閉幕まであと10日ほどとなった、大阪・関西万博。毎日20万人以上が入場し、チケットは連日完売。

これだけ人が集まると「並ばない万博」もさすがに行列だらけ。正直に言うと、筆者自身 行くまでは「どんなに頑張ってもストレスフルで楽しめないのでは?」と不安を抱いていた。

ところが実際には、今まで万博へ行ったどの日よりもテンション爆上げで楽しい時間が待っていた。

その理由は、ズバリ『よしもと waraii myraii館』。このパビリオンでいったい何が起きたのか、今からご説明させてもらおう。

・お笑い日本一『吉本興業』のパビリオン

西ゲートのすぐ近くにある『よしもと waraii myraii館(以下、吉本パビリオン)』は、言わずと知れた吉本興業が運営するパビリオン。

建物の前面には『笑顔の球体 タマー』というユニークな建物が目を引く。

はじめにぶっちゃけてしまうと、館内の評判はそれほど良いワケではない。筆者自身は入っていないのだが、内部には巨大なネギのアート作品を中心とした展示物があり、いわゆる “吉本っぽさ” が薄いのだそう。

空いているならフラッと入ってみるのもアリだが、貴重な予約枠を使ったり 長時間並んで入ったりするとガッカリする人もいるらしい。


──だが、天下の吉本興業がそれだけで終わるはずがない。

このパビリオンの最大の特徴は、『タマー』の背後に設置された常設ステージにある。

ここでは毎日、時間替わりのステージイベントが開催されている。

この日の筆者が居合わせたのは、毎日18時15分から開催される『盆踊りのアシタ』というイベント。最初は「よくある盆踊りかな」と思っていたのだが、まったく違っていたのだ……!


・カラオケに合わせて盆踊り

西ゲート付近を歩いていたときのこと。遠くから聞き覚えのある音楽が聴こえてきた。これは……Adoの『唱(Show)』!?

「今日はライブでもしてるんだっけ?」と首をかしげた瞬間、隣を歩いていた友人が「TikTokで見たカラオケ盆踊りや! 見に行っていい!?」と言いながら、吉本パビリオンの方へ速足で向かっていった。


何ごとかと思って着いて行くと、例のステージ上でカラオケ大会が開かれている。そして、ステージ前の広場には簡易的な櫓(やぐら)が設置されていて、それを囲むように大勢の人たちが踊っているではないか。

流れているのはJ-POPなのに、踊りの振り付けは盆踊り風。伝統と現代が絶妙に混ざり合った不思議な光景だが、そこには強いパッションを感じた。

「とりあえず、私たちも加わってみる?」「でも、振り付け知らんで」そんなことを話しながら、おそるおそるダンサーに加わった。


・人気芸人と踊れる非日常感

盆踊りのアシタのすごいところのひとつが、人気芸人と一緒に踊れるという非日常感。踊る直前から気付いていたのだが、櫓を囲む大勢の参加者の中に『すち子』さんが混ざっていたのだ。


すち子さんとは、吉本新喜劇の座長・すっちー氏が演じるキャラクター。

関西なら誰もが知っているほどに人気で、おかっぱ頭と頬のそばかす、大きなメガネがチャームポイント。吉田裕氏との「ドリルすんのかいせんのかい(乳首ドリル)」は、何度見ても声をあげて笑ってしまう鉄板ネタだ。


実際のところ、芸人がゲスト参加する盆踊り大会は全国各地で開催されている。だが、吉本パビリオンが一味違うのはその距離感だ。

櫓の周りはスペースが限られているため、すち子さんとの距離は手を伸ばせば届くほど。

テレビで何度も爆笑させてもらったすち子さんが目の前にいるなんて、そして一緒に踊れるなんて、夢のようだ。そんな状況に置かれたらテンションが上がるしかない! テンションが上がったなら、その熱は踊りにぶつけるしかない!!

