ロケットニュース24

【実話】5年前「北朝鮮」に行ったときの話

2017年2月27日

世界中のメディアが大々的に取り上げた金正男氏の殺害事件。事件の真相はいまだ明らかになっていないが「スパイ映画さながらの暗殺劇」は、北朝鮮の指令による政治的暗殺という見方が強いようだ。

なんでも正男氏の暗殺は5年前から計画されていたとも言われているが、今回お伝えしたいのは、ちょうど5年前に、2泊3日の弾丸ツアーで北朝鮮に突撃していた私(筆者)の体験記である。

・年に一度の長期休暇

2012年5月、私は当時勤めていた会社の「年に1度の長期休暇」を利用して、1人で北朝鮮に行くことを決めた。理由はよく覚えていないが『カンボジアでバズーカを発射する旅』と悩んだ末の決断だったと思う。

旅行の手配は「一番安い」中国のツアー会社にお願いした。ただ、申し込んだ直後に届く「北朝鮮で絶対にやってはいけないこと」や「持込禁止品」といったメールをきちんと読んだおかげで「全然行きたくないです」というテンションで出発の日を迎えることに……。

ちなみに持込禁止品は、携帯電話やパソコン、雑誌、双眼鏡などであった。

・高麗航空で平壌へ

いつもなら成田空港に到着しただけで、無意味にテンションが上がってしまう。おそらく空港内で死んだ表情をしているのは私だけだろう……。不安を抱いたまま飛行機に乗り、まず到着したのは北京首都国際空港。北京から平壌までは、北朝鮮国営の高麗航空で向かうことになる。

高麗航空といえば、世界に約600ある航空会社で唯一「1つ星」を獲得した、ネットでも超有名な航空会社だ。そもそも飛行機が苦手な私にとって「機種老朽化の程度」「乗客への気配り」「機内食」など、ほぼ全項目で最低評価をゲットした飛行機に乗ること自体ただの悪夢である。

緊張感MAXのまま噂の機体に乗り込み、神に無事を祈りながら離陸。フライト中は「軍人さんのカラオケ大会」的な番組を眺めながら、味のしないハンバーガーを食べるという全くリラックスできない時間を過ごした。さらに私はこの時、ある重大なミスを犯していることに気がついたのである……。

・携帯は出国まで没収

実は、緊張を和らげるために日本で購入した『プレイボーイ』が、カバンの中に入ったままなのだ。先述した通り、雑誌の持ち込みは禁止、前田敦子と渡辺麻友が白いビキニで表紙を飾るプレイボーイの存在がバレてしまったら……恥ずかしいだけでは済まないはず!

そんなこんなのうちに、幸か不幸か飛行機の揺れなど全く気にならないまま平壌国際空港に到着。無念の表情を浮かべたまま税関に向かったが……荷物検査はX線に通しただけで終わった……って、マジかよ!

なお、携帯電話は出国まで空港で預かるとのこと。預かり証を受け取り、無事北朝鮮に入国となった。

・指導員と合流

私を迎えてくれたのは、これまた国営の「朝鮮国際旅行社」から来たという、日本語ペラペラの指導員2名。北朝鮮滞在中は、どこへ行くにも彼ら2人と運転手が同伴するとのこと……どうやら平壌観光は、自動的にオッサン3人と私の思い出作りの旅になるようだ。

・平壌高麗ホテル

宿泊先は平壌駅の近くに位置する平壌高麗ホテルだった。平壌では最も高級な宿泊施設で、ホテル内にはプールや卓球場、美容室まである。ただ、受付のお姉さんに「髪を切りたい」と言ったら「絶対に無理」って感じで断られたので “誰もが利用できる施設” ではないのかもしれない。

ちなみに私の部屋は25階のツインルーム。トイレはTOTO製でテレビはSHARP製、清潔感のあるシンプルな部屋だった。何気なくテレビをつけると、朝鮮中央テレビのおばちゃんアナウンサーが声を震わせながらニュース原稿を読み上げている……初日の夜は退屈に過ぎていった。

そして2日目は、いよいよ平壌市内の観光ツアーである。そこにあった、日本では考えられない非日常的な風景の数々とは? 続きは2ページ目へ急げ!

Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.

