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【東京発直通河口湖行き】中央線で最も寝過ごしNGな電車で終点へ / 「大月行き」を超える、禁断の隠しボス「河口湖行き」

2021年2月26日

中央線ユーザーにとって、一番寝過ごしたらヤバい電車といえば、やはり大月行きの最終列車ではないだろうか。今や定番ネタだ。昔から時折ネット民によって「終電寝過ごして大月駅に来てしまった」的な趣旨のスレッドが某掲示板などに立てられていたように思う。

昨今ではメディアやYouTuberによる「実地検証」も多く行われており、大月駅で一晩明かすことがどのようなものか、比較的明らかになった感がある。が、知り合いの鉄道ファンによると、どうやら中央線には大月行きを超える、絶対に寝過ごしたらマズい電車があるらしい

・隠しボス

それが東京発直通河口湖行きなのだとか。しかしそのようなもの、もっと話題になっていていい気もする。どういうことか聞くと、終点まで寝過ごしてしまう可能性がかなり低いからではないかと言う。本数が少なく、東京を出る時間が比較的早いこと、そして移動時間がとても長いためどこかで起きるのが普通だろうと。

しかし、万が一、色々なミラクルが重なり寝過ごして終点の河口湖まで行ってしまった場合、始発まで過ごすハードさは、知名度的にレジェンドな大月駅どころではないらしい。ゲームで言えば、出会うこと自体のハードルが高い、隠しボス的な存在だろうか。では……挑むしかないな


・東京発直通河口湖行き

ということで皆さんこんばんは。本日は土曜日で、時刻は19時過ぎ。東京駅の中央線、2番ホームにやってきました。まもなくここに中央特快 富士山・河口湖という表示の列車がやってまいります。そう、噂の東京発直通河口湖行きの電車です。今回はこれに乗って終点の河口湖駅まで行き、始発までの過ごし方を検証したいと思います。


東京発直通河口湖行きの電車は現時点のダイヤだと、平日に東京駅を出るのは18時8分と19時5分。


土曜・休日は18時9分と19時12分で、1日に2本しか走っていません。


ちなみに時刻表に「湖」とついているのが、河口湖行きです。


先に聞いていた通り、本数が少ないことと、時刻が比較的早いのはガチなもよう。これなら「大月行き」の終電のように、夜遅く疲れ果てていたり、あるいは飲んで酔ったまま乗る危険性は低そうです。

が、あり得ないとも言い切れません。昨今では感染症防止を目的として、20時で飲食店が閉まってしまう都内。ですが、仕事終わりに1人で黙って飲むという方だっていることでしょう。

18時に仕事を終え、1時間ほど1人でハードにリカーをキメて、19時過ぎの電車で東京や新宿から、その先の割と住宅街なエリアの自宅まで帰る……というパターンもあるのではないでしょうか。

そのようなことを考えていると、目的の電車がやってきました。


土曜日ですが、そこそこな乗客数。このあとお茶の水や新宿辺りでさらに乗客が増え、ほぼ満員となりました。


新宿を過ぎたあたりで私(江川)の意識は途絶え、目が覚めるとそこは高尾駅。普通に寝ていました。もし中野や杉並、武蔵野市辺りに住んでいたら、かなりのやっちまった感に襲われたことでしょう。ですが時刻はまだ20時18分なので、戻るのも余裕です。


今回の目的地は河口湖駅なため、高尾駅はまだまだ序の口。ふと車内案内表示装置を見ると、次が相模湖駅であることを伝える文言の下に、気になる一文が。


大月で切り離します


てっきり全車両がそのまま河口湖駅まで行くものと思っていましたが、大月駅で車両の切り離しが行われ、そこより先に走るのは7号車から10号車だけなもよう。寝過ごして河口湖まで行くためには、7号車から10号車に乗り込んで眠りに落ち、大月駅での切り離し作業中にも目覚めることなく爆睡し続けないといけません。

ちなみに私が乗っていたのは9号車。偶然にも最後まで走り続ける4車両の中の1つ。目覚めずに爆睡していたら、ガチに寝たまま河口湖まで行けたみたいです。ですが、高尾駅では接続待ちだかで停車中に割と長い時間ドアが開きっぱなしでした。その時にドアから流れ込んできた冷気で目が覚めてしまいました。

