ロケットニュース24

ミントの鉢植えを頻繁に盗難される「文壇バー」が怒りの文学賞開催! その名も『ミントはどこに消えた? 文学賞』

2015年7月17日

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残念だが、どこにでも常習的に人の嫌がることをする者はいるものだ。何が目的なのか? ただ悪ふざけなのか何なのかわからない。そんな迷惑な行為に、あるバーのマスターが憤慨して、驚くべき行動に出た!

・盗難から文学賞

そのお店、プチ文壇バー「月に吠える」は、東京・新宿のゴールデン街にある。ここの店外に置いてあるミントの鉢が、頻繁に盗難に遭うというのだ。マスターの肥沼和之氏は、文壇バー流のやり方で反抗することにした。なんと文学賞を開催することにしたのである。その名も「第1回ミントはどこに消えた? 文学賞」である。何ともポジティブな抵抗だ。

・常習犯の仕業か!?

肥沼氏に話を聞くと、ミントが盗難に遭った回数はすでに10回近くになるという。盗ませないように注意書きを貼っていたにもかかわらず、その忠告を無視して持ち去られることもあったそうだ。

・肥沼氏のコメント

本来であれば、監視カメラなどを設置して犯人を特定するべきではないだろうか。しかしそれでは、文壇バーらしからぬ対抗策であると考えて、文学賞の開催に至ったという。今回の文学賞開催について、肥沼氏は次のようにコメントしている。

「ミントを盗んだことがある方、盗まれたことがある方、どちらでもない方、どなたも参加可能なイベントが『第一回ミントはどこに消えた? 文学賞』です。当店の盗まれたミントを成仏させるためには、皆様のお力添えが必要です。私どもの文学賞に応募することで、ミントは生きた証を残せるのかと思います。また、若手作家の実績にも繋がります。ぜひ、たくさんのご応募をお待ちしております!」

・作品を応募するぞ!

被害者でありながら、若手作家にも機会を与えようという大らかさに驚かされてしまう。私(佐藤)のように根性のネジ曲がった人間にはおよそ思い浮かばないことだ。本当に感心する。せっかくなので、これを機会に私も応募してみようと思う。私の作品はこちらから読むことができる。はたして優秀賞を受賞することはできるのか!?

ちなみにこの文学賞、ミントが盗まれる度に開催する予定なのだとか。できることなら、この第1回で終了してくれると良いのだが……。

・文学賞詳細

タイトル 第1回ミントはどこに消えた? 文学賞
募集内容 「ミントの苗が盗まれた」という場面、もしくは設定が作中で使われていること
枚数 400字詰め原稿用紙換算2~5枚
賞金 優秀賞1本 5000円、特別賞ミントの苗
締切 2015年8月12日
詳細は「月に吠える通信」

執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

第1回 ミントはどこに消えた? 文学賞応募作品『バカダモン』

「またなの。これで何度目かしら?」

声をかけてきたのは、すぐそこのスナックのママだ。長年お店をやっているらしく、この界隈の顔役として知られた女性だ。新参者に厳しいことで有名で、こういう時に限って、優しく接してくるところが気に食わない。

「もう3回目ですよ。本当にいい加減にして欲しい」
「あなたのお店だけでしょ? 店先の鉢植えが盗まれるの。何か恨みを買うようなことでもしたのかしら?」

人の不幸は蜜の味とは良く言ったもんだ。悲嘆に暮れる相手の背中を蹴るような真似を、嬉々としてしやがる。まあ、この人に腹を立てたところで、鉢植えの盗難がなくなる訳じゃなし。

こんな底意地の悪い婆さんでも、素直に話を聞く相手がいる。うちの店にも週に1度は顔を出す医者先生だ。先生は気のいい人で、俺が店を開けた当初から何かと声をかけてくれた。ロマンスグレーという言葉が似合う老紳士。いつもハットを被って背筋をピンと伸ばして歩く様は、憧れさえ抱く。こんな爺さんになりてえもんだ。

「またやらましたか。困りましたなあ」

医者先生は季節を問わず、キンキンに冷えたモヒートを飲むのが習わし。ミントが切れていると大層残念な表情を浮かべて1杯で帰ってしまう。栽培しているものがあれば良いのだが、ここのところハーブを立て続けに盗まれてしまい、安定供給できないのだ。できることなら医者先生の残念な顔は見たくないのだが。

ある日のこと、婆さんが妙なことを言い出した。健康にはハーブティーがいい。受け売りのようなこの言葉は、医者先生から聞いたもののようだ。酒好きが高じてスナックやってるのに、今更健康を気にするものかね。まずは酒とタバコを止めるべきだと思いながらも、調子だけは合わせておいた。

「あなたもハーブティー、飲んだ方がいいわよ。あら、植えてらしゃったものはなくなっちゃったわね。御免あそばせ」
何が言いたいんだか……。

婆さんがこう言いだした頃から、婆さんの店先に変化が現れた。鉢植えを置き始めたのである。気のせいかもしれないが、うちに最近まであった鉢植えと似ている……。まさかそんな見えるところで、盗んだ代物を置く訳がない。いくら気の悪い婆さんでも明け透けにそんなことするかね。気のせいだとは思ったが、やっぱり似ている気がしてならない。

「どうされたんですか? 鉢なんか置いて」
「ハーブ買ってくるより、栽培した方が安くつくでしょ。手頃な鉢を見つけたから、うちも栽培することにしたのよ」

良く見ると、その鉢は塗り替えられたような雰囲気だった。益々怪しいがそれ以上は深入りしなかった。

俺も気を取り直して再びハーブを育てることにした。以前はミントとバジル、ローズマリーと決めていたのだが、今回から新しい仲間を迎えることにした。それは南米に生息する「バカダモン」だ。この植物はミントに良く似ているが、毒性が強い。大昔にこの植物をすり潰したものを矢の先に塗り、狩りに用いられていたのだとか。わずかな量で牛一頭が死んでしまうというから相当なものだ。

もしもまたハーブを盗まれるようなことがあれば、犯人は毒草を持ち帰ることになる。どうなるかわからないが、ミントと同じように使えば罰が与えられることになるはず。盗まれることは腹立たしいが、溜飲が下がるというものだ。次の犯行はそう日を待たずに起きた。

新しい鉢をそろえた翌日、いつものように夕方店に来てみるとすでに4つの鉢がなくなっていた。チキショー、買っても買っても盗まれるんなら、もう鉢を並べるのはやめるか。一瞬そう思ったのだが、今回はこれまでと違う。何かしらの変化が起きるはずだった。鉢があった場所を見下ろすようにして突っ立っていると、婆さんがやってきた。また嫌味のひとつでも言われるのか? と思っていると、婆さんが泣いているじゃないか。

「どうしました?」

力なく肩を揺らして涙するその様からは、普段の憎たらしさは微塵も垣間見えない。

「あの人が亡くなったって。先生が亡くなったんだよ」

なんてこった、憧れの医者先生が……。「バカダモン(Bark at the moon )」よろしく今夜は吠えるか……。

執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼ここに置いてあった鉢がなくなったそうだ

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