『Q~わたしの思考探究』は、NHK教育で放送されているトーク番組。毎回、決められたひとつのテーマに基づいて、タレントと学者が真剣に語り合う。2月26日放送分のテーマは「賢い人づきあいとは」。出演したのは、「高校3年まで友達ができなかった」という過去を持つ鳥居みゆきと、コミュニケーション論を専門とする社会学者で、宮城教育大学教授の菅野仁。
お笑い界の奇才とコミュニケーション論を専攻する「賢人」のやりとりは、噛み合っていないようで噛み合っている、不思議な間合いで進行していった。菅野は進行役を兼ねて、人付き合いに関するさまざまな議題を投げかける。鳥居も、番組のテイストに合わせて、真剣に問いに向き合い、言葉をしぼり出していた。
だが、番組の後半で1箇所だけ、鳥居が果敢に強気なボケを繰り出す一幕があった。他人とわかり合えるかどうか、という話題について、彼女は持論を蕩々と語った。
「やっぱ言葉って限界があるじゃないですか。辞書とかよく読むんです、暇なときとか。だけど、やっぱ私が表したいのは、これかこれしかない、これじゃないんですけど、こことここの間とかいうことがよくあって。だから、それが、言葉っていうのに限界があるから、思ったのと違う感じなんですよ。それが、ちょいズレ、ちょっとズレがあるんです。それで、だから、100パーの理解は得られないです、お互いが。だから本人にしかわからない。先生ともそうです。全然わかり合えない」
だが、菅野はひるまなかった。すかさず「すいません、でも、わかり合おうとはしてるんですよ」と切り返し、冷静かつ誠実に対話を続けていった。
真面目と不真面目の境界線を自由に行き来して、隙を見ては冗談で混ぜ返す奔放なトーク術を売りにしている鳥居が、この番組ではその特技を封じられながらも、堂々とした振る舞いを見せていた。この2人のやりとりそのものが、ズレながらもゆっくりと近づき合う、コミュニケーションの理想のあり方を象徴しているようだった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
イラスト:マミヤ狂四郎