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【考察】トランプ氏大統領就任後にアメリカで50年前のSF小説「1984年」が爆売れ! その理由を考える

2017年1月27日

1984

ついにドナルド・トランプ氏が米大統領に就任した。早くもメキシコ大統領との間で緊張が高まり、首脳会談はキャンセルになったことが報道された。波乱含みのトランプ政権の幕開け、アメリカは一体どうなってしまうのか? そしてそのアメリカの影響は世界に何をもたらすのか?

そんななか、アメリカのAmazonで意外な書籍が突然1位に輝いたという。その書籍とは、今から約50年前のSF小説『1984年』(著者ジョージ・オーウェル)である。一体なぜ、半世紀も前の小説が1位になったのだろうか? たまたま最近コレを読んでいた私(佐藤)は、次のように考察する。

・1949年初版の作品

この小説、新約版でも読むのが相当大変。何度挫折しそうになったかわからない。というのも、作品全体を流れるトーンが暗すぎて、気が滅入るからである。舞台は1984年、といっても現実のその年とは全然似ても似つかない架空の世界だ。1949年から想像した35年後の世界である。

・物語の舞台

その世界は3つの超大国に分断されており、絶え間なく戦争を続けていた。そのうちの1つの国に住む主人公のウィンストン・スミスは、役人のひとりであり、国を統治する政党のやり方に、不満と違和感を抱いていた。

政党は国民を完全なる監視下に置き、国にとって都合の悪い事実を捻じ曲げ、歴史の改ざんを繰り返している。ウィンストンはその改ざんに関わる仕事を担当していたのだ。あまりにも事実が捻じ曲げられすぎたために、古い過去を誰も思い出すことができないほどになってしまっていた。

国を統治しているのは「ビッグ・ブラザー」である。ビッグ・ブラザーは国民の崇拝の対象である。だが、ウィンストンは、ビッグ・ブラザーはお飾りみたいなもので、そもそも存在しないのではないか? と考えていた……。

・ひたすら暗い前半

物語の前半はとにかく暗い。「テレスクリーン」と呼ばれる機器によって、国民は四六時中監視されている。自由はない。そんななかで、ウィンストンはずっと妄想し続けている。この世界の違和感について考え、こっそりと日記(日記を記すことも罪になる)をつけ始める。その妄想の暗さといったら、息苦しくなるほど。前半はまったく読み進める気になれない。

・一転して恋人と出会う中盤

中盤で劇的な変化を迎える。ジュリアという女性と出会い、2人は党のルールに反して恋仲になる。バレれば存在を消されることがわかっていながら、2人は秘密の情事を繰り返すようになる。前半の物語の暗さが、ウソみたいに明るい展開になり、2人は隠れ家で何度も何度も身体を交わす。もうこの時点で、危険な匂いがプンプンしているんだが、そんなのお構いなしにヤリまくる。

・地獄の後半

当然そのまま物語が終わる訳はなく、最後には途方もない地獄が待っている。私はコレを読んで、著者はここまで登場人物に残酷になれるものなのか? と驚嘆した。人間のドス黒い部分を鍋に入れて煮詰めて、コールタールのようにドロドロになったものを、ウィンストンの顔面に擦り付けているような気さえしてくる。それくらい著者ジョージの仕打ちはひどいものがある。

・トランプ政権とビッグブラザー

さて、なぜ今アメリカでコレが売れているのかというと、本作に登場する「二重思考」が関係している。二重思考とは、矛盾する2つの概念を完全に当たり前のこととして受けいれることだ。

本作を例にいうと、主人公ウィンストンはビッグ・ブラザーの存在を疑っている。二重思考を用いるなら、「存在しないと信じていると同時に、存在することを信じ切っている」、この状態を指す。現実的に、こんなことを考えるのはムリだ。

・作中のキーワード「二重思考」に通じる?

実は、先のトランプ大統領就任式に関して、米メディアは観客数が「過去最低」だったと報じた。にもかかわらず、この後にコンウェー大統領顧問が式の観客が「過去最大」と発言したのだ。おまけに、それを誤りだと認めず、「別の事実(alternative facts)」と語ったのである。これが、先に挙げた「二重思考」に相通じるところがあることから、今作に注目が集まったようである。

とはいえ、いくら何でも作中のビッグ・ブラザーと、トランプ政権を比べるのは無意味な気がする。二重思考が非現実的すぎて、なぜ注目が集まるのか、その理由がわからない。今作を引き合いに出したい気持ちは、多少わかるのだが、Amazonで1位になるほどか? と思わずにはいられないのだ。

ちなみに、かなり前に同作を読んだという当編集部の和才によると……

「読んだのは10年ほど前ですが、作中のビッグ・ブラザーは覚えてます。無茶苦茶なことを言って超強引に管理&監視する人(たち?)として描かれていた記憶が……。確か、ビッグ・ブラザーはスゲー権力があって、彼らが『これはカレーや』と言ったら、ウンコもカレーになる、みたいな。

だけど管理されている側の人の中には、『いや、それはカレーじゃなくてウンコやん』って思う人も当然いるわけで。そう言わせないために、ビッグ・ブラザーは『これはカレーでもあり、ウンコでもある』みたいなイミフな考え方(洗脳方法?)で抑え込むんですが、それが二重思考とカッコ良い名称で呼ばれてたような……。

で、今回トランプ政権の偉い人が、『就任式の観客の人数が過去最高と言ったのは、(ウソじゃなくて)代替的事実(alternative facts)でやんす』的なことを言ったわけじゃないですか。その言い回しが、『ビッグ・ブラザーかよ! はい、全体主義キター!!』って色々な人にツッコまれ、そのツッコミパワーがハンパなかったから、本がAmazon1位になったんですかね。よく分からないですが……」

……と言っていた。

・読みきれない作品として有名

とにもかくにも、この本は著者ジョージの地元イギリスでも、その昔、爆発的に売れたそうだ。ところが、あらすじは知っているけど、読み切った人はあまりいない作品としても有名らしい。読んだ私も、途中で挫折しそうになったので、読破できなかった人の気持ちもわかる。

ということはつまり、今売れているとしても、最後まで読む人は少ないのではないだろうか。発表から約50年を経て、引き合いに出すのは良いけど、多くのアメリカ人にはできれば最後まで読んで欲しい。

参照元:毎日新聞Amazon.com
執筆:佐藤英典
イラスト・Photo:Rocketnews24

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