ロケットニュース24

「コロナで生活に困ってます」という自称・留学生から手作りチョコを買ってぜんぶ食ったら…最終的に声が震えた

2021年6月14日

逆ナンかと思ったら、お菓子売りだった。何を言っているか分からないかと思うが、私も何が起きたか分からなかった。理解できたことといったら、私の目の前にいる女性が留学生であること、コロナで生活に困っているらしいこと、手作りチョコを売っていることだけだった。

──ここまで読んだ時点で、ピンときた人もいるかと思う。自称・留学生が「コロナで生活に困っているから手作りお菓子を買って欲しい」と路上で声をかけてくる事案は全国で確認されているからだ。

「手作りチョコ 留学生」などでググってもらえれば分かるかと思うが、同様のケースはすでに各種メディアで報道されている。なので、私も手作りチョコを売る自称留学生の存在は知っていた。

しかし、まさか自分が声をかけられるとは思っていなかった。いざ自分が当事者になると、どうすべきか全く分からない。あれから数日たった今も、正解が分からない。こんなとき、どうすべきなのだろうか?

・起きたこと

いま一度、私の身に起こったことを整理してみたい。ある日のこと。帰宅するために駅に向かっていた私は、1人の女性に呼び止められ、こんなメッセージカードを見せられた。


彼女は日本語が不自由そうで、あまり多くを語らない。その代わりにメッセージカードを見せ、同時にバッグの中からチョコレートの小袋を取り出すことで、私に “やって欲しいこと” を雄弁に伝えてくる。価格を聞くと、1袋500円だという。

その程度のコミュニケーションは成立するが、お世辞にもスムーズではない。なお、私が身振り手振りで「メッセージカードを撮影してもOK?」と聞いたところ、彼女は「私、日本語、下手、恥ずかしい」とやんわりNOの姿勢を見せたため、実物の写真は無い。

上にある画像のメッセージカードは私が書いたもので、実際はもっとキラキラしていた。語学学校の教室で行われる留学生歓迎会の室内装飾のようというか、小学生の頃に家でやった誕生日会の飾り付けのようというか、とにかく手作り感が十分に伝わってくるデザインだ。


さてさて……。ここからが本題だ。


あなたが私の立場だったら、どうするだろうか? 先に述べたように、私には今も正解が分からない。よって、本記事には「こうすればOKです」的な内容は一切記載していないことをご了承いただきたい。

もし本記事に何か役に立つ点があるとすれば、私の心に巻き起こった葛藤と “食べて知った事実” が、誰かにとって考える機会となるかも……ってことくらいだろうか。“食べて知った事実” の方は後半に説明するとして、まずは葛藤から紹介していきたい。

なお、私の葛藤自体が長かったため、文字に起こしたものも結構長い。読んでくれた人にとっては、「自分ならこうするね」とツッコミつつ考える きっかけになるかもしれないので、私の心に浮かんだ感情はポジティブ・ネガティブ問わず全てを記載しているからだ。

が、当然ながら中には「手っ取り早くどうなったか知りたい」って人もいるだろう。もしあなたがそのタイプなら、サクっとスクロールして「悩んだ結果」まで飛んでくれ


・ネックとなること

想像がつくかと思うが、彼女の言っていることが本当かウソか分からないってことが、事態を面倒にしている根本的な原因だ。警察でもない私からしたら、それを確かめる術なんてない気がした。こちらが質問しまくる手もあるが、彼女からすればウソなんていくらでもつける

彼女に悪意がある場合、都合が悪いことを聞かれたら言葉が分からないフリをすればいいだけのこと。よって、私が質問して本当かウソかを確かめるのは、有効な手段とは思えなかった。

だから考えるわけだが……考えたところでキリがない問題でもある。どれくらいキリがないかというと、私の場合はこんな感じだ。


・巻き起こる葛藤(心の声)

