およそ3年前、筆者は岡山県の銘菓「きびだんご」を初実食する記事を書いた。安政3年(1856年)より続く岡山県の老舗和菓子屋「廣榮堂(こうえいどう)」から「元祖きびだんご」という商品を取り寄せ、レビューしたのである。
その記事において、同店では「元祖きびだんご」の他にも、「黒糖きびだんご」や「抹茶きびだんご」、「スポーツきびだんご」などが売られていると書いたのだが、このたび読者の方から「『スポーツきびだんご』も気になるのでレビューしてほしい」との声を頂いた。
確かに気になりすぎる。ぐうの音も出ない。なぜ筆者は「スポーツきびだんご」なる商品を3年間もスルーしていたのか。なぜ「スポーツきびだんご」なる存在を認知しておきながら、のうのうと3年間も無為に過ごしていたのか。自分でも不思議で仕方ない。
そういうわけで、筆者は「廣榮堂」の「スポーツきびだんご」を取り寄せることにした。自戒の意味を込めて資金投入に糸目はつけない心積もりでいたが、価格は10個入り486円というリーズナブルなものだった。
公式HPによれば、「スポーツきびだんご」は名前の通りスポーツシーン向けに作られたきびだんごらしい。「そうなのだろう」とは思っていたが、いざ「そうだ」と言われると正直なところ受け止めかねている。だいぶ前衛的な感がぬぐえない。
少なくとも筆者の観測範囲では、スポーツ中にきびだんごを摂取している人を見たことがない。実際に目撃していたとしても、「童話『桃太郎』に強い影響を受けたスポーティな人」としか思わなかっただろう。
しかし、それは筆者の価値観がアップデートされていないだけかもしれない。到着した実物に付属していた説明書き曰く、きびだんごにはエネルギー源となる糖質(炭水化物)が多く含まれているという。
さらに『スポーツきびだんご』は、発汗とともに失われがちなミネラルも補給できるよう調整されているとのこと。なるほど、とてつもなく合理的だ。つくづくぐうの音も出ない人生である。
もはや筆者にできるのは味を確かめることくらいのものだ。取り扱いやすい個包装になっているのも抜け目がないなと思いつつ、包装紙を剥き、中身を頬張る。
口に広がったのは、わずかばかりの塩味と、そこはかとないレモンの酸味。きびだんご本来の甘さに、それらの塩レモン風味がささやかに、無理なく自然に上乗せされている。
そもそも「元祖きびだんご」自体が口当たりの軽いものだったが、「スポーツきびだんご」はいっそう爽やかな味わいだ。しっとりと柔らかな食感ながら口内にへばりつくようなこともなく、後味が変に残ることも決してない。
まさしくスポーツ向けという仕上がりで、食べやすく美味しい。設計から何から、作り手側の気概がひしひしと伝わってくるようだ。きびだんごは単なる「童話メシ」ではないのだと。きびだんご界をイノベートする、新たな付加価値を創出するのだと。
俄然スポーツ用の軽食としてきびだんごが普及した未来を見たくなった次第だが、いかんせん世間はまだ「スポーツきびだんご」に気付いていない。微力でも当記事がその存在をアピールすることができていれば幸いだ。気になった方はぜひ入手してみてほしい。
何ならスポーツ関係なしに、純粋に新感覚の和菓子としてもお勧めである。そんなことを書いたら元も子もないではないかと言われれば、ぐうの音も出ないが。
参考リンク:廣榮堂 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.