
寿司、天ぷら、すき焼き、芸者など、これらの単語は海外でも広く知られているため、そのまま話しても外国人にも通じる日本語となっている。忍者という日本語も広く知られている日本語だが、「忍者」の起源とされる「忍び」という言葉を最初に使った人物をご存知だろうか? その人物とは、聖徳太子である。この事実は、我々日本人の間でもほとんど知られていない。
日本人でさえ知らないことが多い「忍者」の実態だが、海外ではさらに “間違った伝わり方” をしているという。「このままじゃいけない!」と思ったのか、忍者について正しく理解してもらうため、日本から情報を発信する夫婦がいる。アメリカ人のマット・アルトさんと日本人の依田寛子さんだ。二人は日本文化を正しく海外に伝えるために、とてもユニークな書籍を執筆しているのだ。
『外国人のための忍者常識マニュアル- Ninja Attack !: True Tales of Assassins, Samurai, and Outlaws』(以下、忍者アタック)、この本は日本人にもためになる忍者の常識マニュアルなのだ。
マットさんと寛子さんは学生時代に出会い、アメリカで結婚。日本のゲームを海外向けに翻訳する会社を立ち上げ、アメリカで事業を行っていた。しかし日本企業を相手にアメリカで仕事をするのは不便であったため、2003年に日本に移住。株式会社アルトジャパンを設立し、現在まで翻訳業を行っている。 『NINJA GAIDEN』シリーズや『ガンダム無双』、『ドラゴンクエスト8』などのゲームも二人の手によって翻訳され、海外ユーザーの元へ届けられた。
順調に翻訳業を続ける二人だったが、どうしてもやりたいことがあった。それは自分たちの知る日本を、海外にもっと正しく伝えること。日本語として知られている言葉は数多くあるものの、そのほとんどが間違って伝わっているという。その原因について寛子さんは文化の違いを指摘している。
「たとえば『妖怪』という言葉がありますが、この言葉は日本人にとって自然に理解できるものです。でもアメリカでは『妖怪=悪魔』と受け取られてしまうんです。妖怪は悪魔ではないし妖精でもない。いわば身の回りの物を擬人化したのが『妖怪』なんですね。そのことを説明するのに、まずは日本の文化を理解してもらわないと伝わらないんですよ」。
二人が最初に出した著書『外国人のための妖怪サバイバルガイド – Yokai Attack!: The Japanese Monster Survival Guide』は、妖怪を正しく伝えるために大変苦労したそうだ。
「妖怪は悪魔で、忍者は殺人鬼だと思われてるんです。『忍者アタック』を発刊するニュースが海外で流れたとき、ある方から、なんで殺人鬼の本を出すんだ! と苦情がきたこともありました。でも、忍者は殺人鬼じゃない。日本語は言葉だけが一人歩きして、本当の意味が伝わっていないんです」。
ワシントンD.C.出身のマットさんは、子どもの頃から日本大好き。日本のアニメや漫画を見て育ち、流暢(りゅうちょう)な日本語を話す。日本文化を心から愛するマットさんだったが、学べば学ぶほど間違った伝わり方をしていることに気付く。そして起業後、自らの手で正しい文化を伝えたいと思い、出版を決意したのだ。
二人はまず手始めに、海外でまったく認知されていない妖怪についての本を執筆。次いで誰もが知っている忍者の本を書いた。『マイナーな文化(妖怪)』と『メジャーな文化(忍者)』を伝えることによって、日本文化の輪郭(りんかく)を伝えたかったのだ。どちらにも苦労はあったが、特に忍者に関しては誤解が激しく、その誤解を解くのに苦心したという。
ちなみにインターネット検索『Google』で「ninja」(忍者)を検索すると、世界中の情報が6200万件もヒットする。それに対して「sushi」(寿司)は2500万件。忍者は寿司よりも有名だ。なぜそんなに忍者は有名なのか? 忍者の人気についてマットさんはこう語る。
「アメリカのヒーローは全部、最初からヒーローなんですよ。ヒーローは選ばれた人なんです。スーパーマンは宇宙人だし、バットマンやアイアンマンは金持ちだし。選ばれた人しかヒーローになれない。でも、忍者は修行すればなれる。事実はそうじゃないけど、海外では努力すれば忍者になれると思われています(笑)」
わざわざ自分から「俺は忍者だ」と名乗る人もいるという。それだけ人気があるにも関わらず、忍者の起源や役割についてはほとんど知られていない。海外に限らず、日本でも知る人は少ない。
「忍者の起源の『しのび(志能便)』という言葉を最初に使ったのは聖徳太子です。忍者装束を最初に描いたのは、浮世絵画家の葛飾北斎なんですね。私たち日本人も歴史でそのことを学んだりしないですよね。忍者って知ってるようで知らない存在なんですよ」と寛子さん。彼女も資料を集めていくうちに忍者の実像を学んだそうだ。
「忍者は柔道や空手と違って、武術のサブカルチャーみたいなものですね。秘密がたくさんある。その秘密が魅力的に感じるのかも知れません。『忍者アタック』では、できるだけわかり易く丁寧に忍者について解説しています。日本人の方にもぜひ読んで頂きたい」
マットさんはアメリカ人ながら、日本人よりもはるかに日本について詳しい。本書は全文英語だが、中高生くらいの英語の教養があれば辞書を片手に簡単に読み解けるそうだ。
学生が夏休みの間に英語の勉強のつもりで読むのもいいかもしれない。日本人すら知らない忍者の秘密を知る本にもなるだろう。二人は現在、さらに日本文化を伝えるために新たな書籍の執筆に取りかかっているそうだ。『忍者アタック』が発刊されたばかりだが、早くも次の作品が楽しみだ。
Photo by Rocket News24 Staff / 佐藤記者撮影

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