原作にはない新シナリオや、CGを使った試合描写などすべてが完璧に噛み合い、まったく新しい傑作となった『THE FIRST SLAM DUNK』。
劇中で山王工業 vs 湘北の試合が行われた8月3日には、試合開始時刻に合わせて全国同時上映も実施。8月31日にはロングラン上映のラストを迎える。
山王工業といえば秋田県の強豪校・能代(のしろ)工業高校がモデルとされているが、エース・沢北栄治が願掛けをしていた神社ではないか、とささやかれているスポットが同県にある!
・「鳥海山ろく線」黒沢駅からスタート
旅のはじまりは、神社の最寄り駅である由利本荘(ゆりほんじょう)市「鳥海山ろく線」黒沢駅とした。
神社までは自家用車が圧倒的に便利だが、もし公共交通機関利用ならここが出発点となるだろう。
筆者は車だったので「観光マップもらえるかな?」というくらいの軽い気持ちで駅を訪れたのだが、着いてみると想像を超える絶景が待っていた。
小さな無人駅を中心に、真夏の青い空、一面に広がる緑の田んぼ、ゆるくカーブを描いて伸びる線路……!
写真加工なし、まさにこの印象のままの色彩が眼前に広がっていた。どこか懐かしくなるような、日本の原風景といったおもむきだ。新海誠監督作品に出てきそう……!
駅舎の中もまたエモい。筆者は電車通学など一度もしたことがないのだが、壁に貼られた時刻表や木のベンチなど、ものすごく既視感がある。日本人のDNAに刻まれているんだろうか。
意外にも列車の本数は多く、きれいに清掃されている様子からも地域に根づいていることがわかる。
ホームには「くろさわえきにきたよ」という看板が設置されていた。ノリノリだな。
劇中には由利本荘の地名は出てこないし、そもそも山王工業高校も、モデルはあれども架空の高校だ。秋田市の官庁街・山王(さんのう)地区にちなんでいるのだと思われる。
なので、今日訪れる神社もあくまで「似ている」「参考にされたのではないか」という域を出ないのだが、市長がコメントしたり、観光協会が聖地巡礼 MAPを作成したり。公共機関まで乗っかっちゃっているこのノリ……嫌いじゃない。
作品ファンが殺到してオーバーツーリズムで困っている地もあるとは聞くが、人口減少や活気の喪失などに悩む東北地方。これくらいの大らかさがあっていいと思う。
ちなみにここから神社までは沢北の足なら(?)走って9分らしい。
走って……
走って……?
ムリ。気温30℃超えてるわ。
・森子大物忌神社にやって来た
車で来た。駅から約2km、神社のすぐそばに駐車場や簡易トイレが整備されている。
こちらが、沢北が願掛けをした神社のモデルと噂されている森子大物忌(もりこ おおものいみ)神社!
大きな鳥居と、背後にそびえる杉木立。山の上方に向かって石段が続き、たしかに似ている!
よし、沢北のようにトレーニング……をする体力はないが、登ってみよう。
境内には誰もいない。昼間でも日陰になるほどの杉林に囲まれ、神聖な雰囲気。明らかに周囲とは空気が違う。本当に神様がいそう……
しかし、出会ったのは人でも神様でもなく大量の虫だった! トンボやチョウチョのような害のない虫もいたが、ハチ、アブ、ヤブ蚊など市街地では見ないようなびっくりするほど大型の虫が間髪を入れず突撃してくる。
石段は約300段! この点も沢北の登場シーンと共通する。
結構な急勾配で、それほど距離があるというわけではないが、ヒザが笑う程度にはきつい。軽々と駆け抜けるのは、やはり高校No.1プレイヤーだ。熱中症対策は必須。
石段の後半になると、ほどなく社殿が見えてくる。
登り切ると、落ち着いた造りながらも荘厳な社殿が現れる。ひっそりと静まりかえっており、普段は無人のようだ。
実際にはここから登拝道が山中に続いており、山岳信仰の修験道の領域となる。かつては女人禁制だったとか。
来場者を数えるカウンターが設置されていた。「いつから」のカウントなのかはわからないけれど、中国や韓国などからもそれぞれ20人以上が押されている。
まだ見ていない人……はあまりいないと思うが、ネタバレしない程度に表現すると、沢北はここでトッププレイヤーならではの願掛けをし、最終的にそれが叶う。劇場版オリジナルシーンながら、終盤につながる屈指の名演出、かつ伏線となっている。
本当に神聖な雰囲気だ。なにか特別な見どころがあるとか、名物グルメで知られるとかいうこともないのだけれど心が洗われる。SLAM DUNK関係なくとも、いい場所だ。これだから日本はおもしろい。
なお、山王工業高校のモデルとされる能代工業高校(現・能代科学技術高校)は、秋田県の北部にあるバスケの名門校だ。
学校のある能代市と、神社のある由利本荘市は距離にして100km以上離れており、沢北がランニングついでに参拝できる位置関係にはない。火曜サスペンスの京都のように「距離感はフィクション」状態となっている。
劇中には池も出てくるが、森子大物忌神社の鳥居横にも水たまりほどの小さな泉があった。亀はいなそうだが。
・バスケットに打ち込む寮生活
能代科学技術高校では全国から選手が集まり、寮生活を送りながらバスケットをするという。大都市圏とのアクセスは決してよくはなく、出身地との環境の違いに悩む寮生もいるだろう。
かつて神奈川県から同校に入学したNBAプレイヤー・田臥勇太選手も「(ジャンプを読みたくても)コンビニもない」と話していた。
けれどそのぶん、ひたすらにバスケットに打ち込む環境があるのだろう。夏の一日、秋田にはすばらしい景色が広がっていた。
しかしバスケットマンに好環境ということは虫にも好環境。お出かけの際は、くれぐれもご注意を。まだ耳元でヴヴヴヴと響く羽音の幻聴に悩まされている。
参考リンク:由利本荘市観光協会
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.