最近『いきなり! ステーキ』の「ワイルドステーキ」が美味しくなった……そんな噂をネットで見かける。閉店続きで低迷ぎみなのが明らかな中、社長からの長いメッセージが店頭に貼られて注目を集めてからしばし。最近話を聞かないなと思っていたところでの、美味くなったという噂である。
筆者自身は1年前の2月に初めて行って、微妙な感じだったため、好んで食べに行くことは無いと考えていた。しかし、本当に美味くなっているなら話は別だ。ということでかつて訪れたのと同じ店舗に行ってみたところ……微妙だと感じた原因が改善されていたぞ!
・カットは大事
その改善点とは、単純に肉のカットである。たかがカットと侮ってはならない。もちろん肉の部類やらグレード、熟成方法なども味を左右するが、カットもまたかなり影響力があるのだ。
ご存じの方も多いと思うが、肉質に合わせたサイズに、繊維を分断するようにカットするのがステーキの基本である。もし無駄にぶ厚かったり、繊維に沿ってカットしてしまうと、噛み切るために必要な力は一気に増大。いつまでたっても噛み切れないゴムの塊じみたものができあがるのだ。
初めて『いきなり! ステーキ』に入った時に出てきたステーキは、このカットが微妙だったと記憶している。霜降りでもないのに厚く、繊維の流れへの対応も、ところどころ甘かった。
きっとマニュアルは存在するだろうし、ちゃんとできている店舗もあったとは思う。しかし、少なくとも筆者が最初に入った店舗はパーフェクトではなかったのだ。これが統計などの話であれば、複数の店舗にて何百回もステーキを食べ、クオリティを細かく調べてから判断を下すべきなのだろう。
だが、1人の客がチェーン店に対して抱く評価であれば、最初の1回でNGが出たらそれまでというのはよくある話では? ということで、「微妙だな」という印象でフィニッシュしていた。
ちなみに、繊維に対するカットの仕方でどれほど噛むのに必要な力が変わるのかについては、America’s Test KitchenというYouTubeチャンネルが面白い実験をしている。
彼らは繊維に沿ってカットした肉と、繊維を垂直に分断するようにカットした肉を用意。同様の処置を施したのち、CT3 Texture Analyzerという装置を用いて噛むのに必要な力を計測。
繊維に沿ってカットした肉は、繊維を垂直に分断するようにカットした肉よりもおよそ4.5倍の力が必要だった……という結果を出している。詳しくは「Science: How to Slice Steak and Make Cheap Beef Cuts (like Flank Steak) Tender with Only Your Knife」という動画(英語)を見ていただきたい。
・美味くなってた
やや長くなったが、ここまでが前置きである。それでは、およそ1年越しに訪れた『いきなり! ステーキ』のカットがどうなっていたのか。端的に言うと、パーフェクトだった。まず出てきた段階で、横方向に流れる繊維を縦方向にカットしてちゃんと分断しているのがわかる。また、一切れの厚さが前より薄くなっている気がする。
赤身ばかりのステーキは程よく薄くした方がいいと思うので、これはグッドだ。とにかく厚ければいいという人もいるが、赤身に限っては違うと思う。考えてみてほしい。サシ(霜降り的なやつ)の入っていない赤身は、普通に筋肉の塊ではないか。焼いたら収縮して硬くなるものだろう。
前に来たときは、赤身だろうと脂身だろうと、とにかく一切れが厚かった。そのせいで噛みにくさが増していたのが思い出される。次に切り口を見てみると、斜めに繊維が流れるようにカットされており、どこから噛んでも繊維の断面が歯に当たるようになっている。
繊維が断ち切られていない面が小さくなるようカットされているおかげだろう。肉が焼かれて収縮する過程で生じる裂け目が、一切れのステーキのほぼ全ての面にできている。この裂け目からソースが浸透し、肉とソースの味が均一になっていて実に美味い。
ちゃんと程よい噛み応えがありながら、簡単に噛み潰せる厚さなのも素晴らしい。そして噛み潰せば、繊維同士の結合はあっさりとほぐれて美味い。いやらしく一切れ一切れチェックしながら食べたが、筋切りもされていて抜かりは全く無かった。ステーキ屋として真っ当な仕事である。
肉質については、前に来た時との違いは分からない。ぶっちゃけ肉自体の旨味は、前に食べた時も不満は無かったので。そんなことより、とにかくカットの仕方がめちゃくちゃ良くなっている。
・恐らくは
ここからは筆者の推測だが、『いきなり! ステーキ』の評価が人によって差があり、ある人は絶賛しながらも、またある人は酷評する原因は、理想的なカットが徹底されている店舗で食べたか否か……だったのではなかろうか。
爆発的に人気が出て一気に勢力を拡大したことからも、もともと美味かったはずである。肉質にしても、最初からそれなりに美味いと感じるに十分なものだったのだろう。最初から不味かったら、人気が出るはずは無いので。
しかし成長して店舗を増やしたことで、末端のスタッフの教育や、マニュアルの徹底にほころびが生じたのではなかろうか。そして昨今の低迷による店舗数の縮小で管理がしやすくなったか、あるいはマニュアルを見直して、徹底しやすいように改善したのでは?
その結果、人気が出ていたころのクオリティに戻った……的な。たった1回とはいえ、食通でも何でもない筆者があっさり見限るのに十分なほど微妙だったものが、同じ店舗で全く隙も無くパーフェクトな状態で出てきたのだ。理想的なカットが徹底されるようになった説を主張したい。
とはいえ、いくらマニュアルや教育を強化しようがスタッフの真面目さ次第。もしかしたら偶然パーフェクトなスタッフが肉の処理をしている時に訪れただけな可能性はある。
しかしSNSで「美味くなった」という声がちらほらささやかれ始めていることからも、改善が進んでいる可能性は高い気がする。今回食べたクオリティで約2000円なら、たまになら継続的に食べに行くのは全然アリだと思ったぞ! もっと安ければ最高だけどな!
中々に苦戦している『いきなり! ステーキ』だが、全ての店舗でこのクオリティを維持すれば、復活するのも無理ではないだろう。普通に美味かったし、美味ければ客も戻ってくるんじゃないかなと。今後に期待したい。
参照元:YouTube
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼繊維に対して垂直にカットした肉を噛むのに必要な力は383グラム。対して、繊維に沿ってカットした方は1729グラムも必要という結果。同じ肉でも、カットのしかたで約4.5倍も差が出たという興味深い内容(英語)。
▼微妙だった初来店の時の記録。写真も何も残ってないと思ってたら、食った感想を約1年前にインスタに投稿してた。