長期の旅行に行きたいんだけど、先立つものは金である。宿泊費だけでも抑えることはできないだろうか? そう思っていた矢先、面白いサブスクサービスの噂を聞いた。そのサービスの名前は『LivingAnywhere Commons(略してLAC)』。なんと、たった月額2万7500円で全国40カ所の拠点に泊まり放題だという。
そんなバカな! 10泊したら1泊2750円やで? いくら何でも話がウマすぎる。これなんか裏があるだろ。1度入会したらなかなか退会できないとか。そこで登録して屋久島の拠点に泊まってみることにした。
・名ばかりの全国ではない
なぜ、屋久島かと言うと、私(中澤)が屋久島に行ってみたいからだ。行きたかった場所にたまたま拠点があるなんてラッキー!
と思いきや、拠点一覧を見ると、北海道から沖縄まで各地域に割と平均的に分布している。名ばかりの全国ではないようだ。まあ、それにしても屋久島にあるのは凄いけど。
・逆に落とし穴がないとおかしいレベル
ただ、気になるのは公式サイトの「共生」や「共創」の文字。ひょっとして、宿泊する代わりに協力して何かやらないといけないとかそういう掟があるのだろうか? 何かしらの罠がないと納得できない安さではある。
勘ぐりは尽きないのだが、全ては実際に行ってこの目で確認することにしよう。私は今からイエスマン。会員登録の情報入力は元より、現地で何かをお願いされたら全てイエスと答えて参加して、その様子をお伝えすることにする。仮にミッドサマーみたいになったとしても全てを包み隠さずお伝えする所存だ。
・登録してみた
さて置き、登録の手順に特筆すべきことはない。名前、住所、生年月日、連絡先など、宿泊するサービスに必要だろうという情報のみである。職業欄もあるが、これは必須ではない。Amazonでクレカを使えるくらいのリテラシーがあれば問題なく登録できるはずだ。
で、クレジットカードを登録する際、初回決済が実行される。その後は、1カ月ごとの自動決済で、2022年8月4日に登録した私の場合、次回更新は9月4日になった。屋久島には8月21日から28日までの1週間行く予定なので、帰ってきてから月額払いをやめれば1カ月分の支払いで済むはず。やめるのに何か条件とか縛りがなければだが。
・予約してみた
その結果は最後に検証するとして、もう1つ気になっていたのが、予約が取れるのかということである。拠点が40カ所あるとはいえ、1つの拠点の部屋数は限られている。つまりは、人気の拠点は予約でいっぱいパターン。屋久島なんてみんな行きたい場所じゃないだろうか? だがしかし……
あっさりと予約を取ることができた。予約できるのが1カ月以上先で、結局月額を2カ月分払わないといけないという事態も想定していたが、どうやらそんなことはないようだ。
ちなみに、空き状況の確認だけなら登録する前でもできるので、日にちと行きたい場所がガッチリ決まっている人は、登録する前に一度空いてるか確認するのも手だろう。
・一旦まとめ
しかしながら、予約の時点で気づいたことが1つある。それは定額払いで無料になるのはドミトリーということ。個室利用には1泊2200円の追加料金が必要なのだそうな。
もちろん、私が選択したのはドミトリー。せっかく月額を払っているのに追加料金は払いたくないっていうこともあるが、今回の場合、相部屋はむしろ歓迎かもしれない。あわよくば、LAC先輩の話を聞けるしな。
さて、予約が完了したところで一旦まとめておくと、予想以上にちゃんとしてる感じがした。予約直後には予約確認メールも来たし、普通に宿泊施設をオンライン予約するのと変わらない。
また、宿泊開始日の前日にも予約確認のメールが来たが、それによると、宿泊する『サウスビレッジ』には食堂が併設されており、朝食・夕食共に500円で食べられるそうだ。周りの環境は分からないが、少なくとも餓死することはなさそうである。
現状、特に落とし穴はない。とは言え、現地に行って逃げられない状況で初めて発動するタイプの罠だったとしたら余計にタチが悪いことも事実。というわけで、ここから先は突撃編だ。当日、実際に現地に行ってみた様子は次ページで!
