
人生において誰でも1度は口にしてみたい言葉があるはず。たとえば、「前の車を追ってくれ!」とか「俺に構うな、先に行け!」とか。私(佐藤)もひとつある。それは相談に乗ってる場面で、「少し歩かないか?」と言ってみたい。
そこで実際に後輩の相談に乗ってる場面で使ってみた! ……ただし、「少し」の加減がわからずに思わず10時間も歩くことになってしまったんだが……。
その日、私は後輩の中澤星児と新宿駅にいた。2人でベンチに腰かけて仕事について相談を受けていた。
中澤「この先、どうなるんですかねえ。僕は不安ですよ、世の中も慌ただしく変化する中で、僕たちはこのままでいいのか? ってね」
佐藤「そんな辛気(しんき)臭い顔すんな。今までだって俺たちいろいろやって来ただろ。お前も入社して10年、うちのサイトももうすぐ20年だ。今までと同じように、コツコツやるのが1番だと思うぞ」
中澤「そうなんですかねえ。変わっていくことも大事じゃないですか」
佐藤「そうだな。でも見ろよ、あの雲を。形は変化しているけど、雲は雲のままだ。俺たちもそういう存在でいたいよな?」
中澤「名言みたいに言ってますけど、ちょっと何言ってるかわかんないですね」
佐藤「……ったく、お前は難しく物事を捉えすぎなんだって。ようするにフィーリングだ」
中澤「でもねえ、感覚だけでは済まないこともあるでしょ」
佐藤「細けえことはいいんだよ、星児。……なあ、少し歩くか?」
ということで私と中澤の「少し歩き」が始まった。
佐藤「こっちだ」
中澤「はい、ついていきますよ」
佐藤「たまには目的地も決めずに歩くのも大事だぞ」
中澤「そうっすねえ、僕らはいつも取材で「ここに行く」って決めて向かってますからね」
佐藤「ブラブラ歩いた方が、ささいな物事に目が向いたりするからな」
佐藤「とりあえず真っすぐ行くぞ」
中澤「はい」
佐藤「今日は天気がよくて気持ちがいいな」
中澤「風は冷たいっすけどね」
佐藤「おお、もう原宿についた」
中澤「歩くと意外と近いですよね」
佐藤「ここが原宿か~」
中澤「ハラカドは上の方がスゴイんですよね」
佐藤「あのえぐれた建物だろ。実は俺、1回も入ったことないんだよ」
さらにそのまま直進して渋谷に到着。
そこでハチ公像の前で記念撮影。
佐藤「たまにはハチ公と写真を撮るのもいいもんだ」
中澤「たしかに都内に住んでても、あまり撮ることはないかも」
佐藤「以前いつ撮ったか思い出せん」
そこから南下して約2キロの道のりを30分歩いて目黒川に到達。
佐藤「さすがにまだ桜は咲いてないな」
中澤「まだ2月ですからね、1カ月先でもまだ咲いてないかもですよ」
時刻は11時、9時半に歩き始めてここまで1時間半。昼にはまだ早いが、小腹が減ったので、高架下の「アイムドーナツ」でドーナツを買うことに。オープン当初は長蛇の列だったけど、平日の早い時間が空いてるな。
私はピスタチオ、中澤はカスタードを購入。
中澤「初めて食べますけど、美味いっすね」
佐藤「人気なのもわかるな」
我々はそこからさらに1時間南下していって、環七沿いに立ち食いそば屋を発見した。
「立喰そば よりみち」、時刻はちょうどお昼過ぎだ。昼を食べるのには頃合いなので、「よりみち」に寄り道することにした。
店内は立ち食いカウンターのみで、外のベンチも利用可能だったので、外で座って食べることに。中澤は「アジ天そば」(税込500円)に「春菊天」(税込150円)をトッピング。
私は「いか天そば」(税込500円)に「かき揚げ」(税込150円)をトッピング。
歩き始めてすでに2時間半、多少は疲労がたまり始める時間であったために、そばの旨味が思いのほか身体にしみる。サクサク天ぷらかと思いきや、フワフワ衣のタイプで、優しい味の出汁によく馴染む。
気づけばすでに約10キロも歩いていた。
中澤「なんかどこまででも歩けそうですね」
佐藤「どこまででも行けるさ、俺たちなら……」
食後の一服にドトールコーヒーに立ち寄った。
佐藤「どうせ、急ぐことはない。あちこち寄り道して行こうぜ」
中澤「どこに行くつもりかわからないですけど、佐藤さんについていきますよ」
我々は知らずのうちに東急東横線に並走していた。なんとなしに南下していったところ、どうやら多摩川まで来たようだった。
佐藤「あの陸橋、もしかして多摩川か?」
中澤「そうっすね、橋が見える」
佐藤「ということは東京の端まで来たのか」
中澤「あの向こうは神奈川ですね」
佐藤「今年は降水量が少ないから、水位が低いかと思ったら、そうでもないな」
中澤「ちゃんと川してますね」
佐藤「多摩川に来たぞ」
中澤「河川敷ってなんかテンション上がりますよね」
佐藤「よし、河原で写真撮ろう! ジャンプして撮ろう」
中澤「いいっすよ。じゃあ、タイマーをセットして1・2・3で飛びましょう。行きますよ、1・2・3!」
パシャ!