彼女が言っていることが本当なら、チョコレートくらい買いますよ。もともと甘いものが好きやから普通に食うわ。1袋といわず、5袋くらい買うよ。どうせ食うから。記事のネタにもなるしな。

彼女が営業許可を取ってるかどうかって点は怪しいけど、明日の生活にも困っている人間に許可を取る余裕なんてあるわけない。ましてや彼女は日本語が不自由な留学生。日本人でも役所の許可を取るのはたいてい死ぬほど面倒やねんから、彼女が無許可営業だとしてもそれはそれでしゃーないやろ。

ネットには非合法と分かった途端に叩きまくる人がいる。でも、彼女は500円の自作チョコ売るくらい生活に困ってんねんぞ。ここで500円を入手できるかどうかが、彼女にとって死活問題やねんぞ。そんな状態やったら、合法か非合法かなんてどうでもええやんけ。

あ、でも彼女からチョコを買ったところで領収書は出えへんやろな。記事にするとしたら、経費で落としたかったぜ……。まぁ、今回それは諦めよう。自腹で払うか。


……いや、待て待て!


彼女がウソをついてるって可能性もあるやん。コロナで生活に困っているとか留学で日本に来てるとか全部ウソってパターンが。最悪の場合、ここで払った金はヤバい団体に流れる可能性だって無きにしもあらず。反社の資金源? それはアカン。

まぁ、500円じゃあヤクザの昼飯代にもならへんやろうけれど、「こうやって同情を引けば買ってくれる」と思わせるところがアカン。それに、ウソをついてるヤツの手作りチョコなんて怖いやん。たぶん適当に作ってるし。無理に食ったらお腹こわすで。

だからチョコを買ったとしても、捨てるしかないかもな……。でも、それやったら最初から買わへんかったらええやん。でも、それやったら彼女にお金が入らへんやん。彼女が本当のことを言ってるとしたら、冷たい仕打ちやろ。

じゃあ、「チョコはいらないんでお金だけ渡します」って言う? でも、それってある意味で1番失礼かもしれへん。「お前の手作りなんていらんよ」ってことと同義やと受け取られるかもしれへん。路上ミュージシャンに、「演奏は聞きたくないけど金はやるわ」って言うのと似たようなもんちゃうんか?

そしたらチョコを買うかどうかって話は一旦置いといて、「○○の慈善団体に行ったら寄付金もらえますよ」的なことを彼女に言う? その団体を今からググる? いやいや、仮にピッタリの団体が見つかったとしても、彼女がすぐに寄付金をもらえるわけがないやろ。

そういうのって、大体時間かかるやん。もし運良くすぐに寄付金なり食料なりの提供を受けられる慈善団体が見つかったとしても、その団体の人だって彼女が本当のことを言ってるかウソをついているかは分からへんわけで。

それに、「生活に困っているから500円の手作りチョコ買って下さい」と路上で営業してる人に対して、「慈善団体に行ってください」はあまりに無機質な対応すぎる気がする。

それやったら、声をかけられた時点でスルーしている方がまだマシやろ。今の時点でガッツリ立ち止まって迷ってんねんから、もう無理やん。

つーか、なぜ俺は逆ナンかと思って立ち止まってしまったのか? 5分前の自分を本気で殴りたい。マウントポジション取って、上から肘を落としてやりたい。あのとき俺がもうちょっと理性的に行動さえしていれば……! クソ!!」


・悩んだ結果

上のように散々悩んだ結果、私は彼女を信じて購入することにした。当初は1袋(500円)だけにしようかと思ったのだが、そのときたまたま500円玉の持ち合わせがなく、1000円渡してお釣りをもらうのは気が引けたので2袋(1000円分)を買うことにしたのだ。


家に帰ってじっくり見ると、包装からして手作り感全開である。


賞味期限のシールはしっかりと貼ってあるものの、それで安心できるものではない。


むしろ逆に怖いが、ひとまずチョコを開封してみた。すると……


何より目についたのは、手作りを思わせるデコボコ感。正直なところ見た目からして食べるのは気が引けたものの、マズかったら最悪吐き出せばいい。そう思ってかじりついたところ……なんと!!



