鰹の美味い食べ方は沢山あるが、タタキは最強の一角だろう。そしてタタキはタタキでも、フライパンで焼いたりやバーナーで炙ったものでなく、藁焼きだとなおのこと素晴らしい。
藁は勢いよく燃えるため一般家庭のキッチンだとハードルが高いが、回転寿司チェーンで提供されるなどして身近だ。その藁焼きを、盛大にガチな感じでやれる機会があるという連絡がJR東海から来た。ほう、面白そうじゃん。
・焼津
さて、鰹のタタキは、実は高知県の郷土料理。そもそも鰹自体が高知の名物という印象も強いだろう。実は県魚でもある。
タタキがうまれた理由としては、今のような冷凍技術の無い時代に鮮度の落ちた鰹の生臭さを消した説とか、調味料を馴染ませるために実際に叩いた説とか、色々あるらしい。
藁は昔からよく使われる燃料ゆえ、恐らく藁焼きこそデフォだったのではないかと私は個人的に考えているが、昨今は逆に藁で盛大に鰹を焼き上げる機会など無い。
気分を味わうだけなら一掴み程度の藁を燃やす程度でいいが、そこそこな量の藁を用意せねば “なんちゃって藁焼き” 感がヤバい。
しかし安易に藁を増やすのも危険だ。燃料として優秀ゆえ、わりと激しく燃え上がるからだ。一般家屋の屋内で本格的にやると家ごと焼けかねない。庭とかでやったらたぶん通報されると思う。
恐らく世の一般人の大半は、1度もガチな藁焼きをしないまま、その生涯を終えるにちがいない。やれるというのなら、やりに行こうではないか。
ということで、JR東海のプレスツアーでやってきたのは焼津。
高知の話しておいて静岡かよ……! と思うかもしれないが、静岡を侮ってはならない。実は鰹の漁獲量トップは高知ではなく静岡なのだ。
それも別に最近のことではなく、記録にある限り1950年代からずっと静岡がトップである。高知はだいたい4位とかそんなもん。
しかし他の場所がおおむね遠洋漁業なのに対し、高知は近海でとれるというアドバンテージがある。鮮度に全てをかけたPRが成功しての “鰹=高知” なイメージはあると思う。
ちなみに私は、いくら新鮮でもとれたての生鰹はお勧めしない。マイナス20度以下で24時間以上冷凍させたものの方が良い。冷凍していない鰹にはアニサキスのリスクがあるからな。
・なまり節
さて、焼津と言えば焼津漁港。江戸時代から鰹漁の拠点だ。周辺には鰹の加工関連の工場も多い。今回やってきたのは明治10年(1877年)から なまり節を作り続ける老舗、川直(かわなお)。
ちなみに なまり節とは鰹を煮て骨抜きし、軽く焙乾したものだ。ここからさらに焙乾して天日干しし、カビによる乾燥を経たら鰹節になる。
この なまり節の老舗にて、藁焼き体験ができるのだ。
詳細はJR東海「もれなく富士山」のキャンペーンページでご覧いただきたい。大人1名につき2300円〜2800円となっている。
案内して下さったのは、川直の6代目 山口高宏さん。
さすが老舗だ。壁に有名人のサインが飾ってある。川直や なまり節などについての説明を経て……
おもむろに冷凍庫から籠を引っ張り出す山口さん。
これが加工前の鰹……! 網でとったものと、一本釣りしたものだそう。
一本釣りの方が基本的にサイズは小さめで、このように口が歪んでいるのが特徴らしい。いかにも釣り上げられた感がある。
丸々として砲弾みたいだ。鰹には申し訳ないが、美味そうという考えしか出てこない。
工場の奥には、絶賛製造中のなまり節があった。これも美味そうだ……! 山口さんに好きな食べ方を聞いたところ、キュウリと合わせるとソフト&シャキシャキで美味いらしい。老舗の代表が言うのだから間違いないだろう。
・鰹
さて、この体験では、藁焼きする前に、焼くことになる鰹を3枚におろす行程から見られるぞ! 鰹の解体ショーだ!! 素早く包丁を入れ……
秒で何かを取り出した山口さん。
これは鰹の心臓!「へそ」や「ちちこ」などと呼ばれ、鮮度が命の珍味である。刺身にしたり煮たり焼いたりと色々やれるそうだ。美味そう。食べてみたいが、今回は見るだけだった。
焼津にはこれを出している店もあるらしいので、観光の際に探してみてはどうだろう。そしてあれよあれよという間に……
三枚おろし!