参考リンク:LivingAnywhere Commons
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
・【サブスク検証】月額2万7500円で全国の拠点に泊まり放題!「LAC」がウマイ話すぎるので実際に登録して屋久島に行ってみた(2ページ目)
予約時点では特に落とし穴がなかったLAC。予約した宿『サウスビレッジ』は鹿児島県熊毛郡屋久島町平内258-24にあるという。と、そう言われましても、屋久島に来たことがないからどんな場所かピンと来ない。そこで私が現地に行ってみて感じたことを正直に伝えるなら……
鬼のような田舎だ。
屋久島は北から北東が中心地なのだが、平内は真逆の南西。そんな辺境・平内の、さらに外れにあるのがサウスビレッジである。
たどり着くまでの道のりについては以前の記事でご確認いただくとして、路線バスが最寄りのバス停「平内入口」に着いた時、私は本当にここなのか不安にならずにはいられなかった。何もないやん。
サウスビレッジはそこからさらに、森の中へ入っていくような道を進んだところにあった。良かった……本当にあって。
・共同で何かすることはあるか
当方、田舎育ちではあるが所詮は大阪。このレベルは初めてである。よって、人がいるのかすら不安になったが、受付をしてくれたスタッフさんの対応は丁寧だった。スタッフさんいわく、この拠点では、現状特に共同で何かをやるような決まり事やイベントはないそうだ。
私の部屋は二段ベッドが2つ置かれたドミトリータイプだが、私以外は予約は入っていないらしい。普通に考えると独り占めは嬉しいのだが、記事的に良かったのかどうかは不明である。全体でも宿泊しているのは7組ほどとのことだったから、結構余裕があるように感じた。
・田舎だからこそ
というわけで、面食らうほど田舎だった屋久島の拠点。しかし、拠点の中には浅草などもあるので、LACの拠点全てが田舎というわけではない。また、このレベルの田舎だからこその良さを、私はこの後味わうことになる。それは日がとっぷり暮れた後……
星綺麗すぎか。
絵に描いたような天の川。全然星を撮影するつもりじゃなかったのに、iPhoneXRでトライしてしまうほど凄かった。空の端から端まで星が詰まっている。さらには……
風呂最高すぎか。
風呂場は檜風呂と五右衛門風呂とシャワールームの3室があって、この時点で1泊3000円ちょっとの環境ではないのだが、その上風呂に入っていると川のせせらぎが聞こえる。まさしく心が洗われるようだ。
・テレワークしてみた
着いてしまえばなかなか快適であることが判明した。なお、LACの公式サイトにはコンセプトとして「場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)をともに実践することを目的としたコミュニティ」と書かれている。そこで翌日、コワーキングスペースでテレワークしてみたところ……
今日はこの環境でテレワークしていこうと思う pic.twitter.com/8Rox83sXyF
— 中澤星児(ロケットニュース24) (@sorekara_jona) August 22, 2022
窓から海が見えた。
仕事をしているのに解放感が半端じゃない。明らかに東京の私の家より良い環境だ。テラスまであるし最高と言わざるを得ない。ちなみに、WiFi回線も普通に使える速度。
本日はここでテレワークしてます pic.twitter.com/qB894z5vwM
— 中澤星児(ロケットニュース24) (@sorekara_jona) August 25, 2022
・オーナーさんに話を聞いてみた
調子に乗ってテラス席でテレワークしていると、平和そうなおじさんが声をかけてきた。挨拶程度の雑談をしていたところ、ミッキーさんと名乗るそのおじさんは、なんとサウスビレッジのオーナーさんだという。せっかくなのでLACについて話を聞いてみた。
ミッキーさん「LACの拠点には、LACが直接経営してる拠点と、連携してる拠点の2種類があって、サウスビレッジは後者なんです。なので、LACを介さないでゲストハウスとして使ったりシェアハウス契約をしている人も多いよ」
──とのこと。そう言えば、初日に対応してくれたスタッフさんが現在の宿泊者の中でLACの利用者は私だけと言っていた。そのため、ガチLACの拠点とはちょっと違うかもとも。LACってそういうシステムなのね。
・滞在者ファイルその1:ユウさん
では、LACを介さずにサウスビレッジに宿泊している人はどんな人がいるのだろうか? その日、食堂に夕飯を食べに行ったら、ユウさんという女性に出会った。サウスビレッジに1カ月くらい滞在しているというので、なぜここに来たのか話を聞いてみた。
ユウさん「離島を巡ってて、ここの前は石垣島に1カ月いて、その前は宮古島に1年いたんですね。で、南に来る前は、北海道とか、全国的にフラフラしてます」
──何がキッカケでフラフラするようになったんですか?
ユウさん「元々、ずっと同じところにいるっていうのが苦手で、同じ県にいても引っ越しはよくするタイプなんです。マグロ食べたいから青森の大間に行こう! とか。こういう生活ができるうちにやっておこうと」
──次はどこに行きたいとかはあるんですか?
ユウさん「う~ん、まだ考えてないですね。今、屋久島でバイトを見つけたところで、サウスビレッジも掃除とかお手伝いしながらシェアハウスとして契約してるんですが、いつまでいるかはわかりません」
──くしくも、ユウさんは私と同じ年くらいだったのだが、いち企業の会社員としては「こんな生き方をしている人もいるんだなあ」と考えさせられる話であった。
・滞在者ファイルその2:Mさん
そんなゲストハウス暮らしに相部屋の相手が入ってきたのは、週も半分に差し掛かった3日目のこと。ウェブで自営業をしているというMさんは、ネットさえあればどこでもできる仕事なことを生かし、LACの拠点を回りながら生活しているという。そう、LACの先輩だ。
Mさん「星を撮るのが趣味で、屋久島には星を撮りに来ました。3日前くらいに思いたって(笑)」
──そんなギリギリでも予約取れるんですね!