東京駅から河口湖駅までの全行程はおよそ3時間。多くの場合、さすがに約3時間のうちのどこかで、私のように目が覚めるかと思います。よっぽど酔いつぶれてでも居ない限りは大丈夫じゃないかなと。


・大月駅

高尾駅を出た時点で車両内はがら空き。まだ20時半くらいでしたが、1車両ごとの乗客数はせいぜい5人から10人程度でした。窓の外は現代人が抱える心の闇と同じくらいの暗さで、何も見えません

あまりに暇すぎてまた眠ってしまい、気づいたら大月駅でした。ここが中央線ユーザーが終電で寝過ごしたら絶望する駅のレジェンド……。ちょっとした感動がありますね。


途中で車両を切り離す列車に乗ったのは人生初。切り離しにはやはりそれなりに時間がかかるようです。そして、今回も開いたドアからの冷気で眠りから覚めました。やはり一切目覚めずに河口湖まで行くのは、かなり深く眠っていないと無理だという印象が深まります

9号車の乗客はついに私だけとなりましたが、隣やその奥の車両にはまだ何名か乗っているようでした。でも、全部で10人くらいしか乗っていないのではないでしょうか。


発車まではそこそこ時間があるようなので、切り離したところを見に行くことに。まあ、普通に切り離されていますね。時刻は21時5分。この時点では、まだ大月から都内まで戻る電車があります。ここで目覚めれば最悪の展開は避けられるでしょう。


ですが、今回はあえてそのまま乗り続ける企画。いよいよ電車は大月駅を発ち、窓の外は相変わらず何も見えない闇。面白かったのは、車内案内表示装置に富士山と表示された時くらいでしょうか。


ここ、富士山なのか……と、それなりの衝撃があります。馴染みのある東京ではなく、山梨であることを強く意識したのも富士山駅でのこと。もう助からない感が凄まじくします。もし本気で寝過ごして目覚めた時に「まもなく富士山」の表示を見たら、脱糞しながら泣いてしまうに違いありません。

ちなみに富士山は全く見えません。状況も実際に眼前に広がる光景も、文字通り真っ暗です。そして富士山駅から数分の後に、やっと終点の河口湖駅に到着。時刻は22時10分。予定より少し遅れての到着だったもよう。筆者の他に乗客は、3人くらいしかいなかったように思います。


せっかくなので、ここまで乗ってきた電車を正面から撮影。ここは山梨県の奥地ですが、そこにあるのは都心部でよく見る中央線です。現地の人からすれば見慣れた光景なのでしょうが、中央線 = 都内なイメージのある私としては、微妙な違和感が面白く感じられました。東京からの移動距離はおよそ114キロ。


そうこうしているうちに運転手さんが車両をどこかに移動させてしまいました。ホームには他に誰もおらず、ここにいても仕方がないので出ることに。周辺には電車がたくさん停まっており、何やらスタイリッシュな車両も。電車が好きな方なら楽しめそうです。


駅舎に電気はついていますが、改札口周辺に人気はありません。


改札を出て電光掲示板を見ると、そこには何も書かれていませんでした。駅舎内をウロウロしていると、ようやく駅員さんを発見。聞いてみたところ、まだ河口湖駅に来る電車が1本残っているそう。しかし、もはやここからどこかに向かう電車は無いとのこと。


平日であれば、19時5分発22時7分着の東京発直通河口湖行きの電車が到着したのちに、22時9分発の河口湖発大月駅行きに乗ることはギリギリで可能だそうです。この大月行きの列車は河口湖行きが到着しない限り発車できないそうなので、到着が遅れても乗り換えることはできるもよう。

ただし何らかの理由で大幅に遅れた場合は、富士山駅など別の駅での乗り換えになるそうです。とはいえ、戻ったところでそこは大月駅。都内から寝過ごしてきた者にとってはどちらにせよ希望を抱けないかもしれません。

ためしに、駅員さんにこれまで寝過ごしてここまで来てしまった人を見たことがあるかと聞いてみると、「いやー……滅多に無いですよね」「普通は大月あたりで起きると思います」「もしかして、お客さん寝過ごされたんですか?」。

河口湖駅舎は中々に広く、お洒落な感じ。さすがは富士山のふもと。きっと登山シーズンには賑わうのでしょう。ですが今はクソ寒い2月の終電間際。いるのは私という不審者のみ。一瞬、もしかしてここで一晩過ごせるのでは? と思いましたが、ほどなく施錠され、入れなくなりました


