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切り裂きジャックの正体解明に進展か? DNA鑑定を用いた調査論文が公開されるもまさかのオチ / 一部で誤報道も

2019年3月19日

「迷宮入りの未解決事件」……いささか不謹慎だとわかってはいても、野次馬根性をかきたてられてしまうパワーワード。数ある迷宮入り事件の中でも、恐らくは世界でもっとも有名なものの内の一つであろう「切り裂きジャック」。

1888年にイギリスで発生した連続殺人事件ですが、最近では漫画やアニメに出たり幼女化してゲームに出たりと、もはや創作活動のモチーフ的な存在です。そんな「切り裂きジャック」について、2019年3月12日付けでDNA鑑定を用いた調査論文が公開されました。ついにジャックの正体もわかってしまうのでしょうか。期待しながら見てみると……えっ、そんなオチ!?

・DNA鑑定は3度目

ちなみに、本件の調査にDNA鑑定が用いられるのは今回が3度目。1度目は当時新聞社などに届けられた切り裂きジャックを名乗る者からの手紙から採取されたDNAを、作家のパトリシア・コーンウェルさんの依頼で調査したもの。

この調査ではウォルター・シッカートという画家が捜査線上に浮かび上がりましたが、そもそも手紙が本当にジャックからのものなのかが不明という理由などから、解決とはされませんでした。

そして2度目は今から数年前の、リヴァプール・ジョン・ムーア大学の科学者ヤーリィ・ルーヘレイネンさんによるもの。こちらでは、4番目の被害者キャサリン・エドウッズさんの遺体のそばにあったとされる、シルクのショールについた血液と精液から採取したDNAを鑑定。

その結果、事件当時も被疑者の1人として名前の挙がっていた、ポーランド出身の理髪師アーロン・コスミンスキーさんが真犯人とされました……が、鑑定結果にミスがあったことが判明。結局なかったことになりました。

そして3度目の正直ともいえる今回の調査。行ったのは、2度目と同じくルーヘレイネンさんで、DNAサンプルは前回同様にシルクのショール。リベンジというところでしょうか。

しかも今回は、有識者達による査読を受けての論文発表ということで、信憑性を高めています。イギリスの名門リーズ大学における、精液の専門家デイビッド・ミラーさんと共著しており、気合も入っています。きっと前回の失敗が悔しかったのでしょう。

・子孫とDNAが一致

気になる調査の結果、犯人として浮かび上がったのは……2度目同様にアーロン・コスミンスキーさん。シルクのショールから検出したDNAサンプルの鑑定結果が、被害者であるエドウッズさんの子孫と、コスミンスキーさんの子孫のものと関連性が認められたそう。


ということで、犯人はアーロン・コスミンスキー!


切り裂きジャック、完!!


……


……


とはなりませんでした。残念。


・誤報道

今「切り裂きジャック」でググると、すでにこのニュース、日本語でも出てますね。これ書いているの3月19日午後4時頃なんですけど、一応クリックして読んでみた感じ、なんだかコスミンスキーさんが犯人ということにされてしまっていますね。



これ! ちょっと違いますから!!


コスミンスキーさんまだ犯人じゃないですから!!!


なぜなら、今回の鑑定で調査に使われたDNAがミトコンドリアDNAだから。高校や大学で生物学をやっていた方なら「あっ……」って感じではないでしょうか。

「こちとら文系だよ!」という方や、「選択は物理化学に決まってるだろうが!」という方のために、めちゃくちゃ簡単に説明しましょう。

・核DNA

実は人間から採取されるDNAは一種類ではありません。よくドラマや映画などで「DNAが一致した」的な感じで犯人が特定される場合のDNAありますよね。あれは核DNAというもの。日常会話でDNAと言って意味するのは、この核DNAのことでしょう。

全ての祖先から受け継いだ遺伝情報が含まれており、一人ひとりで固有です。論文内だと大抵nuclear DNAとかnuDNAなんて書かれています。メンデルの法則とか、46本の染色体とか、中学の理科で聞いた覚えがあるのではないでしょうか。まさにアレです。


・ミトコンドリアDNA

それに対して、今回の調査に用いられたミトコンドリアDNAは、基本的に母親からのみ受け継がれます。しかも、何世代にもわたってほとんど変化せず、同じ母親から生まれた兄弟姉妹間ではほとんど同じ、場合によっては完全に一致するというタイプのDNA。

そのため、世間にはほぼ同じミトコンドリアDNAを持つ赤の他人がいっぱいいます。論文ではmtDNAという表記。これを読んでいるあなたも、日本人同士なら割と近いところで筆者と血が繋がっている可能性がありますから、ミトコンドリアDNAが似ていても不思議ではないレベル。僕とあなた、ふたりはミト友

もちろん、ミトコンドリアDNAが違えば、確実に犯人ではないことはわかります。しかし、ミトコンドリアDNAが一致していても犯人は特定できないのです。多分当時のロンドンで、コスミンスキーさんと同じミトコンドリアDNAを持つ人は沢山いたはず。

この部分はサイエンス誌やIFLSCIENCEなど、色々なサイエンス系メディアに指摘されてしまっています。ということで、結局今回の論文で明らかになったことはあるのか? まとめると……


特に無し(^q^)


強いて言えば、コスミンスキーさんとエドウッズさんが縁遠いことは明らかになりましたが、そんなのわかっても……ね? 真犯人は相変わらず不明。特に進展はないというオチでした!

なお、ミトコンドリアDNAに突っ込まれるのを予期していたのか、論文の概要では「これはあくまで現在におけるもっとも進んだ調査です」と締めくくっています。はたしてジャックの正体が明らかになる日は来るのでしょうか。

参照元:Wiley Online LibraryScienceIFLSCIENCE(英語)、Google検索
執筆:江川資具
イラスト:Wikimedia Commons

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