
2年前、私(耕平)は香川県にある「牛島(うしじま)」という人口10人ほどの離島を取材した。当時からずっと気になっていたのが、さらに奥にある島の名前だ。その名も……
『本島』
いや、離島なのに本島って……離島に渡る船に乗って「本島に行ってきます」と言っている自分の状況が、どうにもシュールだ。
この矛盾みたいな名前が頭から離れず、また丸亀までやってきてしまった。ちなみにこの日の最高気温は37度である。今思えば、この時点で少し冷静になるべきだった……。
・離島なのに「本島」
初の『本島』に上陸すべく、高松市から電車でJR丸亀駅に移動。徒歩で約8分かけて、丸亀港に到着。
12時10分発の船に乗る。港には、本島のスポットが記載されている地図が。
2年前に行った牛島を経由して……
20分ほどで本島港に到着。瀬戸内海を渡る船旅としては、あっという間だ。
そもそもの話だが『本島』の読みは「ほんとう」ではなく「ほんじま」だった。ここは塩飽(しわく)諸島という島々の中心にあたる島。
かつて塩飽水軍という、織田信長をはじめとした歴代の天下人が認めた水軍の本拠地だった場所で、その諸島の中心にある「本(もと)」の島というのが、名前の由来らしい。
港に着いてまず借りたのが、レンタサイクル。
普通の自転車が600円、電動自転車が1500円。900円の差に一瞬だけ迷ったが、迷わず電動を選んだ。
結論から言うと、この判断だけは完全に正しかった。本島は坂道が多すぎるので、電動じゃないと完全に詰む。むしろ、900円で体力を買ったと思えば安いくらいだった。
貸出の手続きを済ませ、さっそく島へ漕ぎ出す。
しばらくすると、集落の分岐点に到着。
走り出してすぐ気づくのは、島の規模に対して建物が立派なことだ。市民センターなど、想像していた「小さな離島」のイメージとは違う施設が点在している。かつて自治が認められていた島だと後で知って、なんとなく納得だ。
島内にはバスも走っている。小さなワゴン車のようなバスだ。
バス停があり時刻表を見てみると、だいたい1日3便あるようだ。
途中ですれ違ったおまわりさんが「こんにちは」と挨拶してくれた。こういうところが島だなと思ってほっこりする。
・天下人に認められた島
最初にたどり着いたのは「塩飽勤番所跡(しわくきんばんしょあと)」。
入館料は200円。ガイドの方が本島の歴史を丁寧に解説してくれた。そして、この島の歴史が想像をはるかに超えていた。
30分くらい歴代の天下人の朱印状などを堪能して、島の奥へ進む。自転車を漕ぎ続けると、島の外周は瀬戸内海がとにかく綺麗だ。
しばらくすると、城下町みたいな集落が現れた。笠島(かさしま)地区である。
「丸亀市塩飽本島町笠島 伝統的建造物群保存地区」と刻まれた石碑。国が指定した、重要伝統的建造物群保存地区らしい。
雰囲気は少しだけ、同じ香川県の人気スポット「直島(なおしま)」に似ているかもしれない。ただし直島のようにアート化されているわけではない。
そして何より、人が全然いない。
なぜか集落には、その雰囲気に似つかわしくない「マッチョ通り」と呼ばれる場所もあった。
インバウンドの観光客で島中が賑わっている直島に比べて、同じ瀬戸内海の島とは思えないほど、ここは静かだ。ものすごい隠れスポットなのではないだろうか。集落には本島で1、2を争う名所『吉田邸』もあった。
ただ、この時の私は「まず島を一周しよう」と考えて、中には入らなかった。これが、のちの過酷な展開につながるとは想像もしていなかった──。
・次の船は3時間半後
笠島地区を出て、再び自転車を漕ぎ出す。
14時台の高速船で丸亀港に戻るべく、スマホのマップを開くも、なんと電波が繋がらない。ただ道は外周で1本道だったので、ひたすら自転車を漕ぎ続けて、14:25に港の待合所に到着。
そして港の時刻表を見て、私は完全に固まることになる。
過ぎていた。
本島港発は8時30分、14時15分、16時52分、17時50分、19時30分。一見すると便はそれなりにあるように見える。しかし16時52分の便は里浦港(牛島)止まりで、丸亀には行かない。
つまり、14時15分を逃した私が丸亀に帰れるのは17時50分。約3時間半、さらに島に滞在することになってしまった。
そんなわけで、もう少し島を散策しようと思い、再び自転車を漕ぎ出す。そして誰もいない海で汗を拭いながら、ボーッとする時間を30分ほど過ごす。
そして自販機を見つけ、そばのベンチで力尽きて休んでいた時のこと。どこからともなく、猫がたくさん寄ってきた。
疲れ切っていたはずなのに、本当に癒された。人には全然会わないのに、猫にはやたら好かれる島である。
途中で「色えんぴつアート」という施設を見つけて立ち寄ったり……
ヤシの木の向こうに瀬戸大橋が見えるという、南国なのか本州なのかよく分からない景色に出会ったりもした。
最後は港の近くにある島カフェへ。
目の前に瀬戸内海と瀬戸大橋が広がる眺めを堪能しながら、レモンサワーと軽食を味わう。疲れ切った体に、これ以上ないほど染み渡った。結果的に、船に乗り遅れなければこの時間は無かったわけである。
正直に言おう。炎天下の中、電動自転車と言えど15kmくらい走り続けたのは、つらくてキツかった。だが本島は、直島ほど観光地化されていない、本当の意味での隠れスポットだった。落ち着いていて、「離島に来た」という実感がきちんとある。
もし香川県に行く機会があれば、うどんや直島だけでなく、本島も候補に入れてみてほしい。ただし船の時刻表だけは、先に確認しておくことを強くオススメする。
参考リンク:丸亀市公式サイト
執筆:耕平
Photo:RocketNews24.
▼島の待合所には「本島でロケ!」の写真がずらり。意外と芸能人が来ている