恥ずかしい気持ちなんて一気に消え去り、この非日常的な空気を全身全霊で楽しむことにした。


ちなみに、この日はすち子さんの他にも川畑泰史氏、ナイチンゲールダンスのおふたり、ファンファーレと熱狂のおふたりが出演。

出演者は日替わりで、10月もテレビでおなじみのビッグネームが出演予定とのこと。スケジュールは公式サイトに掲載されているので、万博に行く予定がある人はぜひチェックしてみてほしい。


・十八番だらけのカラオケ大会

筆者らのテンションが爆上がりした理由は、すち子さんの存在だけではない。ひょっとすると、一番大きな要因は音楽にあったかもしれない。

『盆踊りのアシタ』で流れる音楽は、当日の抽選で選ばれた一般参加者によるカラオケだ。

自ら立候補してステージに立つだけあって、皆さん歌唱力も盛り上げ力も抜群。おまけに、選曲はどれも 盆踊りに合う十八番(おはこ)ばかりなのだ。

筆者が滞在していた時間帯には、『唱(Show)』以外に湘南乃風『睡蓮花』、嵐『Love so sweet』、Mrs. GREEN APPLE『ライラック』などが披露された。

共通しているのは、「誰もが知っていて盛り上がる曲」であること。その証拠に、曲名が発表された瞬間 会場全体が歓声とともにブチ上がっていた。

例えるならば……ずっとフィナーレが続く花火大会、あるいは全打席に大谷翔平が立つ野球の試合。テンションの下がる瞬間が一切ない、夢のような時間だった。


・1日の疲労がハイテンションに繋がる

すち子さん・音楽に続いて、18時15分開始という時間帯も楽しさの一因だったのだろう。

もしこれが朝イチの出来事だったなら「体力を温存しなきゃ」と冷静に構えてしまい、ここまで全力で踊ることはなかったはずだ。だが、夕方になれば もう後先を考えなくてよい。今この瞬間を、全力で楽しむことに集中できたのだ。


踊り始めた時点で、万博会場を歩き回ってすっかり疲れた状態。そんな中 小さな櫓のまわりをぐるぐると回りながら踊るうちに、気付けば催眠にかかったような恍惚感におちいった。

これはひょっとしたら、盆踊りの原点に近い体験なのかもしれない。かつて盆踊りは(場所によっては現在も)ご先祖様の霊を送り出すため、一晩中踊り続けるような熱狂的なものであったはずだ。

一緒に踊っていた人の大半も、筆者と同じような高揚感に包まれていたんじゃないだろうか。櫓の周りは、不思議な一体感に溢れていた。


……まぁ、その反動で帰路は疲労との闘いだったのだが、あの時 踊ったことを筆者は後悔していない。


・誰でも簡単に踊れる振り付け

「そうは言っても、いきなり知らない踊りなんて踊れるはずがない」と思う人もいるだろう。

安心してほしい。盆踊りのアシタの振り付けは、4パターンほどの単純な振りで構成されているため 誰でも見よう見真似ですぐに踊れるはずだ。

さらに心強いのが、櫓のまわりにいる滋慶学園ダンサーズ(写真の法被を着ている方々)の存在だ。

彼らが常にお手本となって踊ってくれているので、まずはその動きを真似するだけでOK。要は、最初に踊りの輪の中に飛び込むことが一番のハードル。そこさえ越えてしまえば、誰でも気づけば笑顔で踊っているってワケだ。


・万博の締めにひと踊りして帰ろう!

9月末時点での『盆踊りのアシタ』は、参加者こそ多いものの予約・待ち時間なしですぐに飛び込める優良コンテンツとなっていた。

阿波踊りの掛け声に「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」というものがあるが、まさにその通り。

せっかく万博という一大イベントにやって来たのだから、盆踊りのアシタに参加せずに帰るなんてもったいない。閉園前にひと踊りして、思いっきり阿呆になってやろうじゃないか!

──なお、盆踊りのアシタには踊る人だけでなく、歌う人・ステージを見る人・芝生でのんびりする人など、さまざまな人が自由な時間を過ごしている。「踊るのはさすがに恥ずかしい」って人も、是非見に行ってみてね。

参考リンク:よしもと waraii myraii館
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.