
「その土地の本当の姿を知りたいなら、一番厳しい季節に訪れろ」という言葉がある。北海道なら間違いなく厳冬期だろう。
とはいっても、寒冷地への旅は簡単ではない。氷点下の気温、飛行機の欠航リスク、乱れる交通ダイヤ、荷物は多くなりがちで、冬季閉鎖の観光地も珍しくない。
漫画『ゴールデンカムイ』に魅せられて、何度も北海道を訪ねた筆者も冬だけは避けていた。どんなに猛吹雪でも生足にルーズソックスをつらぬいたのは四半世紀も昔。今は玄関まで行ったところで「寒いから」と外出をやめる虚弱中年だ。
しかし今年ついに決意した。生まれて初めて冬の北海道に上陸したのだ。
・ついに来た「さっぽろ雪まつり」!!
2月にウィンタースポーツ以外で人々が北海道を訪れる大きな理由……それは「さっぽろ雪まつり」だろう。札幌市の大通公園をメイン会場として巨大な雪像が並び、国内外から200万人以上が訪れる冬の風物詩だ。
とは言いつつも、東北育ちで雪というものに特段のロマンチシズムのない筆者は、ぶっちゃけ「寒いときにわざわざ寒いところに行って雪を見るなんて正気の沙汰じゃない」と思って生きてきた。
しかしまぁ、来たからには楽しみたい。調べたところ、見どころの「大雪像」は東西に細長~い大通公園に点在している。だいたい真ん中らへんにあるのが陸上自衛隊制作の「会津 鶴ヶ城」……
これか! 暗闇に浮かび上がる白亜の城!
冬の夜は空気がめちゃくちゃ澄んでいる。防火帯の役目をもつ大通公園は人工物が少なく、樹木も葉を落とした今は視界を遮るものがない。そんななか、くっきりと浮かび上がる純白の巨大構造物。黒い夜空が絶妙なコントラストを生み出す。真っ白な雪像は、まるで自ら発光しているみたいに見える。清らかにして精悍。う、美しすぎる……!!
……と思ったらド派手なプロジェクションマッピング始まったー!!!!
一定間隔で披露される音と光のショーアップに、会場から歓声があがる。純白もいいけれど、ピッカピカにカラフルなのもまたよい。
狙った場所にピンポイントで投射できるプロジェクションマッピング。モノクロ映画からの進化のようにフルカラー化したり、アニメーションを投影したり、静と動を自在に行き来する。
大雪像はとにかく大きい。数階建てのビルくらいある。しかも閉幕後には跡形もなく崩してしまうというのが儚い。
会場には大雪像以外にも人気キャラクターや、「なんか知ってる!」と言いたくなる企業の雪像が並ぶ。それらを見ながらそぞろ歩けば、東西1.5kmの大通公園の移動もあっという間だ。
筆者が訪れたのは夜遅めだったため、ピークタイムほどの混雑はないようで、非常に見学しやすかった。企業ブースなどは閉まっていたが、屋台はまだ営業しているところもあった。
3か所の雪まつり会場のうち、ぶらついたのは夜の大通会場だけだったのだけれど、街全体がわくわくするような熱気に包まれていた。真っ白な雪像は美しく、湯気をあげる屋台は楽しげで、みんなが笑顔で歩いている。つるつるの路面で転びそうになることさえ、イベントの一部のようだ。神経が鋭敏になるせいか、記憶までくっきりする。すごく楽しい。
この日は風もなく、絶好の散歩日和。歩きはじめは「言うほど寒くないな」と思ったのだが、じっとしていると足元から冷気が上がってくる。外にいる時間が長くなるほど、じわじわと体温が下がっていくのを感じる。気がついたらマスクのなかは吐息と鼻水でびっしょりだ。限界を迎えた筆者は、名残惜しさを抱えつつも地下鉄駅へもぐり込んだ。
・実際のところ寒さはどれくらい?
行く前は戦々恐々としていた北海道の寒さだが、実際に行ったらやっぱり寒かった。場所によってだいぶ違ったけれど、晴れていてもだいたい気温は氷点下。マスクの隙間からもれた温かい息が、髪についてそのまま凍る! けれど意外なことに「つらい」よりも「楽しい」が勝る。
さらっさらの粉のような雪が、大気中をキラキラと舞っている。気温が低くて乾燥しているから、溶けたり結合したりしない。結晶の形がそのまま見える! 本当に雪印だぁぁぁ!!
足元の雪は、踏みしめるとキュッキュッと片栗粉のような音がする。空気が澄んでいて、どこもかしこも清らかな感じがする。
清涼な屋外に対し、一歩屋内に入ると全館暖房&混雑&活気によるエネルギー波がすごいのも印象的だ。たとえば新千歳空港は、いろんな意味で熱量がハンパない……!
レストランフロアは、松尾のジンギスカン、スープカレーGARAKU、函館朝市のきくよ食堂、洋食の五島軒などなど、「この店、知っている!」というご当地グルメのオンパレード。
お土産フロアにはロイズ、ルタオ、北菓楼、スナッフルス、花畑牧場と、これまた誰もが知る銘菓が並ぶ。旅行中に行き忘れた店、買い逃した土産があってもまったく問題ない。“北海道” をぎゅぎゅっと濃縮したテーマパークだ!
そんな場所だから、館内はめちゃくちゃ混んでいた。内地からの玄関口であると同時に、国際空港でもあり、さまざまな国の老若男女が入り乱れている。スキー・スノボの大道具をガラガラと引いている人も多く、もう通路はすれ違えないくらいの大混雑。人に酔いそうなほどだ。
ヒートテックには経年劣化があることを知り、「知らないうちに寿命を迎えていたらどうしよう」と出発前にユニクロに駆け込んだ筆者。肌着から靴下まで新品のヒートテックで全身を包み、汗だくになって濃厚な札幌味噌ラーメンをすするのだった。
・冬の北海道だけがもつ魅力
当たり前だが、北海道の冬は寒い。何日かの滞在中には、やはり交通機関の遅れで予定通り事が進まなかったり、「観光よりもどこか屋内に避難したい!」という場面にも遭遇した。
けれど、きりりと身が引き締まるような清廉な空気や、外気よりも水温が高いために川から上がる蒸気、雪に点々と続く野生動物の足跡など、特別な景色にも出会えた。寒いけど綺麗で楽しくて冒険的で、すべてが鮮烈な印象になる冬の北海道。リピートする人の気持ちが、今ならわかる。
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.