人間、何事も溜め込みすぎるのはよくない。頭の中で膨らんだ不安やストレスが不調を招くことだってある。そして頭の中で膨らんだ「りくろーおじさんの店」もまた例外ではない。
その大阪の洋菓子店の評判は、名物のチーズケーキを称える声とともに、生粋の都民である筆者の耳にも届くことしきりであった。「どんな味なのだろう」と気になりつつ、時に多忙を理由に、また時に怠惰を理由に実食を先送りにしてしまっていたが、それにも限界があった。
今や誤魔化しが利かないほど脳内で肥大化した「りくろーおじさん」は、はけ口を求めて暴れ回っている。このまま放置してはおけない。向き合うべき時が来たのだ、「りくろーおじさん」と。
そういうわけで、同店のオンラインショップから名物のチーズケーキを取り寄せ、初実食してみることにした。価格は直径18cmの6号サイズのものが735円だった(消費期限は到着日含む2日程度)。
なんだか物凄く安い気がするので、「まさか非正規のりくろーおじさんをつかまされたか?」と思ってしまったが、届いた実物の外箱にはハチャメチャに大きな「りくろーおじさん」のイラストが印刷されており、これ以上ない公式感に溢れていた。
そう、筆者はこのイラストを知っている。同店のチーズケーキの特徴と言えば、こんがりとついた茶色い焼き色に、創業者の西村陸郎氏とおぼしきイラストの焼き印、そしてぷるぷるとした独特の質感である。何度もテレビなどで見たことがある。
外箱から中身を取り出したところ、焼き色や焼き印は噂に違わぬ様子であったが、冷蔵便ゆえにしぼんでしまっているせいか、まるで「りくろーおじさん」の脳みそのようなシワが入っていた。このままでも美味しく食べられるらしいものの、せっかくなので温めることにした。
外箱の記載によれば、まずケーキを6等分にしてから1つを切り出し、それを電子レンジで500ワット20秒~30秒ほど温めるとよいとのこと。はてさてどうなるかと思いながらも手順通りに温めた結果、だいぶふっくらした姿のケーキがお目見えした。
フォークで軽く押さえつけてみると、みずみずしい感触が返ってくる。これだ、このぷるぷる感だ。テレビでこのぷるぷる感を見せつけられるたび、こちらは歯をぎりぎりと鳴らしたものであったが、ようやく念願叶って体験できている。感動である。
とはいえ、肝心なのはここからだ。このみずみずしいチーズケーキを胃に収めねば、「りくろーコンプレックス」は解消されない。やや緊張混じりにフォークを切り込ませ、1口頬張る。
その瞬間、「りくろーコンプレックス」などというつまらない考えは霧散した。軽い、柔らかい、美味しい。なんと優しい口当たりであることか。ただただ衝撃が頭を埋め尽くしていた。
これはすごい。表面の弾力を越えた先には、ふわりと溶けるような食感が待っていた。噛むごとにケーキがまろやかにほどけ、広がっていく。くどすぎない落ち着いた甘さも相まって、舌への馴染み方が尋常ではない。1口で引き込まれるスフレ感である。
これほど食べやすいチーズケーキは初めてだ。濃厚な味を求める人には少し物足りないかもしれないが、この口どけのソフト具合、良い意味での仕上がりの軽さには、十分に一食の価値があると言える。
加えて忘れてはならないのがコストパフォーマンスの良さである。宅配の場合でも約6人前が700円程度というのはやはり驚異的だ。送料が別途1100円かかったが、実際それでも安い。評判になるのも頷ける。頷きながら胃袋にスルスルと収めてしまう。
そんなこんなで、筆者は初めての「りくろーおじさん」を通じて多大なる満足感を得ることができた。ただ、大阪の現地で提供されるそれはいっそう美味しいのだろうなとも思う。いつかは食べてみたいものだ。
暴れ回っていた脳内の「りくろーおじさん」は無事去っていったが、同時に決して消えない痕跡が残された。あの笑顔の焼き印が、しっかりと。
参考リンク:「りくろーおじさんの店」公式オンラインショップ
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.