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燕尾服を着ない意外な理由とは? 謎多き職業「執事」について本物の執事にいろいろ聞いてみた

2015年12月21日

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お金持ちのシンボルとして見られることの多い「執事」。アニメや映画で一度は見たことがあるが、実際に執事を見たことがある方はほとんどいないだろう。そう、執事とはその実態を知る者が少ない非常に謎多き職業なのである。

ということで、執事とはどんな仕事なのかを知るべく、執事歴8年の新井直之(あらい なおゆき)さんにインタビュー取材をしてみた。新井さんは現在、自身でも執事の仕事をしながら執事サービスを提供する会社を経営しており、『執事だけが知っている世界の大富豪53のお金の哲学』という本まで執筆している。

その執事のエキスパート新井さんに執事がどのような仕事をし、どのような生活を送っているのかなど様々な質問をぶつけてみた。すると、とても興味深い答えが次から次へと返ってきたのだ。その気になる答えは、以下の通りである。どうぞ!!

Q:執事になろうと思ったきっかけは何ですか?

A:元々は法人向けの営業をする会社員だったのですが、2つの理由で執事を始めようと思いました。まずひとつめの理由はお客様と一生、可能なら世代を超えて2世代、3世代とお付き合いできる仕事がしたいと思ったからです。ふたつめは個人のお客様に特化した最高のサービスを提供したいと考えたときに「執事」が頭に浮かんだからです。

Q:新井さんは2008年に現在の執事の会社を立ち上げていますが、これまでの道のりを教えてください。

A:起業して半年くらいは全く仕事依頼がなく、執事としての経験のない私はサービス業のトレーニングを受けていたのですが、あるとき私の会社に海外の執事学校を卒業し、実際に執事として働いたことのある人が仕事を探しに問い合わせしてきたのです。そのとき紹介できるような仕事は全くなく、私は「執事として必要なことを教えてくれませんか?」と頼みました。

そんなこんなで執事としての技術を学んでいたら、世界の大富豪TOP10に入るようなヨーロッパの富豪の方から日本滞在中のお世話や日本にある別荘の管理などの仕事をいただきました。そこからその富豪の方が他のお客様をいろいろとご紹介して下さって、仕事が増えていきましたね。

起業した当初は日本では執事というものがあまり知られていなかったのですが、ドラマ『メイちゃんの執事』やアニメなどで認知度がどんどん高まっていきました。それにつれて、「執事サービスを体験したい」「執事になりたい」という問い合わせがどんどん増えていきましたが、遊び半分で執事サービスを体験したいというような問い合わせは、申し訳ないのですが、お断りしていました。(笑)

Q:新井さんの会社にはどのような方が働き、どのような依頼が来るのですか?

A:わが社には執事は7名ほどいます。またメイドさん、運転手さん、シェフは登録制にしており、必要な場合のみ来ていただくことになっています。現在契約いただいているお客様は大体20~30名ぐらいですね。

契約のほとんどが年契約なのですが、たまに「息子が日本に留学する半年だけ世話をしてくれ」「娘が東京に行くので、その5時間だけ世話をしてくれ」などのご依頼があります。

Q:執事はどのような仕事をしているのですか?

A:執事は基本的にお客様のご邸宅を管理したり、お客様が来日された際に付き添ってサービスしたりしています。アニメの執事は食事を運んで来たり、ワインをついだりお食事に関する奉仕が結構ありますよね。

確かにそういったことをすることもあるのですが、実際の執事はメイドさんやシェフの勤務管理や給与支払の手続きをしたり、管理を担当しているご邸宅の修繕費や光熱費の支払い手続きをしたりと一般企業でいう総務部的な仕事も多いですね。

Q:執事として働く時は燕尾服ではなく、スーツを着るんですか?