正面ゲートから見た駅舎はそこそこ凝ったデザイン。


駅前ロータリーはかなり広いですが、誰一人見当たらず、タクシーも停まっていません。富士山が駅の後方に位置しているはずですが、全く見えませんでした。完全なる闇。


さて、ここから始発までなんとか生き延びる方法を探すのが、今回のメインミッション。駅にいても凍えて死ぬだけということが分かったので、周辺を探索してみましょう。こういう時に役立つのは、松屋や吉野家、すき家といったチェーンの飯屋です。

都内は時短営業中でしょうが、ここは山梨県。時短要請はすでに解除されたため、その手の飲食店もまだ営業中なはず。ガッツリ食べ続けるなどすれば、2時間くらいは潰せるかもしれません。こんなこともあろうかと、今日は朝から何一つ口にしていませんからね。

ということでGoogle Mapにて検索すると、まさかの吉野家も松屋もノーヒット。かろうじて すき家を1.6キロほど先に発見。マップ上では周辺が商業施設になっているようです。そこなら他にも店がありそう。とりあえず向かってみることに。


駅を出て左に曲がってすぐのところに、ローソンとセブンイレブンがありました。


周辺は一応住宅街となっているようなのですが、都内やその近郊と比べると、驚くほど窓に明かりが灯っていません。また、通行人はガチに皆無。一般人の夜は早いもよう。朝が来て始発の「河口湖発直通東京行き」で帰るまでの間、私が目撃した人類は駅員さんとコンビニ、そしてすき家の店員さんのみでした。

そして歩いている道はこんな感じ。


街灯と街灯の間隔がめちゃくちゃ広く、歩道部分は微妙に舗装されていたりいなかったりして、わりと危険です。本気で足元が見えないため、2度ほど大きなくぼみに足をとられて転びかけました。私は平気でしたが、もし革靴やヒール、パンプスなどの人が同じ状況に置かれれば、足をくじいて終わりを受け入れるしかない可能性もあったでしょう。

途中で飲食店っぽいものもありましたが、どこも閉まっています。


道を間違えて、富士急ハイランド方面に行ってしまうというアクシデントがありましたが、どうにか すき家があると思しき商業施設に到着。もちろん閉まっています。スシローもあるもよう。


そしていよいよ、待望のすき家を発見! 道を間違えなくとも片道約1.6キロと少し歩く必要はありますが、始発まで待つことを考えれば、むしろ丁度いい暇つぶしと言えるでしょう。時刻は午前0時半。


ここで時間をかけて飯を食べまくっていれば、多少は時間も潰せ……と思ったのですが、窓から中を見た感じ、ストリートを車でアウトローに走る系なピープルがワイルドな雰囲気だったので、今回は見送ることに。

とにかく、ここに すき家があるのは間違いなく、24時間営業です。万が一寝過ごして河口湖に来てしまった方は、ここで食べ物でも買い、事情を話すなどして少しゆっくりさせてもらうのも手でしょう。あまり迷惑をかけてはいけないと思いますが。

あてが外れたので、今度はそこから2キロほど西にある、別の商業施設っぽい所に向かってみます。国道139号線沿いに真っすぐ歩くため、比較的明るく、歩道も整備されています。ときおり明らかにイリーガルな速度で爆走していくバチバチにチューンされた車が騒々しいですが、歩道の状態は快適です。国道139号って、そういうスポットなのでしょうか?

途中にはほとんど何もありませんでしたが、1つ気になる建物を発見。「激安市場」とあります。なんというストレートなネーミング。機会があれば、どれくらい激安なのか見てみたいものです。


ほどなくして商業施設に到着。「フォレストモール富士河口湖」という名称だそうです。やはり閉店していましたが、きっとここがこの近辺では最も栄えた場所なのでしょう。かなり広い敷地内に、お洒落な感じで色々なお店が入っています。近くにファミリーマートが1件あり、そちらは営業していました。


遮るものが何もないからか、ここだけやたらと強風が吹きすさび、めちゃくちゃ寒かったので早々に撤収。そういえば何も食べていませんが、まあ何とでもなるでしょう。時刻は午前1時過ぎ。まだまだ始発まで時間があるので、この際ですから河口湖を見に行くことに

Google Map的に、八木崎公園というところがグッドな感じに思えます。ここからおよそ3キロと、そう遠くありません。それでは張りきっていきましょう。この行程は、基本的にこのような道を来て……


このような道を行く感じです。国道からそれたため、疾走する車もついに消え去りました。何もないじゃないか! と思うかもしれませんが、闇と孤独がここにはあります。 


途中、闇に慣れた目に、白くキラキラするものが。なんでしょう?


