もはや賛否両論出そろった感のある、ビッグコミック2019年5月25日号に掲載された佐藤浩市氏のインタビュー。炎上はネットからだが、ワイドショーなどでも扱われたので詳細に関してはあまり説明する必要も無いだろう。
理由は後述するが、本件について個人的に関心を抱いていた筆者。ビッグコミックを入手して全文を読んだり、様々な立場の意見を読んでまわっていたのだが、すでに熱も冷めてきた今ならそう荒れもしないだろうし、ややガチめな見解を述べさせていただきたく思う。
・政治的スタンスについて
本題に入る前に断っておくが、本記事に書かれていることはあくまで筆者個人の見解や体験に基づいており、ユニバーサルなものではない。ロケットニュース編集部の見解とかそういうのとは無縁である。
また、本件には多様な政治的思想を持つ人々が見解を述べている。これから述べる筆者の見解が、いくつかの側面で他者がすでに公開している者と一致していたとしても、それがすなわち政治的思想の一致を示すものではないということも記しておこう。
ちなみに筆者的に好感度の高い政治家、あるいは国家の偉い人はエリザベス女王、チャーチル元英国首相、そしてグレース・ケリー公妃(超美人!)だけで、その他については等しく無関心だ。
・かくして炎上へ
さて、本件は実写化された漫画『空母いぶき』にて内閣総理大臣役を担う、佐藤浩市氏へのインタビューにおける、以下の部分の解釈をめぐって火がついた。
ビッグコミック「総理大臣役は初めてですね。」
佐藤浩市氏「最初は絶対やりたくないと思いました。」ビッグコミック「総理は漢方ドリンクの入った水筒を持ち歩いていますね。」
佐藤浩市氏「彼はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです。」
「空母いぶき」での総理大臣は垂水慶一郎という名前で、安倍晋三ではない。しかし総理大臣という役と、ストレスに弱くお腹を下してしまうという設定が、安倍首相を想起させる。
冒頭の「やりたくない」という佐藤浩市氏の発言もあって、安部首相を揶揄してお腹の弱い設定をブチ込んだと受け取る人が一定数発生。安倍首相が潰瘍性大腸炎という難病を患っていることは広く知られているが、揶揄は揶揄でも難病を揶揄しているという解釈が生まれ、大炎上へ。
・実は潰瘍性大腸炎キメてんだよね
経緯の概要はこんな感じだったが、まず個人的に関心を抱いていた理由からいこう。先述の通り政治には無関心極まる筆者だが、今回は潰瘍性大腸炎というワードがレーダーに引っかかったのだ。なぜなら筆者も潰瘍性大腸炎だから。
そんなわけで、ネットじゃ色々炎上してるけど実際なんて書いてあるの? と思い、ビッグコミックを買って読んだわけである。そして抱いた感想がこちら。
そんなに炎上するほどか?
まずよく調べず批判している意見についてだが、そもそもインタビュー自体本当はもっと長いため的外れなものが多い。確かに本文もこの引用通りであれば、揶揄という解釈しかないだろう。しかし最初の質問は
佐藤浩市氏「最終的にはこの国の形を考える総理、自分にとっても国にとっても民にとっても、何が正解なのかを彼の中で導き出せるような総理にしたいと思ったんです。」
と語って締めくくっている。この発言的に、佐藤氏はそう悪い総理大臣をイメージして演じてはいないだろう。ただし、この直後の2番目の質問(漢方ドリンク云々)にて、設定を変更した動機を述べていない。
述べていない割りに「ストレスに弱くて、すぐにお腹を下す」という具体的なイメージを総理大臣に関する話の中で持ち出している。これで潰瘍性大腸炎を患っている安倍首相を連想するなというには無理がある。明言していないからセーフとかそういう話ではない。
この点においては、なぜ変更したんだと批判されても仕方が無いだろう。また、変更の動機を述べていない以上、その部分をどのように解釈されても、佐藤氏の自業自得というものである。
なお筆者的には、そこそこよさげな架空の首相をイメージしていることから、揶揄するつもりは無かったと思っている。佐藤氏にとって初の総理大臣役ということで、演じるにあたり総理大臣の振る舞いやそれっぽさを出すための仕草などをきっとリサーチしただろう。
昨今最も入手しやすい総理大臣のモデルは、間違いなく現職の安倍首相。彼を想起させる特徴をあえてぶち込んだのは、安倍首相をモデルに総理大臣を演じる際に、単にその方が演技しやすかったからだけでは……と推測している。まあ真相はわからないが。
そして筆者的に一番「全部お前やろ」と言いたいのは、ビッグコミックの編集部だ。紙面がどう切り抜かれるか、またどういう解釈の余地を与えるかわかるやろ……という感じ。2番目の質問について動機を掘り下げてないのもむしろ気になる。
まあこの号は売れただろうなぁ。筆者自身ガチに生まれて初めてビッグコミック買ったし。
・マジでファック
インタビューに対する筆者の個人的な感想はこんなところ。他の潰瘍性大腸炎患者がどうかは知らないが、個人的には別に揶揄とも馬鹿にされたとも思わない。
それよりも、この騒ぎに乗じていろんな人が「苦しんでる人の気持ちを考えろ」的な発言をしているほうが気になった。果たしてどれくらいの人が、リアルな患者の気持ちを聞いたことがあるのだろう。患者の長期にわたるデイリーライフがどんな感じか知ってるのだろうか?
