もしかしたら、「鬼に金棒」という表現はもう古いのかもしれない。そもそも鬼というのは想像上の存在であるからして、正直あまりピンとこない。これからは「六花亭に肉まん」と表すべきかもしれない。
六花亭というのは、マルセイバターサンドで有名なあのメーカーのことである。同商品は土産界で不動の地位を築いており、当サイトでもその絶品ぶりをたびたびしつこく礼賛している。そんな六花亭が、驚くべきことに、肉まんも販売していることを皆さんはご存知だろうか。
「バターサンド以外に何を売っているのだろう」などと興味本位で公式HPを覗きに行った筆者には、確かに「六花亭は菓子専門」という思い込みがあった。そうした無防備な人間に浴びせられる「冷凍肉まん」の商品名がいかに痛烈であったかは語るまでもない。
が、それも無理からぬことだ。バターサンドに加えて肉まんも一流の品であった場合、世の理を超越した偉業である。すさまじく大股開きの二足のわらじであり、地平の端と端にいる二兎を得るような行いである。そんな並外れたメーカーが存在すると思う方が難しい。
しかし、本当に存在するとしたら。HPを覗こうとした時以上の探究心に駆られ、筆者は「冷凍肉まん」を注文した。価格は公式オンラインショップにて1個250円だった。
やがて到着した実物を前に、背筋を伸ばし、固唾と生唾が合わさったようなものをごくりと呑む。肉まん1つにここまで興奮するのはいつぶりだろうか。
ただ、懸念点もあった。すなわち調理についてである。蒸し器と電子レンジの2種類の解凍法があり、六花亭は「より出来たてに近い味をお楽しみいただくために、蒸し器のご使用をおすすめいたします」と記載しているのだが、我が家には蒸し器がない。
電子レンジを使うことでクオリティが損なわれるのだとしたら、蒸し器を持たざる己が身を凄絶に呪うことになる。とはいえ無いものは無いのだから、やむを得ない。固唾と生唾に苦汁が混じり込むのを感じつつ、肉まんを水にくぐらせたのち、ラップをかけて加熱する。
レンジから取り出した結果、そこにはかなり完璧に近い見た目の肉まんがあった。我が事ながら単純なもので、湯気につやめくその白い姿を見るや、気付けば安堵する間もなく大口を開け、かぶりついていた。
そして、思い知る。六花亭というメーカーの、げに恐ろしき手腕を。弾力のある皮を歯が突き破り、もちもちとした柔らかな生地を抜けた先に、ひき肉やたけのこなどの具材がひしめき合って待ち受ける。それぞれの風味は抜群に豊かで、噛むほどに粒立ち、口内に満ち満ちる。
実に美味しい。蒸し器でなくとも十分に、いや十二分に高品質だ。我が家のレンジが覚醒して神がかり的なパフォーマンスを見せたというより、商品自体が優れていると考えた方が圧倒的に正しい。そうとしか思えない。
やや甘めの味付けながら、しつこいなどということは全くなく、上品な旨味が優しく、それでいて濃厚に舌を包み込む。たまらない。調味料を使わずに食べたが、正解だったかもしれない。純粋な味わい深さがぐいぐいとこちらを引き込み、虜にする。
いやはや、こうなってしまっては認めずにいられない。「並外れたメーカー」は、ここに存在したのである。比べるものでもないが、バターサンドに引けを取らないくらい肉まんもハイレベルだ。なんとえげつない二刀流か。
などと思いきや、よくよくHPを確認したところ、肉まんのみならず「ドレッシング」や「おこわ」といった品目を発見してしまい、目まいを覚えた。最早わけがわからない。六花亭という名の迷宮はどれほど深遠なのか。
いずれはそれらも購入してみるかもしれないが、今は肉まんで手一杯だ。この瞬間はただ、白く柔らかな幸福に浸るとしよう。皆さんも興味が湧いたら、ぜひ筆者と同じ幸福を分かち合ってみてほしい。
この一品に出会えて良かったとつくづく思う。体験しているかどうかでは大きな差だ。昂揚のあまり、つい「鬼の首を取ったよう」な論調になってしまったが……いや、もうこの表現も古いかもしれない。「六花亭の肉まんを食べたかのよう」と表すべきか。
参考リンク:六花亭 公式HP
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.