Mさん「そうですね。予約が取れないって感じは今のところないかな。まあ、LAC自体があまり知られてないからかも。
別のサブスクも使ってたことがあるんですが、こういうゲストハウスのサブスクサービスの中で、日本でまともに使えるのってまだ2つしかなくて、中でもLACは個人的にはコスパが良いと思うので重宝してます」
──この後も別の拠点に移動するんですか?
Mさん「八ヶ岳の拠点が人気で、なんでも温泉がついてるらしいので、そこに行こうと思っています。その後は友達に会いに浅草の拠点にちょっと寄る予定ですね」
──とのこと。これだけ泊まっても同じ2万7500円なんだから、私も一緒に八ヶ岳に行きたくなった。ちなみに、2ページ目前半の星空の画像はMさんが撮影したものである。
・滞在者ファイルその3:蜘蛛
まあ、この拠点で問題があるとすれば虫がヤバイことか。虫のサイズと元気さがヤバイ。男子トイレに主みたいな蜘蛛がいたのだが、動きが速すぎて初めて蜘蛛を怖いと思った。
しかしながら、そんな最強の蜘蛛がいるためか、逆にゴキブリは全然いない。そのことに気づいたら、怖かったものが頼もしさに見えてくるから不思議である。気づけば「今日も頑張ってるなー」としか思わなくなっていた。これぞ共生。
・滞在者ファイルその4:ムーちゃん
そんな虫にもすっかり慣れた最終日。帰るためにレンタカーで拠点を出発したところ、太い道に出たところで、金髪の男子が手を上げていた。まさかのヒッチハイクである。
この辺でバスを逃した時の大変さは身に染みて分かっている私。車を停車すると、助手席に乗り込んできた彼の名はムーちゃん。実は、サウスビレッジで何度か草刈りしているのを見かけていたのだが、話すのは初めてだ。
ムーちゃん「毎年、8月の1カ月間、サウスビレッジに来ていて。バカンスみたいなものですかね? 普段は、東京で自営業でオンライン塾をやっています」
──スタッフさんだと思ってました……。
ムーちゃん「手伝うかわりに住まわせてもらっているんですよ。もう今はないプランなんですけど、ずっと利用させてもらっていて感謝ですね」
──ムーちゃんにとっての屋久島の魅力は何ですか?
ムーちゃん「不便なところかもしれないですね。ローソンもファミリーマートもセブンイレブンもなくて、チェーン店といえば、モスバーガーとほっともっとだけじゃないですか?
無いものは無いから仕方ない。それって東京に住んでると感じられない感覚で、諦めとも言えますが、僕はそれがゆとりでもあるんじゃないかと思うんです。そうじゃないと追い立てられちゃうので」
──なるほど。言われてみれば、Twitterのトレンドとか1週間くらい見てないことに気づいた。東京にいる時は、次々と入れ替わるトレンドが気になって、見に行っては息苦しくなっていたのに。これもムーちゃんの言う「ゆとり」なのかもしれない。
同じ時間を過ごしていても、感じ方やその価値は生き方によって違う。そんな様々な生き方の人たちと共有した1つ屋根の下での1週間は私にとってはまさしく共創だった。ナンバーワンにもオンリーワンにもならなくていいじゃない。生き方は1つじゃないんだから。せいじ。
・定額をオフるまでが遠足
正直、このまま拠点を放浪したい気分だが、本記事は検証のため定額制をオフるまでが遠足だ。というわけで、オフってみた。マイページのマイメニュー内プラン変更で「定額払い」から「都度払い」に変更してみたところ……
あっさり月額基本料金なしになったぞ。ちなみに、都度払いとは、一泊毎に宿泊費を払うごく普通のパターン。いわゆるビジホみたいに使えるが、あの部屋で6600円は高いので長期滞在にはオススメしない。あくまで、短期とかお試しで泊まってみたいという人向けだと思う。
というわけで、定額制をオフるのもサイトでワンクリックで完了。これにてやっと言える。ウマイ話すぎるLACに落とし穴はなかったぞー!
っていうか、一旦オフったけど私もまた利用すると思う。バックパッカーや長期の旅行を考えている人は、行きたい先に拠点があればめっけもの。とりあえず拠点一覧を見てみて損はないだろう。現場からは以上です。
参考リンク:LivingAnywhere Commons
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼色んな出会いがありました
屋久島でまさかの顔バレ! お声掛けいただき、なんやかんやでお昼を一緒に食べました! 飛び魚! pic.twitter.com/ldDIafwbPb
— 中澤星児(ロケットニュース24) (@sorekara_jona) August 25, 2022