A:はい、基本的にスーツです。燕尾服は目立ってしまうので、着ません。実は富豪の方は極力目立たないように行動するのが基本なのです。もし執事だと一目で分かるような燕尾服を着た人がそばにいると、まわりにお客様がVIPだとばれてしまい、誘拐・恐喝のリスクが出てきてしまいます。

ですので、お客様を乗せる車も周りの目を引く高級車ではなくファミリーカーが多く、ドアの開け閉めはほとんどの場合お客様自身でされます。またお客様のお子様を学校へお送りする際も我々執事はスーツではなく、ポロシャツにジーパンといったカジュアルな服装をします。大企業の社長になると、知らないところで恨みを買っていることもありますので、目立たないように行動することが安全につながるのです。

インタビューの続きは次ページ(その2)へ。

Report:田代大一朗
Photo:RocketNews24.

Q:執事の仕事はいつが休みですか?

A:執事には基本的に休みはないのですが、この時期にお客様が日本に来ない、ご邸宅に来ないと分かっていたら、その時にまとめて休みをとることはあります。しかし土日休みなど決まった休みは、ないですね。

Q:お客様はどんな方が多いですか?

A:お客様のほとんどが大富豪の方です。そして半分が海外のお客様です。執事の年間契約は平均2000万円ぐらいかかってしまうので、どうしても富裕層の方が多くなってしまいますね。

Q:日本の富豪と海外の富豪の違いはありますか?

A:日本の富豪の方は、主人と執事という主従関係をしっかり意識して我々と接する方が多く、海外の富豪の方は、家族や友達のようにフレンドリーに我々と接する方が多いです。

Q:執事はどのように育成しているのですか?

A:私どもの会社は大きくありませんので、基本的にあまり訓練しないでいい方を採用しております。例えば元ホテルマン、元秘書、元キャビンアテンダントなどの方ですね。しかし実は1名だけ若手を現在育成しておりまして、現場でマンツーマンでいろいろと教えています。

Q:もし新井さんのもとに、これから「執事として私を訓練してください」という人が来たら、どうしますか?

A:執事になるには、素質と熱意が必要ですので、そこのところを見て判断するかと思います。執事というのはお客様を後ろからお支えするという仕事でありまして、他人を支え、その人の成功に自分の幸せを感じられるという素質が必要になってきます。

また現在育成している若手は、「給料はいらないので執事見習いとして働かせてください」という熱意のもと私のところに来ました。そういった執事という仕事への強い想いがとても大切になってきます。

Q:今までどんな依頼がありましたか?

A:ヨーロッパのお客様から、日本のご邸宅でヨーロッパのテレビ番組がリアルタイムで見られるようにしたいというご依頼をいただいたことがあります。そこでテレビ局にあるような非常に巨大なパラボラアンテナをご邸宅の屋上に設置し、人工衛星から発せられるとても微弱な電波をとらえて、なんとかご対応することができました。しかし雨の日には電波が上手く捉えられず、番組が見られなかったですね(笑)。

また、伊豆にある別荘の敷地に温泉を作りたいというご依頼もありました。その時は温泉専門のボウリング会社にまず掘れるかどうかの調査依頼をし、最終的には温泉をご用意することができました。

そして海辺にある別荘をお持ちの方から「家の目の前に森があって海が見えないから、海が見えるように木々を切っておいてくれ」というご依頼をいただいたこともあります。敷地内にある木でしたら、いくら切っても大丈夫なのですが、人様の敷地にある木や国有地にある木は勝手に切るわけにもいきませんので、ひとつひとつ交渉して木を切っていきましたね。

ちなみにこういった依頼があった際は「予算は~円以内」という制限はなく、かかりそうな費用が分かった時点でお客様にそれでいいか一応確認をとることになっています。まあ、ほとんどの場合は予算は問題になりませんが。

Q:そのなかでも一番大変だった依頼は何ですか?

A:ヨーロッパの大富豪の方で、丸川のフーセンガムのストロベリー味が好きな方がいらっしゃったのですが、あと2時間後に成田空港からプライベートジェットで出発するという時に、そのフーセンガム1000個とカルピスウォーターのペットボトル500mlを500本用意してくれというご依頼をいただきました。

そこからありとあらゆる人に電話をかけて、協力を要請し、目に入ったすべてのコンビニやスーパーを車で回って買い集めていきました。結果的になんとか集めることができたのですが、あれは大変でしたね。

でもそんな些細なご依頼でも真剣に取り組むようにしています。もしかしたら、それは母国で待つ大切な方へのお土産かもしれませんし、どんな想いが込められているかは分かりません。だからどんな些細なことを依頼されても、全力で取り組んでいます。

インタビューの続きは次ページ(その3)へ。

Report:田代大一朗
Photo:RocketNews24.