【実話】5年前「北朝鮮」に行ったときの話(2ページ目)

・万景台の生家

平壌市内を観光する日。なんでも、初めての訪朝時には「必ず行かなければならない訪問地」があるらしい。私は指導員に「サーカスを観て、遊園地で遊んで、人民服を買いたい」という希望を伝えたが「そんな時間はない」と一蹴されてしまった……超バタバタの2日目が幕を開ける。

で、最初に行くことになったのが「金日成主席が誕生して幼年時代を過ごした」という『万景台の生家』だ。

万景台の生家では「貧しかった金日成主席は、ゆがんだカメしか買えなかった」という説明を受けたが、確かにカメは「失敗作にもほどがあるだろ」と思ってしまうレベルでゆがみまくっていた。

ササッと見学を済ませると「さあ行きましょう」といった感じで、すぐに次の訪問地へ。予定はギッシリなのだ。

・万寿台大記念碑

休む間もなく次に訪れたのは、平壌で最も有名な観光地、巨大な金日成像と金正日像が並ぶ『万寿台大記念碑』である。北朝鮮人にとっては聖地中の聖地なので、おふざけは絶対にダメ。銅像と同じポーズで記念撮影など絶対に許されないらしい。ウソみたいにデカい銅像は、威厳も迫力も抜群であった。

・昼食は冷麺

その後もダダダッと、朝鮮労働党50周年記念で建てられた『党創建記念塔』や、アメリカの武装スパイ船だという『プエブロ号』を見学。ランチタイムは北朝鮮自慢の本格冷麺店へ行ったが、突然始まった美女たちのカラオケ大会に夢中になってしまったので、味の記憶はゼロである。

・地下鉄乗車

午後の観光は、世界一深いとされる地下鉄からスタート。平壌の地下鉄は「核シェルター」としての役割もあるらしく深さは平均90m、ざっと大江戸線の倍以上といった感じだ。私が利用した「復興駅」は、地上からホームまで1本のエスカレーターで約3分かかった。


ホームで待っていると、天井の豪華なシャンデリアとは釣り合わないボロい車両が登場。利用者は意外にも多く、シートはほぼ満席状態であった。また車両ごとに、並々ならぬオーラが漂う金日成、金正日両氏の肖像画が飾られている……さすがとしか言いようがない。

・凱旋門と学校見学

栄光駅」で下車後、またまた長いエスカレーターで地上へ。ゴミが落ちていない平壌の街並みを眺めた後に、パリの凱旋門より10m高いという『凱旋門』で写真をパシャリ。指導員も「これ世界一なんです!!」と自慢げな表情を浮かべていたが、数秒後には「さ、次へ」といった感じで私を車に乗せた。

夕方に訪れたのは、教育施設だ。施設の先生に「さあさあ、小ホールへ!」と案内されると、子供たちによる歌と踊りの大発表会がいきなりスタートッ……! 感動を通り越して絶句するレベルの圧倒的歌唱力と本気すぎるダンス。気がついた時には、なぜか私も子供たちと手をつないで一緒に踊りまくっていた

・最後はやっぱり

最後の最後、これまで厳しかった指導員が表情を緩めて一言「サーカスには行けませんが、遊園地に行きませんか」しかも「あなたは行儀がよかったので、人民服も用意しましょう」って……最高かよ指導員! 

いつの間にか芽生えていた指導員との友情に目頭が熱くなる。ガッチリと握手を交わしてオッサン4人でいざ遊園地へ……だが、しかし! 

突然降りだした雨により遊園地は閉園……マジかよ乗りたかったぞジェットコースターーー! 仕方がないので「夜景がキレイな場所」をお願いしたが、到着したのは本日2度目の万寿台の大記念碑であった。

確かにキンキラキンに光っている……奈良の東大寺で買った「なんでやねんTシャツ」も輝いていた。

そんなこんなで平壌観光のシメは、柔らかくてあっさりしたアヒルの焼肉。店内は外国人観光客でパンパン、きっとラストを飾るにふさわしい店なのだろう。2泊3日のスケジュールだと観光できるのは実質1日のみだが、正直もうお腹いっぱいである。

ホテルに戻って人民服を試着してから、平壌の地下鉄ばりに深い眠りについた。出かける前の不安がウソのように、なんだかんだで楽しかった2泊3日。これまで様々な国に訪れたが、北朝鮮は私にかなり強い印象を与えた。

・無事帰国

──帰国後、テレビではいつも通り「不気味で恐ろしい国」という北朝鮮の特集が組まれている。そんな番組を観るたび、いつもぼんやりと平壌で出会った人々の顔が思い浮かぶ。

北朝鮮がヤバイ国なのは知っているが、出会った彼らまでは嫌いになれない……偏った思想に違和感を覚えることはあったが「カラオケの時に必死に高音を出そうとする姿」などは、正直私たちと何も変わらないとも思った。

彼らは今も元気に暮らしているのだろうか……どのような人生を送っているのだろうか? 北朝鮮の人々がもっともっと平和な生活ができることを願っている。

Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.

▼北朝鮮の風景





▼平壌駅

▼党創建記念塔

▼プエブロ号

▼金日成広場



▼入れなかった遊園地

▼冷麺は本格的だった

▼アヒルの焼肉も美味かった

▼帰りの飛行機で読んだ新聞

▼遊園地が楽しそうだった

▼思い出のプレイボーイ

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