One for All、All for One。これはラグビーを表す表現として、しばしば使用される言葉である。1人はみんなのために、みんなは1つの目的のために──いよいよフィナーレを迎えようとしているW杯でも、気持ちの入った選手たちのプレーに涙した人は多いのではないだろうか。
特に史上初のベスト8に進んだ日本代表の結束力はスゴかった。前大会に続いて今大会も1つの目的のために一丸となり、世界をアッと言わせた活躍は記憶に新しい。今でも思い出すだけで泣けるが、なんとこの度フミさんこと田中史朗選手から話を聞ける機会に恵まれた。その結果、感動した記者(私)は同僚を抱きしめたのだった。
・六本木でのスペシャルトークショー
田中選手の話を聞けたのは、10月29日に行われたローレウス(スポーツを通じた社会貢献活動を行う団体)によるラグビーレジェンドスペシャルトークイベントでのこと。
登壇したのは元NZ代表キャプテンのショーン・フィッツパトリック氏、元南アフリカ代表のブライアン・ハバナ氏、南アフリカ代表のシャルク・ブリッツ選手、元日本代表キャプテンの箕内拓郎(みうち たくろう)氏、そして日本代表の田中史朗選手と豪華メンバー! ちなみにブライアン・ハバナ氏はW杯でベスト8の原動力となった福岡堅樹選手の憧れの存在だ。
話は主に日本開催のラグビーW杯について。海外から来たレジェンドたちの印象に残ったのは、日本の “おもてなし” や “リスペクト” の精神など。今回、大会中に台風の災害に遭ったが、日本という国が1つにまとまる姿は世界の模範と賞賛を惜しまなかった。
そして田中選手は反響の大きさに驚いていると語る。サッカーや野球をやっていた子どもたちがラグビーに関心を持つようになって嬉しい──とのことだったが、このあたりはググれば他メディアが詳しく書いているかと思うのでそちらを読んで欲しい。
・チームの結束力が高まった理由
さてさて、ここからは私自身がどうしても気になることがあったので田中選手に話を聞いた。ズバリ、どのようにしてチームは1つにまとまったのかということである。これはスポーツ選手だけでなく、どの組織でも当てはまることだからどうしても知りたかったのだ。
私事で恐縮ではあるが、私は元ラガーマン。どのスポーツでも似たケースはあると思われるが、スタメンを外れるとどうしてもギクシャクする光景を覚えている。それが一流の存在になればなおさら……と想像していたが、いかにしてプロフェッショナルたちはまとまったのだろうか。
──前大会もそうでしたが、今大会はより一層チームの結束力が高まっているように感じました。チームをまとめるために意識したことや皆で共有していたことはありますか?
田中選手「そうですねぇ、一緒にいる時間が長かったからこそ、常にミーティングをしている状況ではありました。トータルでいうと1年……250日近くずっといたので、その中でお互いが話す機会はありました」
──なるほど。一緒にいる時間が信頼関係を作っていたんですね。
田中選手「家族よりも長い時間、一緒にいましたからね。もう家族のようなもので、それがワンチーム……1つにまとまることができた理由でもあると思います」
──自然な形で結束していったということでしょうか?
田中選手「そうですね(^^)」
──ありがとうございました!
短い言葉ながらも、話の途中で胸を打ち抜かれた気がした。まるで家族のようと聞くと簡単なようだが、他人同士……ましてや超一流選手たちだからプライドだってあるはず。しかし、それを超越するほど日本代表には強固な信頼関係ができていたのだ。これはつまり “愛” と言っていいだろう。
そして私は自分を恥じた。他人同士が集まる環境で同じ意識を共有することは確かに難しい。思えば当編集部はそれぞれが自分の世界に入り、誰とも話さずに殺伐とした雰囲気の中で仕事をすることも少なくない。くっ……もっと周りと時間を共有しておけば……家族のように愛を持って接するべきだった!!
ということで、思い立ったら即行動。愛を持って同僚を抱きしめることにした。
そしてやるからにはトップに、であろう。感謝の気持ちを含め、上司だと普段はなかなか伝えられないことは多い。でも、今ならできる。
ボスのYoshioに後ろから近づき……
ギュッ!
最初こそ驚いていた(当たり前)が、田中選手の話をしたところ彼にも思いあたるフシがあったようだ。確かになァ……と遠くを見つめたYoshioは「俺にやらせてよ」と、仲間(部下)を抱きしめることにした。そして……
ギュッ!
ギュッギュッ!!
ギュッギュッギュッ!!!!
側から見ると私たちは何やってんだろうとも思ったが、そこに生まれたのは笑顔。ちょっと待てよ! 気持ちわりぃな!! ……と口では言うものの、いつもとは違うコミュニケーションをとることで一気に距離が縮まり、結束力も高まったような気がした。今の私たちなら強固なスクラムを組める!
何かを言い訳にしたり、粗探しなどをしてしまうこの世の中。しかし、田中選手の「家族のよう」という言葉でハッとさせられた。One for All、All for One。結束力に悩む人たちはぜひ “愛” を持って周りと接してみてほしい。1つの目標に全員で立ち向かえるはずだ。
・ラグビーW杯決勝に注目
最後に話をラグビーW杯に戻すが、決勝は11月2日の18時〜。イングランド代表と南アフリカ代表(スプリングボクス)が世界一の座を懸けて激突する。2007年大会の決勝カードが再び。ちなみに当時は15−6で南アフリカが勝利した。
余談ではあるが、これまでラグビーW杯は予選から全勝のチームしか優勝していないという歴史がある。イングランドはここまで全勝(1試合は中止で引き分け扱い)、対する南アフリカはプール戦の初戦でオールブラックス(ニュージーランド代表)に敗れている。絶対なんてないが、勝利の女神が微笑むのは果たして──。
Report:原田たかし
Photo:RocketNews24.