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【電力自由化】関西大学の『安田陽博士』に「電気代って安くなるんですか?」と聞いてみた

2016年3月28日

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2016年4月1日から、電力の自由化が開始される。メディアでもたびたび目にするから、もちろんみなさんご存じのことだろう。だが正直、記者は「電力自由化が始まるのかー」とは思いつつも、『電力自由化』が何を意味するのかよくわかっていない……お恥ずかしい!

「誰か優しく教えてくれるエキスパートはいないかなぁ」なんて思っていたところ、博士号を持つ関西大学システム理工学部電気電子情報工学科の准教授・安田陽(やすだ よう)氏に、話を聞く機会に恵まれた。よーし、ここは思い切って素人質問をぶつけちゃうぞ!

・電力の超エキスパート

まずは安田氏のプロフィールをざっとご紹介しよう。世界的機関である、IEA(国際エネルギー機関)やIEC(国際電気標準会議)などの国際委員会メンバーである同氏。多くの書籍を手掛け、テレビや新聞にも登場するなど「とりあえずこの人に電気のことを聞いておけば間違いない!」という偉い人なのだ。

そんな安田氏に、「電力自由化ってなんなんですか?」という質問を皮切りに、素人ではよくわからない電力自由化についての疑問をぶつけてみたのでご覧いただきたい。以下が、安田氏と記者のやり取りである。

・そもそも「電力自由化」ってなに?

記者:「恥ずかしながら、私は “電力自由化” がよくわかっていません。もしかしたら失礼な質問もあるかもしれませんが、子供に諭(さと)すつもりで教えていただけたら幸いです。本日はよろしくお願いいたします」

安田氏:「こちらこそよろしくお願いします」

記者:「さっそくなんですが、電力自由化ってなんなんでしょうか? 私の理解だと、電力会社がこれまで独占していたものが、電力自由化により多くの企業が参入できるようになる……くらいなんですが」

安田氏:「そうですね。おおむね合っています」

記者:「おお、そうですか。では新規参入してくる企業というのは、独自で発電機などを持っているものなのでしょうか?」

安田氏:「これまで “電力会社” と一口に言われていましたが、実は大きく分けて3つの役割りに分けられます。それは『発電・送電・小売り』です。この3つをまとめて電力会社と呼ばれていました」

記者:「ほうほう」

安田氏:「今回、自由化になるのは『小売り』の部分で、野菜に例えると発電が畑送電が流通小売りが八百屋ですね。つまり東京電力や関西電力だけではなく他の八百屋さんも、ある程度の資格があれば店を開いていいですよ、ということです」

記者:「おお、非常にわかりやすいです」

安田氏:「“自由化” 自体は2000年代から徐々に進んできているのです。いま話題になっているのは『小売り』の部分で、発電自体はすでに自由化が始まっているんですね

記者:「それは知りませんでした」

安田氏:「厳密にいうと、これまでも大手企業などは八百屋さんを選べたんですが、一般の方が八百屋さんを選べるようになったのが、今回2016年4月の電力自由化ということになります」

・小売り会社を変えたら「電気が来なくなる」ことはあるのか?

記者:「よくわかりました。では次に質問なんですが、これまで我々が電力会社を使っていて、電線が切れるなどのアクシデントが無い限り、電気が切れるということはないじゃないですか? もし他の会社に変えた場合、『電力不足で電気が届きません』ということは起こりえるのでしょうか?」

安田氏:「それはありません。なぜならば、野菜でいうところの青果市場があり、そこに電力が売り買いされているからです。万が一足りなくなった場合は、八百屋がそこから買うという仕組みになっているので、八百屋を変えたら電気が来なくなるという心配はありません」

記者:「なるほどですね」

安田氏:「ちなみに、万が一契約した八百屋が倒産した場合も、送電会社が一時的に肩代わりすることが義務付けられています」

……と、何となく「電力自由化」がわかってきたところで、小売会社の選び方など、続きは2ページ目へGOだ!

Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.

【博士号】関西大学の『安田陽准教授』に「電力自由化ってなんですか?」と聞いてみた(2ページ目)

・小売り会社の選び方

記者:「それは安心して他の会社と契約して良さそうですね。では電気料金が安いところを選べばいいのでしょうか?」

安田氏:「他のマスコミさんにも『安くなりますか?』とよく聞かれるのですが、実は電力自由化の本質はそこではないんですね

記者:「というと?」

安田氏:「もちろん安くなる可能性はあります。八百屋さん同士が競争することによって、適正な価格になることはあるでしょう。ただ、電気はそもそも石油やガスを焚いて作られるので、仕入れ値が上がれば当然電気代も上がります。それを考えると『必ずしも安くなる』とは言えないんですね」

記者:「それはその通りですよね。理にかなってます」

安田氏:「野菜の値段もそうですよね。あっちの八百屋とこっちの八百屋で差はありますが、天候不順になったらどの店も大体同じように値上がりします。また安けりゃいいかというと、安いけど農薬が使われているものもあれば、有機野菜もありますからね」