何やら闇の中に設置されたオブジェ的なものから流れ出した水が、凍っていました。現場はとても寒いです。


公園に到着。


湖が見えるところまで行ってみると、橋や対岸の明かりが湖面に反射していて綺麗でした。肉眼では何も見えないほど真っ暗なので、懐中電灯や暗視スコープなど無しには入らない方が良いと思います。真っ暗な水辺は危険ですから。


しばらく公園で遊んでみましたが、こんなクソ寒い夜に真っ暗な公園で何やってるんだろうと正気に戻りそうになったので、撤収することに。


時刻は午前3時過ぎ。残すところ2時間ちょっとで始発です。まだ余裕があるので、最後に公園から見えた河口湖大橋を渡ってみようと思います。


橋の半ばあたりからの景色はこんな感じ。撮影時に肉眼では全く見えず気づきませんでしたが、よく見ると右端の方に富士山が少しだけ写っていました。全行程で、初めて富士山を捉えた瞬間です。


そのまま橋を渡り切り、河口湖漕艇場などを横目に直進していくと、またしても「激安市場」が! この感じ、山梨ではメジャーな市場なのかもしれません。


相変わらず闇の中で見ると廃墟感が滲み出ている建物。


激安市場を少し通り過ぎたあたりで時刻は午前4時40分。ここから河口湖駅まではおよそ3キロほど。そろそろ駅に戻った方が良さそうです。これで「東京発直通河口湖行」の最終電車(と言っても2本だけですが)にて、大月駅よりヤバいという河口湖駅まで行き、始発までの過ごし方を探求するというアホな試みは終了です。


・すき家

……というわけで、いかがだっただろう。河口湖なら富士山見えそう! とか最初は思っていたが、ぶっちゃけ肉眼では全く見えなかったぞ! 日の出が早い夏であれば、始発前に河口湖畔から富士山の雄姿を拝むこともできたかもしれない。しかし今の時期は最初から最後まで何もかもが闇の中

始発の3分前というギリギリのタイミングで駅舎裏にうっすらと富士山が見え始めたが、相変わらず肉眼では微妙な感じだったのでノーカンとしたい。

そして周辺には本気で何もなく、まともに時間を潰せそうな24時間オープンしていた店舗は すき家のみ。中には入らずじまいだったが、イートイン可能なはず。もしかしたらどこか他に24時間営業の飲食店などがあったのかもしれないが、今回歩いたルート付近には無かったと思うし、Google Mapにも出てこなかった。

コンビニはセブン、ローソン、ファミマが何件かあるものの、座って落ち着けて、雨風をしのげるような場所は他に見つけられなかった。今回はしっかりと天気を確認してから臨んだが、もし寝過ごしたのが雨や雪の日だったら、果てしなく絶望しかないだろう。ハードさが駅前に飲み屋やカラオケのある大月駅どころではないのは、心底本当だった。

偶然にも1日に2本しかない「東京発直通河口湖行」に乗り込んで、最強レベルの爆睡をキメてしまい、気が付いたら河口湖だった……という究極にミラクルな寝過ごしをしてしまった場合、駅から約1.6キロ離れた すき家が命綱だ! あるいは、大人しく何千円か出して「東横INN富士河口湖大橋」に転がり込むのがベター。いざという時は参考にしてほしい。

執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
ScreenShots:Google Map
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▼今回歩いたルートは大体こんな感じ。移動距離は11キロくらいなもよう。


▼河口湖駅改札周辺。


▼外には車両が展示されていた。


▼モ1号というらしい。


▼駅に足湯があるもよう。


▼一番バッチリと富士山を見られたのは、帰りの中央特快 河口湖発東京行きの車窓から。


▼河口湖畔の八木崎公園には、暗闇の中で見るとストーンヘンジっぽいオブジェが。そこで宇宙との交信を試みている様子。深い闇の中で一人暇を持てあました人がどうなってしまうのかを示した好例。

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