中澤「低! タイミングが合ってなかったみたいですね」
佐藤「もう1回行くぞ、1・2・3!」
パシャ!
中澤「佐藤さん、低いっすね」
佐藤「ちゃんと飛んでるって。というか、4時間歩いたあとのジャンプはキツイ……。タイマーは合わんから、動画で撮ろう」
ということで、動画で撮った映像をカットしました。
佐藤「もうコレでいいだろ」
中澤「ジャンプの撮り直しでかなり体力削られましたよ。すでに結構足にダメージが来てるというのに……」
佐藤「お互い疲労が蓄積してきたな。左脚の膝裏が痛くなってきた」
中澤「でももう横浜まであと19キロ」
佐藤「行くか、横浜! あと19キロだし」
中澤「いや、近いみたいに言ってますけど、かなりありますよ……」
佐藤「武蔵小杉まで来たか。高層マンションがすごいな、この辺は。ちなみに今何歩くらい歩いたんだろ」
中澤「僕のスマホだと3万歩超えてますね。といっても、自宅(渋谷)からのカウントですけど」
佐藤「ここまで歩けば、自宅だろうが何だろうが相当歩いているに違いないぞ」
とりあえず横浜まで歩くことが決まったので、引き続き南下していく。武蔵小杉を後にして日吉までの約2.8キロ40分の道程は、振り返ると1番キツかった。本格的に疲労がたまり始めると共に、2人も足が痛くなり始めていたからだ。
おまけにまだ時間が早かったため、引き返す選択もなくはなかった。行くか? 戻るか? その間で2人の決意は揺れていた。何とか励ましあって、日吉に到着。
ここで今一度休憩にドトールへ。急がないのならゆっくり進もうってことで、2度目の休憩をとった。
序盤は弾んだ会話も控え目になり、気づけばどちらも黙っている。黙々と歩く、ただ黙々と……。
ようやく菊名まで来た。
時刻は16時30分、出発して7時間が経過している。日が沈む前までに横浜にたどり着いておきたかったけど、どうやらそれは叶わなさそうだ。
佐藤「もう日が沈むな」
中澤「そうっすね。1日が終わって行きますね」
佐藤「今何歩くらいだ?」
中澤「4万歩超えてますね」
佐藤「歩いたな」
中澤「まだ歩かないと……」
あと1時間で横浜駅に着く。そうと知りながら、我々は目的地を変更することにした。
佐藤「ここまで来てるのに、中華街行かないのはないよな」
中澤「そうっすね、行かずに帰るのはなしですね」
ということで、横浜駅から電車なら15分、徒歩なら1時間かかる横浜中華街へ向かうことになった。つまり徒歩を終える予定時刻が1時間延長されたことになる。
佐藤「行くしかねえな」
中澤「行くしかないっす」
横浜市中央卸売市場の時計を見ると、もう18時を回っている。朝9時に新宿駅にいたのが遠い過去のようだ。
もう2人に笑顔はなかった。多摩川でジャンプしていたのが最後だったかもしれない。そんな2人が顔を上げたのは、もうすぐみなとみらいという地点だった。
佐藤「あ、アレは!?」
中澤「ついに来ましたね!」
佐藤「横浜に来たなあ」
中澤「来ましたよ。ここまで」
佐藤「街の灯りがとてもキレイね、横浜~♪」
中澤「なんすかソレ」
佐藤「『ブルーライトヨコハマ』だよ、知らねえのか」
中澤「知らないっす」
佐藤「コスモクロック21まで来たな」
中澤「観覧車デカいっすね。キレイだな、これぞ横浜」
佐藤「赤レンガ倉庫だ」
中澤「中華街はもうすぐそこですね。早く着きたい。そしてもう帰りたい……」
中澤「ついに5万歩行きました」
佐藤「こんなに歩いたのは初めてだ。俺は今まで3万歩の壁を超えたことがなかった」
中澤「記録更新ですね」
佐藤「あと少しだ。2つ先の通りを左」
中澤「うわ~、来た。漢字の看板が増えてきた」
佐藤「来たな、ついに」
佐藤「来たぞ、中華街~! 今時間はちょうど19時だ。9時の集合からちょうど10時間、歩き始めて9時間半。ついに!」
中澤「いや~、長かった。とりあえず座りたい」
ということで、私が以前訪ねたお店「北京料理 慶華楼(けいかろう)」へ。私も中澤も疲労困憊。しばし会話もなく、ただただ疲れに身を委ねたのだった……。
そして食事でエネルギー補給。食事で癒されるレベルの疲れではなかったが、それでも座っていられるだけ十分だった。
最終的に中澤のスマホの計測では、5万4424歩を記録していた。仮に中澤が家から4000歩を歩いていたとしても、5万歩歩いたのは間違いなさそうだ。
そんなわけで佐藤と中澤は新宿から横浜中華街まで、徒歩で来た!
~ 完 ~
執筆: 佐藤英典
Photo:Rocketnews24
Screenshot:Google Maps
▼約32キロの道のりを9時間半かけて踏破
▼ この記事はいかがでしたか? ご感想をお待ちしています
Take Our Survey