Q:お金持ちの方たちと接してきて、何か気づいたことはありますか?

A:お金持ちの方が欲しいのは、時間と健康なんですね。健康というのはお医者様のところにちゃんと行っていればなんとか維持できますが、問題は時間で、いかに自分の自由な時間を作るかに苦心されている方が多いです。

例えば海外の大富豪の方を成田空港から東京都心へ車でお送りする際に、普通だと40分かかるところが、渋滞で2時間かかってしまうことがあります。そういった場合に「なぜこんなに時間がかかるんだ」とお叱りを受けることがあり、正解はヘリコプターでの移動なのです。成田空港から東京都内までヘリコプターで30万円くらいかかるのですが、移動時間を20分におさめることができます。

これは一見かなり贅沢な話に見えますが、例えば年収20億円の方であれば、24時間かける365日、つまり8760時間計算の時給で考えるとだいたい23万円くらいになります。よって30万円で1時間40分節約できるのなら、結果的には理にかなった判断なのです。

Q:執事として働く上で大切にされていることはありますか?

A:お客様の立場になって考えるということです。当たり前といえば、当たり前のことなのですが、非常に重要なことなのです。例えばお客様が「カレーを食べたいから、用意してくれ」とおっしゃったら、なぜそうおっしゃったのかを考えなければいけません。

ですので、何も考えずに用意するのではなく、「もしかしてお腹が空いてらして、今すぐ何か召し上がりたいのですか? もしそうでしたら、カップラーメンがございまして、すぐにご用意できます」と対応します。

すると「そうそう、お腹ペコペコなんだよ。カップラーメンの方が速いなら、そっちをお願いするよ」などということになることもあります。「カレーを食べたい」というのはあくまで表に現れた欲求ですので、その奥にある真の欲求に気づけるように常に心がけています。

Q:執事として働いているなかで一番幸せを感じた瞬間は、どんな時でしたか?

A:お客様に我々を家族のように思っていただいた時ですね。2011年の東日本大震災の時に、これから母国に避難するというお客様が我々に対して「君たちも大変な状況だろうから、君たちの家族を連れて私のところに来ないか? 君たちの家族ごと面倒を見るよ」とご提案して下さったのです。結果的には、我々は日本に残ったのですが、そうやって家族のように思っていただいたことが非常に嬉しかったです。

Q:自分専用の執事は欲しいですか?

A:欲しいですね(笑)。やはり執事がいることによって、自分の自由な時間がかなりできますよね。移動の手配やスケジュール管理などを執事がしてくれれば、一日をもっとスムーズかつ効率的に活用することができます。

Q:これから執事になりたいという人へのアドバイスはありますか?

A:執事は特殊な技術を求められる一面もありますが、みなさんがされている仕事と共通する部分もあります。会社員を違う視点で見れば、上司に仕える執事。サービス業に携わる人を違う視点で見れば、お客様に仕える執事とみなすことができます。

つまり上司・お客様が何を求めているのか、何をしたら喜ぶのかを考えなければいけないという点では我々と同じなのです。目の前の相手を満足させようとしっかり考えながら働いていると、執事としての基礎力を高めることができるかと思います。

~~~完~~~

いやー、非常に興味深いインタビューだった。個人的には、思っていたよりアニメの執事と現実の執事に似ている点が多かったこと、そして大富豪の金銭感覚に驚きを覚えた。さて、みなさんは今回のインタビューを通して、何を発見しただろうか? そして執事を雇ってみたいと思っただろうか? 私はぜひとも雇ってみたい。そして成田空港から渋滞の高速道路へと向かう執事に対して「なぜヘリを使わんのか!」と叱ってみたい!!

Report:田代大一朗
Photo:RocketNews24.

▼新井さんが常に肌身離さず持っているキャリーバッグ。バッグの中身はいつでもお客様と連絡がとれるようにパソコンと予備バッテリー。そして急に呼び出された際に泊りがけになることがあるので、着替えが入っている。執事は本当に忙しい!

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