先述の通り筆者は潰瘍性大腸炎患者である。ちなみに昨日今日の話ではなく、実は10年以上前に診断を受けている。色んな職種で10年で大体ベテランという言葉が使われるので、筆者も潰瘍性大腸炎ベテラン勢を名乗ってもいいだろう。
そんな筆者がこの病気について一言で表現するなら、マジでファックな病気……である。「深刻な病気」とか「難病」とかではない。マジでファック。言葉から連想されるイメージも含めてこれが妥当に感じる。
マジでファックだなんてフザけてるのか!? などと言われそうだが、そういうわけではない。割とへヴィだし、実際苦労は多い。しかしそんな大層に扱われるような感じでも、特別に思いやられて丁重に扱われるべきものでもないぞと思っている。それで「マジでファック」なのだ。
こんなこと言うと「お前は軽度だからだ!」などと、この病気を知る人たちから言われそうだが、筆者は超重症ではないものの、たぶんそこまで軽くも無い。過去にはヤバいレベルまで追い込まれ、病院にブチ込まれてプレドニンなるステロイドを投与されたりしている。
また、重症度が一定ランクを超えたため「指定難病医療受給者証」なるものの発行を受けた経験もある。落ち着いている現在でも、メサラジン400mgなる錠剤を1日に9錠飲んでいる。かつて症状が軽いときは1日に6錠だったが、今は9錠なのでベストな状態ではないのだろう。
こんな感じで10年やってきているので「マジでファック」は適当な意見ではないし、特別に思いやられて丁重に扱われるべきものでもないというのも、軽口を叩いているわけではない。
・ハゲやぎっくり腰と似たようなもの
ではどんな感じで扱われるのが妥当なのか。個人的にはハゲやぎっくり腰と同じ扱いでいいと思っている。これだって大変なことだ。それこそ死ぬまで逃れられない悩みの種となるだろう。ぎっくり腰は生きていく上で何をするにも障害となるし、ハゲも含めて馬鹿にしては駄目なものだ。
かといって、そう大層に扱われるべきかと真面目に問われれば……そういう思いやりとかは、癌とかそういうもっと致死率の高い病気の人にどうぞと思わないだろうか。潰瘍性大腸炎はそんな感じだ……と一人の患者として考えている。
また今回の件で、この病気がストレスに弱いということを初めて知った方もいるだろう。これについても色々言われているが、実際どうなのだろうか? 筆者の経験的に「ストレスに弱い」のはガチだ。
発症の原因は不明なので、ストレスとの関係性も不明。しかし発症して以降は、ストレスに対してかなり気をつける必要があると感じている。ただし、ストレスを精神的なものに限定した場合は別にそうでもない。そこは人それぞれの精神的なストレス耐性次第だと思う。
それ以上に影響があるように感じるのが、体へのストレスだ。たとえば気候や生活サイクルの急激な変化によるストレス……具体的には寝不足や、季節の変わり目などにつきものの気温の急激な変化による、精神的には認識しづらい体へのストレスだ。
健康な人でもこの手の影響で風邪をひいたりするだろう。そういうのに対し、腸がマジで弱い。私的な話だと、先日ゲームが面白すぎて徹夜でプレイしまくっていたら、心は幸せいっぱいでも体は寝不足と疲労によるストレスでやられたらしく、あっさり下血した。
まあなんとなく予想していたし、ワンチャンあるかな? なんて賭けに出てそれに負けただけなので大いに自業自得である。なお、さすがに下血したらビビって消化にいいものを食べたり、夜更かしを控えたりするし、大体の場合そのうち落ち着く。ダメな時は舌打ちしながら入院するのである。
ネットで一部言われている「潰瘍性大腸炎患者の食事制限」は、重症になったときのものだ。それは普通の潰瘍や、ウィルス性の腸炎でも同じだろう。腸の表面がただれて出血したりしているので、消化しやすいものしか食べられないか、あるいは点滴のみで過ごすことになる。
筆者も何回かそんな感じになったが、今の時代お腹の痛みは痛み止めでどうにかなるし、点滴で過ごすのはぶっちゃけ何の苦もないこと。むしろ合法的にゲームしたり漫画読んだりソシャゲして寝るだけの生活を送れるので、金がかかる以外はボーナスステージだと思っている。正直骨折のほうが辛い。
そして症状が落ち着けば、ラーメン食べたりお酒を飲んでいても平気だ。筆者のインスタを見ていただければわかると思うが、しょっちゅう酒を飲んだり、怪しげなモノを食べたりしている。この病気は、付き合いが長くなればなるほどコントロールできるようになるのだ。
・程よい感じで
いかがだろう。潰瘍性大腸炎について、なんとなくわかっていただけただろうか? ちなみに今気づいたが、筆者が10年以上もこの病気なことについて、特に血縁者などにも一切伝えていなかった。先にも書いたとおりガチで「ハゲやぎっくり腰と同じようなもの」と思っているからだ。
ある日ハゲ始めたことに気づいても「ハゲちまったよ!」と伝えて回ったりしないでしょ?
