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日台の絆を描いた映画『湾生回家』 少しでも「台湾好き~!」って思っている人なら見ておくべきポイント3つ

2016年3月8日

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「台湾ブーム」と言われてはや数年。現在、台湾は海外の人気渡航先ブッチギリNo.1であるそうだ。“台湾が好き” という理由は、気候がいいし、ゴハンも美味しいし、人が優しいし……と、人それぞれだろう。

そんな少しでも台湾が好きという方で、もし、もし、まだご存知でないなら、是非見てほしい台湾映画がある。戦前における日台の絆を描いた『湾生回家(わんせいかいか)』。大阪アジアン映画祭で日本初上映となったのだが、映画祭当日の様子をお伝えしつつ、見ておくべき3つのポイントを紹介したい。

・「湾生」とは?

「湾生(わんせい)」は、一言で言うと「戦前に台湾で生まれた日本人」のこと。1895~1945年の日本統治下の台湾に移住した日本人の2世、3世のことだ。当時、台湾で生活していた日本人は敗戦にともない、本土への引き上げを余儀なくされている。

そして、タイトルにある「回家」とは直訳すると「家に帰る」ということ。この映画は、かつて故郷から離れざるをえなかった湾生の方々が、それぞれの “失った故郷” を、懐かしい人たちを訪ねるドキュメンタリーだ。

はっきり言って泣けるのでハンカチが3枚は必要だが、この映画はただのエエ話ではなかった。というか、エエ話だけで済ませるのはもったいない。台湾と日本について、考えさせられるポイントがいくつもあったのだ。

その1:リアルに伝わってくる日本と台湾の過去

台湾ブームと言いつつも、旅行やグルメ以外ではイマイチ情報が少ない。反対に、台湾人は、私たちの想像以上に日本のことをよーく知っている。いまの流行や、芸能人などもそうだが、歴史もそのひとつだ。

この映画は、そんな過去の台湾の様子をリアルに描いている。湾生が実際に故郷や懐かしい人々を訪ねるシーンが細やかにとらえられているのだ。そこでのやりとりを見ていると、人々の間には日本人も台湾人もなく、たしかに「かつてはひとつの国として歩んでいる時期があった」ということが、ジワリと伝わってくるのだ。

その2:いまの台湾もちょっと見える

すでに公開されている台湾では映画は大ヒット。2015年の台湾アカデミー賞こと「金馬賞」のドキュメンタリー部門にノミネートされ、興行収入も日本円で約1億2000万円を記録。現地メディアからも「完全にダークホースだった」と評されている。

しかも、このヒットを支えているのは当時を知る世代だけではないそうだ。台湾では若者を中心に、大陸の中華民国から連なる歴史ではなく、台湾としての歴史をとらえ、台湾人としてのアイデンティティを見出そうという動きがある。そのなかで、日本時代の台湾を扱う作品に注目が集まっているというのだ。

なぜ『湾生回家』が台湾でヒットしたのかを考えながら見ると、現在の台湾の姿が少し垣間見えるのではないだろうか。

その3:いい面も悪い面もあった時代

映画は、懐かしい思い出をたどるストーリーではあるものの、全面的に「日本時代が良かったー!!」という話ではない。

もっとも象徴的なのが、作品内に登場するある台湾人が日本統治時代について話すシーン。インフラの整備が進んだことと、日本人の台湾原住民への不当な扱いが発端となった “霧社事件” を引き合いに「いい面も悪い面もあった」と話している場面だ。過去を非常にフラットにとらえた一言である。

台湾では、日本人だとわかると良くしてくれる人は多いし、それは嬉しいことだが、もしかしたら感情が作られた土壌は、それほど単純なものではないのかもしれない。考えさせられる一言だと言えるだろう。

・映画祭ではスタンディングオベーションの嵐!


『湾生回家』 は、2016年3月4日に行われた大阪アジアン映画祭初日に上映された。監督の黄銘正氏は「日本での反応にワクワクする」という旨を控えめに話していたが、終わってみると大きな拍手が! スタンディングオベーションが沸き起こり、日本の観客の心にも響いたのは一目瞭然である。

この日の会場には、台湾映画ファン、台湾と深く交流を持つ人、また台湾人も多く見られたが、上映後は「泣いた」「1日でも早い公開が待たれる」「もっと皆に見てほしい」との声が多く聞かれた。

・日本では2016年秋に公開予定

日本で、台湾の存在が大きくなった東日本大震災からもう5年だ。そろそろ「親日な国だから、好き」からもう一歩進んでもいい時期かもしれない。相手はそれ以上に一緒に歩んできた過去を知っている。『湾生回家』は、そのタイミングで見る映画にピッタリなのではないだろうか。

『­­­湾生回家』の大阪アジアン映画祭での上映は3月8日で終了だが、すでに日本での配給が決定しているという。大阪アジアン映画祭公式サイトによると、岩波ホールで2016秋に公開予定とのことである。

参照元:大阪アジアン映画祭、Facebook 湾生回家松竹株式会社
執筆:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.

▼大阪アジアン映画祭のようす。監督とプロデューサーのほか映画に出演した湾生の方5名も登壇した

▼こちらが黄監督

▼湾生を代表してスピーチをした冨永勝さん。撮影中に台湾の若者との交流に感激したとユーモア混じりに話し会場を沸かせていた


▼台湾版の予告編。黄監督が「70%以上が日本語」というように字幕なしでほとんどわかる

▼日本の公開が楽しみだ!

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