
さすがにもう大人なので見に行かないし、我慢もしている。
でも、それこそ小学生の頃は、台風が来るたびに必ず川を見に行っていた。
そういう子だった。
生まれてから16歳まで中目黒に住んでいた。それも駅前から徒歩30秒ほどの場所。
決して裕福だったわけではなく、たまたま最初からそこに住んでいただけの話。
しかも我が家は瓦屋を営んでいた。オシャレとは無縁の中目黒っ子である。
今でこそ春になると、お花見目的で駅が人でごった返すほどになった中目黒と目黒川。
しかし昔は今とはまったく違う川だった。
昔から中目黒に住んでいた人ならご存じだと思うが、平たく言えばドブ川だった。
緑というか、どす黒い水が流れていて、とにかく臭い。
今の目黒川周辺はオシャレな店や家であふれている。家賃も土地の値段も高いのだろう。
でもおそらく昔は真逆だったと思う。だって、臭いドブ川のすぐ近くだったのだから。
そんな目黒川は、台風の時、氾濫しそうになることも珍しくなかった。サイレンが鳴り、町に危険を知らせていた。
我が家から目黒川までは徒歩1〜2分。
私は台風の時に目黒川を見に行くのが好きだった。
とんでもない迫力で、水しぶきを上げながら凄まじいスピードで流れていく。
いつもはただのドブ川なのに、その日だけは別の生き物のような姿になる。
普段とはまるで違う姿を見たい。その気持ちだったのかもしれない。
長靴を履き、カッパを着込み、くるぶしや脛のあたりまでたまった雨水をザブザブかき分けながら、目黒川を見に行く。
台風の時は、ワクワクしていた。警報が鳴るとそのテンションは最高潮になっていた。
決して褒められたことではない。
しかし、そういう性格だったのだ。
もちろん、今はもう大人なので子供の時のようには行動しない。
今の家の近くにも、歩いて5分ほどの場所に川があるが、見に行くことはない。
ただ、正直に言うと、見に行きたい。
絶対にダメなことだし、自分でもバカだなと思う。
でも本音を言えば、見に行きたいのだ。
どんな姿になっているのか知りたいのだ。
よくテレビで、台風の時に海や川を見に行って流されたという悲しいニュースを耳にする。
心が痛む。
なぜ見に行ったのか、と多くの人は思うだろう。
もちろん、それぞれ事情は違うだろうし、ひとくくりにはできない。
でも中には、もしかしたら私と同じような気持ちだった人もいたのかな、と思ったりする。
大人になるということは、我慢を覚えるということ。
決して、台風の時に川や海を見に行ってはいけない。
童心に帰ってもいけない。
だから私は今日も、家の中でじっと我慢している。
心のどこかで川のことを気にしながら。
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24