猛暑の毎日、こう暑いと辛いものを食べて暑さを吹き飛ばしたい気分になる。そこで激辛マニアの間で日本一、いや世界一辛いと噂されるカレーを食べに行ってみた。東京都文京区にある『大沢食堂』は、元キックボクシングのチャンピオン大沢昇氏が経営している食堂だ。ここでその世界一辛いカレーが食べられるという。
軽い気持ちでお店を訪ねた取材班だったが、想像を絶する辛さに悶絶! 辛いなんてもんじゃない。痛い! 口のなかが痺(しび)れる! 気を失いそうなほどの辛さに、暑さを忘れ寒気さえ感じたのだった。
お店は東洋大学白山キャンパスの近くにある。現在は夏休みで、この日学生の姿は見られなかった。お店に入るとチャンピオン時代の店主大沢氏のポスターが飾られている。キックボクシングの本場タイで『ビッグハート』とたたえられている大沢昇氏。極真空手、ボクシング、キックボクシングと3つの異なる格闘技で名を馳せた男だ。『小さな巨人』と呼ばれるにふさわしく、存在感がデカい。
大沢氏に気を取られていると、「注文は何になさいますか?」と店員の女性にオーダーを聞かれた。記者は迷わず「極辛カレー」と答えた。すると、店員さんから意外な答えが返ってきたのだ。
店員 「本当に大丈夫ですか? 食べられますか?」
記者 「え! ええ。是非お願いします」
店員 「本当に大丈夫ですか?」
記者 「はい」
店員 「本当に辛いですよ」
記者 「ええ。食べます」
と10回くらい同じことを繰り返し、なかなかオーダーをとってくれない。そんなに辛いのか? そこまで言われると余計に食べたくなってしまう。「是非、極辛で」と念を押していうと、「じゃあ、一口極辛で試された方がいいですよ」と、味見をすすめられたのだ。
言われるままに『一口極辛』をオーダー。しばらくして小さなお皿にカレールーが盛られて出てきた。見た目はオレンジ色をしている。匂いをかいでみたところ、痛い! 匂いが痛い。香辛料のせいだろうか、目と鼻がチクチクするほど辛さが漂ってくる。そして、一口パクリ。ギャーーーーーーーーーーーーー!! イテーーーーーーーーーーッ!!
口から鼻にかけて火が出るような辛さ。これは食べ物か? と思ってしまうほどの破壊力だ。吐き出したい。今すぐ吐き出したい。しかし、あれだけ繰り返し「本当に辛いですよ、大丈夫ですか?」と聞かれ、引くわけにはいかない。なんとか気合で一口極辛を飲み込んだ。
どうしよう……。これで極辛カレーを注文しないわけにいかないよな。試したのに食べないのはカッコ悪いし、やっぱ止めますとは言えない。少量食べただけなのに、自分の人生が走馬灯(そうまとう)のように頭をよぎった。これは覚悟を決めないとヤバイことになる。直観的に身の危険を感じるのだ。このまま倒れても悔いはないだろうか。やり残したことはないだろうか。しばらく自問自答を続けた後に、過去に悔いはないことを確認した。
「極辛カレーをください」と、泣きそうな気持ちをおさえて注文。ここからが本番だ! そして本物の極辛カレーがやってきた。やはり匂いが痛い。見ているだけで涙が出てくる。一口バージョンの20倍くらいの量はあるだろうか。白いご飯が天使のように見える。カレールーは悪魔だ。悪魔のように煮えたぎったオレンジ色をしている。意を決してまずは一口。その瞬間、涙と鼻水と汗が一気にふき出した。
アイーーーー!! 痛い、痛い、痛い、辛い、痛い、痛い、辛い、辛い、痛いーーーーーッ! 口のなかがシビレル。ご飯で辛さをやわらげてなんとか持ちこたえたが、まだたったの一口。あと何口食べれば良いのだろうか? とても果てしない道のりだ。なんとしてでも食べきらなくては……。時々こちらに向けられる大沢氏の視線も痛かった(そう、元キックボクサーの大沢氏が厨房にいるのである)。
記者は一口食べてはスプーンを置き、また一口食べてはスプーンを置いてカレーとの格闘を続けた。途中、何度くじけそうになったことか……。諦めそうになるたびに大沢氏のポスターを見て、「俺も巨人になるんだ!」と言い聞かせた。そしてゆっくりゆっくり食べながら約30分で完食。後半は何も考えることができなくなり、半分くらい記憶がなかった。精魂(せいこん)使い果たし、背中にはビッチョリと汗が。おかげで相当涼しくなった。
激辛マニアは一度挑戦してみて頂きたい。想像のはるかに超えた辛さに驚かされるはずだ。ただし、絶対に最初は一口極辛で味を試してほしい。店員さんから何度も確認されるが、ハンパな辛さではない。そして食後8時間以内にトイレから出られなくなる。また翌日もトイレに閉じこもる羽目になるので十分にご注意を。
食べた経験者として、ちょっとした工夫を思いついたのでお伝えしておこう。その工夫とは、なるべく水を飲まないこと。水なしで食べられるカレーではないが、口のなかにルーが残っていると水で辛さが倍増してしまう。水を飲むときは口のなかを空っぽにした方が安全だ。
また、食べ始めのうちにできるだけルーを消化しておいた方がいい。辛さに臆病になってしまう前に、ドンドン食べ進めよう。後半はご飯を口に入れて休みながら進めると、完食できるだろう。ヤバイと思ったらムリをしてまで食べきろうと思わないことだ。体調が思わしくないときには絶対に挑戦しないように。
■店舗情報
店名: 大沢食堂
住所: 東京都文京区本駒込2-1-5
営業時間: 11:00~14:00(ラストオーダー13:30)18:00~23:00(ラストオーダー22:30)
定休日: 日曜、祝日
TEL: 03-3945-1601
Photo by Rocket News24 Staff / 佐藤記者撮影