以前の記事で、「自ら命を絶ったデス・ブラックメタラー10人」を紹介した。デスメタルやブラックメタルの世界では、気性が激しかったり、病んでいる人が多く、一般人よりも自殺率が高いのではないだろうか。もちろん温厚で人徳をわきまえたジェントルマンも数多くいるのだが、ジャンル全体の傾向としては荒っぽく粗野だったり、逆恨みを募らせる復讐心の強い人たちが多いのは否めない。
そんな気性の激しいデスメタル、ブラックメタルの世界で「自死」による死ではなく、「他殺」による死、つまり何らかの事件に巻き込まれて殺された人はどの程度いるのだろうか? 今回は殺されたデス・ブラックメタラーを追ってみよう。
メインストリームメタルの世界で言えば、Panteraのカリスマギタリスト「ダイムバッグ・ダレル」が、2004年にライブの最中に元海兵隊員に射殺された事件が有名だ。以下はデス・ブラックメタルの世界での事例である。
・Avaejee
タイを代表するブラックメタルバンド「Surrender of Divinity」のベースボーカル。2014年、彼をエセサタニストと非難する「Prakarn Harnphanbusakorn」によって、自宅でナイフによって刺殺された。享年34歳。
2012年には来日も果たし、「Demonized Productions」のレーベルオーナーで「Zygoatsis」という別のバンドでも活躍するタイを代表するブラックメタラーだったため、その悲報は衝撃を持って報じられた。
・Euronymous
『最も有名な自殺したブラックメタラー』が「Mayhem」のDeadであれば、「最も有名な他殺されたブラックメタラー」は同じバンドのEuronymousで異論はないだろう。ノルウェーブラックメタル界の中心人物だったが、1993年に「Burzum」のVarg Vikernesによって刺殺される。享年25歳。
この殺害事件は各種雑誌やウェブサイトで語られているので、ここで詳述する必要はないだろう。
・Taakedahl
ノルウェーのブラックメタル「Evig Hat」のベーシスト。2011年に発生した死者数77人に上るノルウェー連続テロ事件の被害者である。犯人は現在世界多の大量殺人犯として有名で、狂信的な右翼思想の持ち主アンネシュ・ベーリング・ブレイビク。Taakedahlはオスロ政府庁舎の爆発現場ではなく、ウトヤ島銃乱射の方で命を落とした。
彼が政治的にどういう姿勢を取っていたかは不明だが、ノルウェーのブラックメタルと言えば、ナチズムや白人優越主義を唱えることで知られており、そういったスタイルのジャンルのバンドのメンバーが、よりによって同じような思想を持った狂信的テロリストによって殺害されたのは皮肉な話である。しかも「Evig Hat」とは英語で「Eternal Hate」という意味で尚更だ。
・Scott Williams
ルイジアナ出身のスラッジを織り交ぜた独特なサウンドで知られるグラインドコア・バンド「Soilent Green」のベーシスト。彼は38歳だった2004年にルームメイトによってレストランで射殺された。
なお、その直後にルームメイトも自殺。実はこのバンド、2005年に初代ボーカリストがニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナによって命を落としており、何かと不運が続いていることで有名だ。
・Keith Chapin
ヴァージニア出身のグルーブメタルバンド「Download」のボーカリスト。2009年のクリスマスに自宅にいたところ、隣人によって銃殺される。実の兄も撃たれたが一命を取り留める。バンドはその後「 Remnants of Honor」に改名した。
・Herr V.C.
オランダの国家社会主義的傾向を見せるブラックメタルバンド「Calslagen」のベースボーカル。Herrはスペイン人の母親の元に生まれたが、生まれた4カ月後にオランダ人女性と、中国出身の夫の養子になった。後に夫婦は別れるが、義父は法輪功の信者で、長年精神を患っていた。
2006年の10月3日、義父は彼を斧で殺害し、遺体をバラバラに解体した上に、油によってその遺体を調理。後に逮捕された義父は中国に送還された。オランダ中を震撼させた猟奇的事件である。まるでゴアグラインドの歌詞を地で行くような、凄惨な話の被害者がブラックメタラーというのも皮肉である。
・Melissa Nordell
スウェーデンのデスラッシュメタル「Cryptic Art」でベーシストを勤めていたMelissaは、22歳だった2001年に鎖が繋がれた状態で遺体となって、湖から発見された。別れ話のもつれから、交際相手だった「Hell’s Angel(暴走族)」によって殺害されたことが判明。
彼女はモデルとしても活動しており、生前の写真を見ると『トゥームレイダー』に出演していたアンジェリーナ・ジョリーに似ている。
・Matthew John Hall
ニュージーランドのウェリントンで長年人気のあったデスグラインドバンド「Backyard Burial」のボーカリスト。彼は35歳の2011年に、複数の刃物による傷を負った状態で死んでいるのが、ルームメイトによって発見された。
警察がこの事件に関してデスメタルバンド「Bulletbelt」のボーカリストを事情聴取した直後に、鉄道に飛び込み自殺した。このボーカリストは交際相手に、Matthewを殺害したことをほのめかしていた。
・Julio “Corpsegore” Garcia
エルサルバドル出身のブルータルデスメタルバンドとして世界的にも知名度が高く、日本でも一部のマニアの間で人気のあった「Kabak」のベーシスト。2001年に酒場で発生した喧嘩で、実のいとこを守ろうとしたところ巻き添えを食らって死亡。享年26歳。
Kabakはその後、解散しバンドの主要メンバーはフィンランドに移住し、現在も「Kataplexia」や「Thrashgrinder」といったバンドで活動中。
・Jack
インドネシア、バンドンのブルータルデスメタル「Devormity」のボーカリスト。2014年に首を絞められて殺される。享年22歳。インドネシアのデスメタルシーンでは病死、事故死、殺害死などの死者が多い。
こうやって紹介していくと気が滅入ってくるが、かなり凄惨な形で殺害されたデス・ブラックメタラーが多いようだ。ギャングスタヒップホップの世界でも、ギャング同士の抗争によって殺害されるラッパーは多い。
「Death Metal」と “死” が付く名前のジャンルとは言え、ダークで暴力的なイメージは音楽だけにしておいて、平穏な生活を営みたいと多くのデスメタラーが思っているはず。殺し合いだけは止めて欲しいと願うばかりである。
執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24
▼タイのAvajeeが殺害された時のタイのドキュメンタリー。パート8まで続く長編。
▼130万回も再生されている、「Mayhem」のEuronymousを殺害した人物、Varg Vikernesのインタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=2ah8sEG9YGo