とはいえ、軽い病気でないのも事実。最初に診断を受けた時には結構気分が沈むものだ。何せ一生付き合うか、大腸を取ってしまうかしかないのだから。
筆者はそこそこの重症と軽症の狭間を行き来してきたからこそ、余裕を持てている自覚がある。しかしもしこれが10年前の、診断を受けてすぐの頃だったら感じ方は違っていたかもしれない。
他の病気でもよくある話だが、最初は症状が重くなってから病院に駆け込むことになりがちなのだ。(皆もすぐ病院行かないでしょ?)そして、症状の重いときの地獄具合はマジでヤバく、何の誇張もなしに1日中トイレから離れられないし、延々と下血するのである。
筆者もそのパターンで、かなり重症になってから病院に駆け込んだ。そして「一生これかよ……!」とか思ったりしたのだ。だが冷静に考えて欲しい。ずっとその症状なら、間違いなくすぐに死ぬ。
しかし難病情報センターによると、潰瘍性大腸炎患者の寿命は一般の人と変わらない。そう、そのヤバい状態は治療でどうにかなるのだ。手術で腸を取ったらもう再発はしないし、取らなくてもそのうち自分なりのコントロール方法が見えてくるもの。
SNSでもちらほら見たが、症状が悪い最中に本件が話題となり「こんなに大変なのに!」と、この病気に対して気遣いを求めていた患者の方にはあえて言いたい。辛いのはわかるが長期的に考えようぜと。
腸を取らない限り治らないし、全く症状が無くなる時もあるかと思えば、急激に悪化して病院送りになったりもする。そんな病気に周囲を気遣わせたって後で面倒だろう。無駄に気遣われていたら、調子のいいときに好きな物食べたりしにくいぞ!
また過剰に軽んじている部外者には、明日は我が身だぞと言いたい。原因が不明な以上、回避方法も不明。しかも年々患者数は増えているのだ。無駄に軽んじていればいるほど、発症してからのブーメランは痛いだろう。なお馬鹿にするのは論外だし、かける言葉も無い。
色々書いてきたが、まとめると潰瘍性大腸炎は難病だし厄介ではあるが、だからといってめちゃくちゃ気遣われるようなものではないと言いたいのだ。むしろそんなことされたら症状が軽い時期に人生を楽しめない患者が増えると思う。
今回はどうにも色んな方面でいき過ぎな意見が、部外者と患者の両方から出ていたように感じた。そして冷静な患者の声が徐(しず)かなること林の如く。その辺が気になったので、こういう意見もあるぞと、本コラムを書いたのだ。
最後に一つ。この手の病気の人に対する接し方についてだ。「大丈夫?」とか「お大事に」とか「頑張って」といった言葉をかける方は多いと思う。言われた方は実際の状態とは無関係に「大丈夫です」か「ありがとう」と返すだろう。
この声がけについて、心底嬉しく思う患者もいる反面、めちゃくちゃ面倒に思う人もいるのだ。ちなみに筆者は後者。礼儀知らずな! とかよく言われるのだが……ぶっちゃけ言葉だけかけられても治療費の負担が減ったり、症状が改善したりしないので全く有難くないのだ。
ガチで苦しくてずっと寝ていたいような状況ですら返事を求めてくる人も割といて恐ろしい。筆者個人の統計によると、このやり取りに対する印象は無か憎悪かの2択。ゼロとマイナスでトータルではマイナスである。
かつては何も考えず、そして大して気持ちも込めずに「お大事に」とか言っていた筆者。しかし自分の経験から、今では相手が言われて喜ぶタイプか否かが明らかになるまでは何も言わないし、他人の病気や怪我についてはそう要求されない限り一切触れないことにしている。参考までに。
参考リンク:難病情報センター、小学館「ビッグコミック」
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.