記者:「なるほど。ちなみに電気でいうところの、有機野菜とそれ以外ってどんなものがあるんでしょうか?」

安田氏:「それは今の国際社会からすると、電気を作る際『CO2(二酸化炭素)を多く排出するもの』と『出来る限り排出しないもの』ということになりますね」

記者:「なるほど。電気の作り方、ということですね」

安田氏:「そうです。ただ、現状では『CO2をジャンジャン出した電気』の方が安く作れるんですよ。なので、全員が安い電気を求めるということは、CO2を多く出して国際社会から叩かれる。また、子孫にツケを残すことになりかねません」

記者:「ふーむ。なるほど~」

安田氏:「例えばドイツなどでは、今は多少高くても再生エネルギーで作られた電気を購入する、という人が多いんです。電力自由化の本質は、自分のライフスタイルや信念にあった電気を選べるようになる、というところにあるんですね」

・「安い電気 = いい電気」なのか?

記者:「もうちょっと掘り下げてお聞きしたいんですが、ではいま一番安い発電方法、つまり最もCO2を排出する発電方法とはなんなのでしょうか?

安田氏:「それは石炭ですね。いま石炭は安いですし。日本は石炭を増やそうとして、国際社会から批判を浴びてしまっています」

記者:「そういう『うちは○○発電で電気作ってます!』というのは、例えばパンフレットなどで公表されているものなのでしょうか?」

安田氏:「電源構成の表示は、義務付けられていませんが推奨されています。そういった表示がされている小売り会社というのは、きちんとしている会社と思っていいかと思います」

記者:「モスバーガーみたいなもんですね。では原子力などはいかがでしょうか?」

安田氏:「人それぞれの考え方ですが、火力や原子力は “従来型” と呼ばれ、今までは安いから使われていたんですね。ただ、放射性廃棄物の問題やCO2の排出量などを考えると、『安い = いい電気』とは言えないかと思います」

記者:「納得です。では今は高いけど、CO2をあまり排出しない発電というのは、どんなものがあるのでしょうか?」

安田氏:「風力や太陽光などの、再生可能エネルギーと呼ばれるものです。日本では水力を含め電力量の15%しか使用されていませんが、すでにヨーロッパでは約1 / 3が再生可能エネルギーでまかなわれています」

記者:「日本の技術が低いということでしょうか?」

安田氏:「おそらく日本の技術は世界トップレベルです。ただ制度の問題ですね。ヨーロッパでは『送電』と『発電・小売り』が完全に分離されています。資本関係があってはいけないんですね。つまり、しがらみもないので新規参入もしやすいし、フェアな自由競争が起こるということです」

記者:「なるほどですねー。日本で送電網を持っているので電力会社しかないわけですから、そういう意味で不透明さはありますね」

安田氏:「おっしゃる通りです。ちなみに法案が可決していますので、日本でも2020年に発送電分離となります。ただ日本の場合は “法的分離” となっていますので『送電』と『発電・小売り』の資本関係があってもOKということになっています」

記者:「スッキリするようで、完全クリアというわけではないんですね」

安田氏:「そうですね。その辺りの仕組みというのは、将来どうするのか? ということも特に若い人たちに興味を持ってほしいですね」

・自分の価値観やライフスタイルに合わせて電気を選ぼう

記者:「ふむふむ。なんとなく電力自由化がわかってきた気がします」

安田氏:「例えば、今回の自由化によって『深夜は安くなるプラン』や『使わなければ使わないほど安くなるプラン』なども出て来るでしょう。これまでは基本的に1つのプランしかなかったわけですから」

記者:「おっしゃる通りですね」

安田氏:「“ただ安い” だけのプラン探しは疲れてしまうと思うんですね。自分の価値観やライフスタイルに合った電気が選べるようになるのが、電力の自由化というわけです。

特に、電気をたくさん使うと割引きになるプランには、安易に飛びつかない方がいいでしょう。自分たちが快適に使った分、将来にツケを回すことになりかねませんので」

記者:「なるほど。他に注目する点などはありますか?」

安田氏:「発送電分離などのルールメイキングの段階にも興味を持っていただけると、今度電気とより良い付き合い方ができると思います。本来ルールは国民全員で議論して作っていくものなので」

記者:「わかりました! 非常にわかりやすい説明ありがとうございました。“どの会社が一番安いのか?” 聞こうとしていた自分が、いかにゲスいか身に染みます。本日は本当にありがとうございました!!」

──と、単純に「電力自由化 = 電気代が安くなる」ではないことがよくわかった。また安さだけを追い求めると、知らず知らずのうちに地球に優しくない電気を使っている可能性が高くなるので注意が必要だろう。小売り会社選びの参考になれば幸いだ。

Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.
資料作成:関西大学・安田陽

▼終始わかりやすい説明をしてくれた安田准教授。一瞬「怖い人?」かと思ったが、優しい人だったぞ!

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