先日、文久元年に創業した、京都にあるにしんそば発祥の店『松葉』の本店にて「にしんそば」を食べた筆者。染みわたる美味さで非常に満足したのだが、どうしても気になることが1つ。
それは「たらそば」について。元祖「にしんそば」で有名な老舗が、長年連れ添ったニシンを差し置いて激推ししていたのだ。気にならない方がおかしい。このままでは東京に戻れない……。「たらそば」について探るため、筆者は再び「松葉」に向かった。
ということで開店時間ちょうどにお店までやってきた筆者。が、まだ準備中だった。オープンにはもう少しかかるとのこと。仕方が無いので隣の饅頭屋で買った「志んこ」なるものを食べつつ待つことに。
15分ほどして準備ができたようなので、いの一番に入店。ふたたび前回と同じ席にて、今度は「たらそば(1485円)」をオーダー。昨夜からのモヤモヤが晴れる時が来た! 気になってしかたが無かったのだ。
そしてこれが!
にしんそば発祥の店激推しの!!
たらそば……ッ!!!
「にしんそば」と並べてみるとこんな感じ。
・鰊鱈戦争
にしんそば の主な具材はガチにニシンのみ(ネギなどは除く)と潔(いさぎよ)すぎる仕様なのに対し、たらそば はタラのほかに とろろ昆布 がある。
そして、恐らくは香りの面で何かしらの効果を持つであろう柚子も浮かんでいる。にしんそば を刀一本で戦い抜くサムライだとするなら、たらそば は複数の武器を隠し持つ暗器使いのようだ。
まさかこうまでスタイルが違うとは思わなんだ。まずはそれぞれのメインウェポンから見比べてみよう。にしんそば は、一見すると極小なニシンが入っているだけに思いきや、蕎麦下に立派な一刀がおさめられていた。
対する たらそば は
ビジュアル通りにタラのブロックが何個か。メインウェポンでの勝負はニシンの圧勝と言わざるを得ない。先に にしんそば を食べた身からすると、たらそば のタラはちょっと物足りない。
魚としておおむねニシンより大きいと思うので、丸ごと1本とは言わない。だが、それでも器の直径くらいのサイズは欲しかった。ニシンみたいに。まあ、単価の違いとかもあるのかもしれないけど。
しかし、たらそば にはまだとろろ昆布と柚子がある。この2つは風味への影響がメインな気がする。もしかしたらタラ、とろろ昆布、柚子による三位一体の攻撃がニシンを粉砕する展開もあるかもしれない。ここから先は食べてジャッジすることに。
・ソフトかハードか
単体では圧倒的サイズ差でニシンに1本とられ済みなタラ。食べてみると、食感もニシンとは全く違うことが発覚。ニシンはハードめな食感だったが、タラは柔らかい! そして、柚子の香りが思いのほか染み込んでいて爽やかだ!
これは甲乙つけがたい……ッ! いぶし銀で安定感極まる風味なニシンに対し、華のあるハイカラな風味のタラ!! 具材の味での勝負は、例えば「モノクロ写真とカラー写真のどちらが勝っているか」的な、到底勝敗のつけようのない戦いに思える。
麺については、たらそば 同様に にしんそば もツルっとしたタイプで、そこはかとなく柔らかい気がする。どちらも同じ蕎麦で間違いないだろう。ここでも勝負はつかなそうだ。
しかし、スープの風味がかなり違っていた。いや、正確に言えば、恐らくベースのスープは同じだと思う。柚子ととろろ昆布の風味が盛大に溶けだした結果、たらそば のスープは にしんそば のそれと比べ華やいだ風味になっているのだ。
美味いことは美味いが、スープの主張も強くなっているため、元々あった染みわたるような美味さは減退している感がある。「気づいたら飲み干していた」というような展開は、どちらかというと にしんそば の方がありそう。
ではトータルではどちらが勝者なのか……? あくまでも個人的な感想として見て頂きたいが、筆者としては にしんそば に1票入れたい。2日ほど迷ったくらいに僅差だが、分け目となったのは、やはり「染みわたる感」の差だ。
たらそば は とろろ昆布に柚子も加わって手数が増え、味も華やかだが、しかし、どことなく「派手なものを食べたな」みたいな感じが先にあって、筆者にはなかなか染みわたってこなかった。
対する にしんそば は、全くニシン以外に何も持たないが、そのシンプルさがもたらす素朴な味わいは圧倒的。スッと染みわたってきて、疲れさせない。にしんそば は気づいたらスープを飲み干していたが、たらそば のスープは残してしまった。美味かったのだけど、ちょっと派手だった。
とはいえ、美味さそのものは優劣つけがたい。人によってはタラが好きかニシンが好きかというところでも感想が割れるだろうしな。みんなも機会があれば、是非食べ比べてみてくれ!
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 京都 総本家にしんそば・松葉 本店
住所 京都府京都市東山区四条大橋東入ル川端町192
時間 11:00~19:00 (LO 18:45)
休日 水、木曜日(祝日の場合は営業で季節による変更あり)
※上記の営業時間、休日は2022年1月時点のもの。新型コロナウイルスの感染状況によって変更される可能性が高いので、お店を訪れる前に公式サイトで確認を!
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼開店を待ってる間に、隣の『祇園饅頭』で買った「志んこ」なるもの。ういろう や すあま と同じようなものだった。この饅頭屋は文政2年(1819年)創業とのこと。歴史がヤバい。