何という超スピード。途中で内臓などの解説をしながらにもかかわらず、5分くらいしかかかってないぞ。まさに匠の技である。
・藁焼き
このおろしたて鰹を、おもむろにピッチフォークに乗せた網の上へ。いよいよ藁焼きタイムだ。
藁を仕込み……
着火!
そして鰹を投入!!
ファ!?
カツオォォォォオオオオオオオ!!!!
……
……
……
……
絶妙なタイミングで待ったがかかり、取り出された鰹がこちら。
やっべ、超美味そうじゃん。脂がジュワジュワでヌラヌラしている。もう切らなくていいからこのまま1本齧りたいな。
ちなみに私もフォークを持って鰹を焼きながら撮影させて頂いたが、エクストリームなエンターテインメントだった。
まさか背丈より高い炎に鰹を突っ込むとは思っていなかったぜ。見ての通りシャレにならない凄まじい炎と相応の熱なので、体験時の服装には注意が必要だろう。フォークと鰹はけっこう重いが、横でサポートしてくれるのでその辺は安心だ。
・香ばしさがダンチ
こうして焼かれた鰹は素早くカットされ……
よく見るタタキスタイルに。
ちゃんと盛りつけたのがこちら。
食べてみると、これが美味いのなんの! 今まで食っていた藁焼きは何だったのか? 例えるなら、駄菓子屋のメロンソーダと本物のメロンくらい、藁フレーバーのリアル感に差がある。
あと鰹自体もプルンプルンで最強に美味い。これがガチな藁焼きか……! 私の藁焼きをジャッジする厳しさが、この体験によって100倍くらい厳しくなってしまった。
サービスで なまり節も食べさせてもらったのだが、ほど良いドライ感あるソフトな なまり節は刺身とも鰹節とも違う独特の香りと食感で、まるで鰹フレーバーのチーズのような、なんかそういう未知の体験だった。色んな料理に合いそうで、食材として強いと思う。
実際にこのプランを体験すると、試食の後に1人前を持ち帰れるそうだ。JR東海的には、その藁焼き鰹を持って徒歩約10分ほどの近所の景観のいい、焼津漁港親水広場「ふぃしゅーな」に行き、そこで富士山でも眺めながら食べてはどうかという感じらしい。
非常に興味深い公園で、海水を引き込んで潮だまりを作り出し、比較的安全に海洋生物と触れ合える仕組みとなっている。
ウツボがいるらしい。とてもいいな。こういう環境で遊べる子供は恵まれていると思う。
ちなみに富士山が見えるかどうかは天候次第!
この日はだいぶピンポイントに雲がかかっていたが、その存在はうっすら認識できた。
ということで、人生初のガチな鰹の藁焼きを体験したわけだが、火力と美味さが共にぶっちぎっていた。誇張無しに今まで食べた藁焼きの中で1番美味かった。
やはり焼きたては香ばしさが圧倒的すぎる。普通は焼いてからだいぶ時間がたって、香りも弱まった状態だろうしな。それどころか、そんなに藁で焼いてない可能性すらあると私は勘ぐっている。
何だかんだでしょっちゅう鰹を食べる日本人なら、一度くらいは本物の藁焼き鰹を食べておくべきだと思う。この体験は、その後の生涯における鰹のタタキをジャッジする、新たな基準になる。
参考リンク:もれなく富士山、川直
撮影・執筆:江川資具
Photo:株式会社川直 / RocketNews24.
▼もちろん なまり節も売ってる。美味さにやられ、取材中でも購入に走る記者が発生していた。
▼鯖もやってるもよう。
▼なまり節は絵になる。
▼藁と薪。やはり十分な量の藁で焼いてこそだよな。
▼心臓。今回は廃棄するのだと思うが、食べたかったなぁ。弾力があって美味そうだった。焼津の居酒屋とかで食べられるらしい。
▼この日は水が入っていなかった。