
スキマバイト、クラウドソーシング、ギグワークにスキルマーケット……マッチングサービスを通じたスポットワークが盛んだ。
とくにインターネットを通じて広く仕事を発注・受注するクラウドソーシングはお手軽だ。低単価など構造上の問題はあるものの、間にプラットフォーム(仲介サービス)が入ることで金銭トラブルを防げ、履歴書の提出などなく簡単にマッチングできる。
が、その手軽さを逆手にとった詐欺や、仕事が目的ではない悪質な案件が混じっている危険性が、これまでもたびたび指摘されてきた。以下は筆者が実際に体験した話だ。細部は加除しているが、起きた出来事についてはほぼそのまま記した。
・「誰にでもできる簡単なお仕事」とは
ライター業を始める前から、趣味でお絵かきしたり、自作キャラをゲームにインポートして遊んでいたりした筆者。人に売れるほどではなくとも、もうちょっと写真やデザインを学びたいなぁと思っていたとき、「画像作成やデータ入力など、パソコンを使った事務補助」という依頼を見つけた。
説明文には「マニュアル完備、丁寧に教えます」「特別な実務経験は不要」「コツコツ継続するのが得意な人へ」とある。月額報酬目安は10万円で、クラウドソーシングでは目を引く好待遇だが、都内でアルバイトをしたら最低時給でも普通に到達する金額だ。事務補助ということだから、毎日それなりの業務量がある仕事なのかなと単純に思った。
応募するとすぐに、オンラインミーティングが指示された。サイト外での直接連絡が禁止されているプラットフォームも多いが、手続きをすれば許可を得られる。この手順はきちんと踏まれていた。
ミーティングは顔出しありで、非常~に感じがよく礼儀正しい男性が担当してくれた。「応募の動機」などごくオーソドックスな質問から話がスタート。続いて仕事の内容が説明される────と思ったら唐突に課題が始まった。「5分で考えて入力してください」などの指示に応じて、チャット画面にテキストを打ち込むものだった。
「個人情報を書け」とか「管理者権限でコマンドを入れろ」といった危険なものではなかったが、心の準備もない抜き打ちテストのようで、なかなか圧があった。「なんか不誠実だな……」と思った筆者の内心とは裏腹に、一次選考の通過が告げられた。また「以降の連絡はLINEで」と言われた。なんだかよくない空気を感じた方、その通りだ。
・徐々に明らかになる事実
そうして始まった本選考。前回とは違う、けれども同じく人あたりのいい担当者から会社紹介があった。躍進中のIT企業で、説明を担当している自分も、先行して契約したワーカーも、月収にして数十万の利益を上げているという。AIで作成したという美しい画像や動画も提示された。
募集は簡単な事務補助だったはずだが、どうも話が違う。「クレジットカードを所持しているか」「○○の有料アカウントを持っているか」などの質問もちょいちょい気になる。そこで最終的に示された仕事は、流行りの「SNS運用代行」だった。
話は続く。SNS運用が軌道にのれば、月収100万円も夢じゃない。そのレベルになるまで数か月かけて丁寧に育成してくれ、マンツーマンでのオンラインサポートもある。指導を終える頃には初心者でも受注実績○○件……
そして気になる指導料は、わずか10万円! 将来への投資であり、数か月後には収入で簡単にペイできる!!
なお、育成期間中はその会社からの仕事はないが、十分に成長したら契約のチャンスが与えられる。仕事がないあいだは、他社案件を受注できるよう全力サポート……って、ぅおいっ!!
いつの間にかこちらが受講料を払う話になっていた。これがいわゆる「スクール勧誘案件」かと、膝から崩れ落ちた。実際にスクールでスキルを身につけられるなら詐欺ではないかもしれないが、多くのプラットフォームで「仕事のふりをしたスクール勧誘」は規約違反となっているはずだ。
面談に費やした時間がもったいなかったし、なにより「足元を見られた」のが悔しい。もちろん選考は辞退した。
・おかしいと気づけたはずのポイント
違和感は途中で何度もあった。
詐欺や悪質案件の見極めで、これまでヒントになった「スカスカのプロフィール欄」「とってつけたような依頼文」「ミスの多い文章」などの手がかりは、今はほとんどあてにならないと思う。AIを使えば簡単に、長文かつ内容充実のプロフィール欄を作れるからだ。今回の依頼も、募集にいたった経緯や、会社の理念などをとても丁寧に書いていた。
しかし「似たような依頼が複数あるなぁ」ということは薄々気になっていた。アカウントが違うし、日付もタイトルもアイコンも同一ではない。文面も違う。でもなんとな~く「これ、みんな同じ人がAIで作ったんじゃ?」という “匂いのようなもの” を感じる。「長文びっしりなのだが具体性がなく、肝心なことがわからない」のも特徴だ。
また、それらのアカウントはどれも数件の実績しかない、個人アカウントのような地味なものだった。実績がゼロではないのは、例えば内部の人間がそれぞれ個人アカウントを作って、互いに受注すれば再現可能だ。
企業の名前でしっかりアカウントを開設しないのは、いざというときのためだろう。違反通報がある → アカウントを閉じる、を繰り返しているのかもしれない。
何人もの担当者が入れ替わり登場することや、自社の上司を敬称で呼ぶなど「ん?」と思うビジネスマナーもあった。担当者はみな物腰やわらかく、一見するとしっかりしたビジネスパーソンに見えるのだが、もしかしたら彼らも社員ではないのかもしれない。
仕事内容が「無理なくできる」「簡単な仕事」「マニュアル完備」など美辞麗句ばかりだったこともブレーキポイントだ。世の中そんなにうまい話はない。
とはいえ、思いがけず誠実かつ良識的なクライアントと出会うこともあるので、一概には言えないのが難しいところ。LINE連絡も怪しいのだが、中小企業の社長さんなど、悪意なくLINE限定という人も居るには居る。
・きっと知識は身を守る
今回はたまたま「なんか変だな」という気持ちがあったので、辞退するのに心理的な抵抗がなかった。でももし、まったく無防備な状態、心の準備がない状態で臨んでいたら、「チャンスを逃したくない」という気持ちで先に進んでいたかもしれない。
それに「ここまで説明させたのに話を打ち切るのは申し訳ない」「相手に失礼かもしれない」などと感じ始めたら、余計に断りづらくなる。
「知識がある」「心の準備がある」ことは身を守る最大の武器だ。筆者の経験がどこかで誰かの役に立ったらこの失敗も浮かばれると思い、恥をさらした次第だ。
執筆&イラスト:冨樫さや
Photo:RocketNews24.