道行く人々に何かを訴えたいとき、どのような方法を取るのが一般的だろうか? スピーチという手段がまず思い浮かぶが、その主張を文字にして掲げれば、人々により強い印象を与えることができるはずだ。
そのように、文字を通じて世の中に何かを訴えかける人々は多いが、今回、ホームレスたちが掲げていたメッセージが集められ、アート作品として発表されたのだ。一体どんな声が作品には込められているのだろうか?
・『Sign of the Times』
米ニューヨークの街にあふれるホームレスの多さに驚き、なんとかすべきだと感じたアーティストのアンドレ・セラーノさん。ニューヨークでは、「Please Help(助けてください)」などと書かれた紙を手に物乞いをするホームレスの姿がよく見かけられるのだが、この “ベガーズサイン” と呼ばれるメッセージボードに、セラーノさんは目をつけたのである。
そして彼は、「サインに込められたホームレスの声に、もっと耳を傾けるべきだ」という思いで、ベガーズサインを集めて展示するアート作品『Sign of the Times』の製作を決意したそうだ。
・1枚20ドルでサインを購入
セラーノさんは、毎日何時間も街を歩き回っては、1枚20ドル(約2000円)でホームレスからサインを買い集めたという。自身の活動の趣旨を丁寧に説明したことで、多くのホームレスが快く売買に応じてくれ、結果、200枚以上ものサインが集まったのである。
20ドルを受け取ることができて、多くのホームレスはとても喜んでいたというが、物をほとんど持たない彼らにとって、段ボールの切れ端で作ったサインだって大事な所有物なのだ。にもかかわらず、気持ちよく売ってくれた彼らの姿勢に、セラーノさんは感動したという。
・人生が垣間見られるサイン
まさにホームレスの声で出来上がったこの作品には、彼らの抱える様々な苦労を見ることができる。例えば、16歳の少女が掲げていたサインには「10年前、母にここで待つように言われました」と書かれていた。
他にも、「お腹すいた」「夫が死んで、全てを失いました」「結婚したばかりです」「働きたい」など、自分たちの気持ちが世の人々に届くようにと、シンプルかつインパクトを持った言葉で書かれたサインからは、彼らが身を置く苦しい境遇や過去が伝わってくる。
・ネットの声
セラーノさんの活動と作品は、海外サイト Reddit でも取り上げられ、多くのコメントが寄せられている。「偽善者」や「意味がない」といった否定的な意見もあったものの、多くの人にとってホームレスを取り巻く状況を考えるキッカケになったようだ。
「素敵な作品だと思います。ホームレスの人々を支援する機会が増えるといいなと思います」
「お金を恵むだけでは、状況は変えられないよ」
「20ドルだけではどうしようもないのでは?」
「20ドルあれば、ジムの会員になれる。ジムではシャワーを浴びて、身なりを清潔にすることができる。清潔になれば、仕事が探しやすくなる」
「元ホームレスだ。確かに、20ドルでは状況は変えられないかもしれないけれど、その日をしのぐことはできる。シャンプーや歯ブラシだって買える」
「みんな、ステキな字を書くなあ」
「全部のサインを読んでみたい!」
・貧困問題は他人事ではない
ホームレスの抱える問題は他人事であり、自分とは関係ないと考える人もいるかもしれない。しかし、ホームレスでなくとも貧しさに苦しむ人々は世界中に存在しており、貧困は誰もが直面しうる問題でもあるのだ。
「この作品は、食べ物や寝る所を探して街をさまようホームレスの存在を世に知らせるためのものです。また、貧困に苦しむ人々と私の声であり、メッセージを発信する1つの手段でもあります。これは、ニューヨークだけでなく、世界中の貧しい人々が置かれている境遇を表しているのです」と、セラーノさんは話している。
参照元:You Tube、Reddit、Creative Time Reports(英語)
執筆:小千谷サチ
▼1枚1枚のサインをピックアップした動画
▼「親切にすることって簡単だ」
▼「もしも、あなたがこの立場だったら?」
▼「与えることは簡単だけど、求めることは難しい」
▼「奇跡を必要としています」
▼「プライベートジェットの燃料が足りません。とっても高いんです」
▼「食べるために25セントを恵んでください」
▼「結婚したばかりです。助けてください」
▼「働きたい」
▼「地下鉄のチケット、食べ物などなんでもいいんです。お恵み下さい」
▼「助けてください。子供が2人います。食べ物と部屋を借りるためのお金が必要です」
▼「助けてください。路上は住むべき場所ではありません」
▼「HIV陽性者です。仕事もなく、絶望しています」
▼「お腹がすいた お腹がすいた お腹がすいた」
▼「もうドッグフードは嫌だ!」
▼「刑務所から出てきたばかりです。行くところがありません」
▼「リッチモンドに住む息子に会いにいくために80ドル必要です」
▼「お腹がすいて、ホームレスで、妊娠しています」
▼「もう外で寝たくない とっても寒いんです」
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▼「家に帰るために35ドルのバスチケットを購入したいんです」
▼「ポストカードにはないニューヨークの姿をあなたに」
▼「親切を釣っています」