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【コラム】元汚部屋住人が部屋を片付けてから起こったこと / 第1回 私を汚部屋から救った何気ない一言

2023年7月18日

昨年「小ダサい部屋から抜け出したい!」という片付け連載をやっていて、今は結婚して引っ越して、片付いた部屋に暮らしている。

私は子供の頃から片付けが死ぬほど苦手で、上京してから20年近く散らかった部屋に住んでいた。部屋を片付けると人生が良くなる……とよく言われるけれど、あれは本当だと思う。というか、汚部屋に住んでたときは人生が負のループに入って地獄みたいだった。

だいたい5年ぐらいかけて、部屋を片付けてちょっとずつ人生がマシになっていったので、その経験を語りたいと思う。先に言っておくと、これは「部屋が汚い人は、今すぐ片付けろ」みたいな説教話ではない。どっちかというと部屋が散らかってて、人生うまくいかなくて辛い人に向けて「マジでこういう状態って辛いよね〜」みたいな話である。

・片付け方なんてわかんねえよ

子供の頃から片付けが苦手だった。3歳頃の私の声を録音したカセットテープには母に「おもちゃを片付けなさい」と言われて、ぶつぶつ文句を言っている私の声が残っている。そして小学校にあがると、ランドセルのかばんからグシャグシャになったプリントが出てくる系の女子になった。

未だに片付け自体は苦手で気を抜くとすぐ散らかるので、片付け偏差値は40ぐらいだと思う。リアルに「三つ子の魂百まで」だ。

片付けられないコンプレックスが加速したのは、大学進学で上京したころ。そもそも「女の子は片付けができて当たり前、できない子はだらしない」みたいな風潮があると思う。とくに2000年代は『女子力』みたいな言葉が声高に叫ばれ『女子の品格』みたいな本がバカ売れしていたので、女なのに散らかった部屋に住んでいるのが猛烈に恥ずかしかった。でも、片付ける方法が分からない。

当時は女子寮に住んでいたのだが、部屋は物であふれ、誰かが部屋に入ってきたら困るので寮の中で友達も作らず、部屋のドアを開けるときは誰にも見られないように隙間から逃げるように出入りしていた。自分の部屋なのに泥棒かスパイのような動きである。こんなに汚い部屋に住んでるって誰かにバレたら死ぬと思った。

とりあえず部屋は寝るだけの場所になった。家というよりもはや巣である。散らかりすぎて何もできないので部屋にいるときは天井を見て寝て過ごすか、携帯を見るしかなかった。また、ひとたび出かければ、散らかった家に帰りたくなさすぎて、家出少女のようにカフェとかウィンドウショッピングで時間を潰しまくっていた。

クサクサした気分を晴らすためにカワイイ雑貨なんかを買うのだが、私の部屋に置かれた途端にカワイイ雑貨は色あせたガラクタのようになってしまう。



・ある一言

そんなある日、寮の設備点検で部屋に人が入ることになった。その気になれば一日で片付けなんかできるだろう……と思っていたけど、片付けのために何をしていいのか分からない。

ただ右から左に物を動かすだけのムーディ勝山状態が続くばかりで進まない。ヤバい、ヤバすぎる。言い訳や居留守を使って何度も点検を先延ばしにしていたが、とうとう寮もしびれを切らして、ムーディ状態のまま点検が強行されることとなった。

点検にやってきたのは、山田さんという寮母さんだった。山田さんはメガネをかけた背が高い女性で、よく晴れた日の洗濯物みたいにカラッとした優しい人だった。さすがの山田さんも私の部屋の惨状を見たら怒るに違いない……と絶望的な気持ちになった。なんとなく山田さんには嫌われたくない。

「いや、本当に部屋が散らかってるんです、明日までに片付けるから待って下さい……」 

部屋の前に来た山田さんに対して、往生際悪く引き下がる私。

「いいからいいから、すぐ終わるから、チャチャッと点検するよ」

山田さんはいつもどおり、明るい笑顔である。

「いや、本当に部屋が散らかってるんでドン引きされると思います……」

恥ずかしくて消え入りそうな私をよそに、「いいからいいから、恥ずかしくないから」と部屋のドアを開ける山田さん。もう絶対に笑われるか、怒られるか、呆れられるに違いない……と絶望的な私に対して、山田さんは部屋の惨状についてはまったく何も言わず、笑いも呆れも怒りもからかいもせずに、サクッと点検を終えてニコニコしながらこういった。


「恥ずかしいって気持ちがあるってことは、大丈夫だよ」


絶対に怒られると思っていたのに、同情でも慰めでも説教でもアドバイスでもなく、たったそれだけの一言に、私は拍子抜けすると同時に、死ぬほど救われた。たしかに、このままではいけない、変わりたいって気持ちがあるから、恥ずかしくて部屋に人を入れたくないのだ。この一言が自分にとって汚部屋コンプレックスの大きな救いとなり、片付けの種になったのは間違いない。



この一言がきっかけで、さっそく私は部屋を片付け始めた……と言えたら美談なのだが、残念ながらそうじゃない。蒔かれた種が芽を出して、私が実際に部屋を片付けるのはそれから約10年後のことである。というか、働き始めてから寮を出て一人暮らしをした結果、むしろ汚部屋が加速して生活はしっちゃかめっちゃかになっていく。

きっと、この記事を開いてくれた人の中には、汚部屋を脱したいと思っている人が多いはずだ。私はあなたの部屋を決して笑わないし、馬鹿にしないし、同情もしない、怒ったりしない。私の体験談を読んで、誰かの心に小さな種が蒔かれて、なにかのタイミングで芽が出て、いつか小さな花が咲けばいいなと思っている。

次回は「汚部屋と不幸の負のスパイラル」について。まだ片付けないのかよ! って言われそうだけど、汚部屋問題はそう簡単には解決できないのだ。

執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.

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