圧倒的な魅力は人を震えさせる。ぬらつくような刃のきらめきを、脳裏に植え付けてくるのである。
「心地良い恐怖」の中、筆者はいつしか「ごろチキ」を完食していた。全く飽きずにカレーを食べ終えたのはどれくらいぶりだろうか。
まだ首の皮はつながっているが、きっとまた食べたくなるという予感があった。「ごろチキ」は神であり、モンスターであり、エクソシストであり、そして優しい殺し屋であった。
参考リンク:松屋 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.