めちゃくちゃ美味い!!


どう考えても、適当に作ったチョコではなかったのだ。いわゆる、本気の手作り。もし彼女がウソをついていたらこんなに美味しく仕上げる必要はないだろうから、彼女の言ったことは真実である可能性が高い

おそらく、彼女は料理上手なのだろう。だからチョコ作りに自信があって、自分の腕で苦境を乗り切ろうとしていたに違いない……とか想像しながら、あっという間に1袋分を平らげてしまった


味を知って安心したこともあるが、正直に言うと私は女性が作ったチョコを食べるのが初めてであった。なので、「手作りチョコってこんなに美味いのか?」と感動しながら、サクサクっと食べ進めていったのだ。

だがしかし……。あろうことか、その直後に上がったテンションが一気に下がることになる。それはまさに急降下。と言うか、墜落。何が起きたのかは次のページへ!

執筆:和才雄一郎
イラスト:稲葉翔子
Photo:RocketNews24.

「コロナで生活に困っている」という自称・留学生から手作りチョコを買ってぜんぶ食ったら…数日後に泣いた(2ページ目)


チョコ1袋を平らげた私は、空になった個包装の包みを眺めているときに気がついたのだ。袋のラッピングやチョコ自体は手作り感が全開だったのに比べて、個包装の包みだけは妙に洗練されていることに。


いまどきは手作り用のキットなんていくらでも売っているだろうから、中にはオシャレな包みくらいあるだろう。そう思ったのだが、何か引っ掛かる。この違和感は何なんだと思いながら、包みに記載されていた言葉「Bianco Cuore」をググってみた。

その直後、私は軽く混乱した。スマホから顔を背けたくなった。もっと言うと、どこかへ旅に出たくなった。なぜなら……


似たようなチョコが……


楽天で……


売ってる!?


これは一体どういうことだろう? 彼女はたしかに「手作り」だと自らの口で言った。見せてくれたメッセージカードにも、そう書いてあった。にもかかわらず、楽天で似たようなチョコが売っているという現実。これをどう考えればいいのか。もしかして……

いや、焦るのはまだ早い。彼女の手作りチョコと楽天チョコが同じかどうかは分からない。似ているだけで別ものって可能性は十分にある。あるいは、彼女はどうしても個包装の包みが見つからなかったので、それだけ楽天チョコのものを利用した可能性だってあるじゃないか。

──と、思いながら、楽天でチョコレートを注文



届いた日に速攻で開封し、まだ残っていた手作りチョコと見た目・味を比べてみた。その結果……












これは……






買っとるな


下手したら……


楽天で買っとるな。


つまり……


手作りじゃないな


そうか、そうか。「生まれて初めて手作りチョコを食べた」と思ってテンションが上がっていたけれど、実はバリバリ市販のチョコだったってことか。手作りチョコリーグでようやくゴールを決めたと思ったのに、オフサイドだったんだね。

もっとキツいことを想像すると、あのときの彼女は手作りチョコをもらった経験がなさそうなオッサンを狙って声をかけていた……かもしれないってことか。

でも、それを言い出したら彼女自身が「手作り」の意味を知らなかったことも考えられる。つまり、「美味しいチョコレート」という意味で、「手作り」と言った可能性だってゼロとは言い切れない。日本語の難しさを考えたら十分あり得る。そうだろう?(震え声


[おわり]


参考リンク:楽天市場
執筆:和才雄一郎
イラスト:稲葉翔子
Photo:RocketNews24.


▼手作りチョコの正体。楽天で買ったものは1kgで2000円ほど。

▼自称留学生から買ったものは7個入りなので、そこまでムチャクチャな価格設定ではなかった。

▼「Bianco Cuore」はコストコが輸入しており、メイド・イン・イタリー。美味いはずだわ……。

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

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