「ファーストペンギン」という言葉がある。ペンギンの群れが崖などで、押し合いへし合い前進を思案しているとき、最初に荒波に飛び込む勇敢な1羽のことだ。

褒め言葉として使われるが、陸ではヨチヨチ歩きの不器用なペンギンが、意を決して飛び込んだ海中では「水を得た魚」のように大変身するさまも関係しているに違いない。

陸と海、どちらの姿もペンギン。一方だけではアンフェアだ……と考えたかどうかは知らないが、タミヤが水陸両用のペンギンプラモデルを生み出してしまった。


・タミヤ「歩いて泳ぐペンギン工作セット」(税込2420円)

プラモデルといえば戦車やスーパーカーや人型機動兵器……そんなイメージは昔の話。「歩いて泳ぐペンギン工作セット」では動物を作れる。

新しい道具を広げるこの瞬間は、いつだってワクワクする。料理であったりお絵かきであったりゲームであったり、対象は人それぞれだろうが、筆者の場合は「クラフト」だ。

見慣れたプラパーツが多かったのだが、ひとつだけ用途がわからない部品があった。スポンジ……かな? 穴あいてるけど。



組み立て開始。さっそく極小のギヤの一群から、目的のものを探す作業が始まった。どれも同じに見えるが、微妙に直径や歯車の数が異なる。ギヤとかカムとかモーターとか、物理の授業のようだ。

なんて、実は物理の授業など受けたことがない。理系科目がことごとく赤点大王だった筆者は、物理のない文系クラスしか選択肢がなかったのだ。数学も途中までしか履修していない。合格した人から抜けていき、日を追うごとにだんだん人数が減っていく追試は屈辱的だった……。

忘れよう。説明書に従って電池ボックスを作っていく。プラパーツを組み合わせるだけでなく、ネジを締めたり、金具を引っかけたりといった作業も多くあった。

スポンジの正体がわかった、「浮き」だ!! あらかじめカット線が入っていて、きれいに取り外すことができた。

動力部がある程度できてから、ボディに入っていく。突き出たシッポが愛らしい。

ときおりシールを貼る作業が挟まる。後からわかるが、しっかり耐水加工がされていて、水辺で遊んでもはがれない。キャラクターフィギュアのような表情の差分も付いていた。

シールを貼るまでは完全にカラスだったのだが、ひと目でペンギンだとわかるように! 筆者はリアルな表情を選んでみた。最近ウミネコの生息地を訪れた影響で「鳥カワイイ!」気分が高まっていたためにテンションがあがる。

それぞれのパーツをボディに合体させていく。途中グリスを塗るという指示があって、「持ってないなぁ……オロナインでいっか!」と適当に代用したら

ちゃんとキットに付属していたというポカをやらかす。さすがですタミヤ様。最初にパーツをすべて確認しましょう、とあらゆるキットの冒頭に書いてあるのに、守ったためしがない筆者の自業自得だ。

この留め具、知っている! 奥まで差し込むと中で羽根が開いてロックされる機構だ。


石膏ボードなど柱のない壁にネジを留めるためのDIY技術だと思っていたが、こんなところにも使われているんだなぁ。物づくりは、すべてがつながっていて面白い。

完成だ! 作業時間は1時間半ほどで、簡単すぎず難しすぎず取り組みやすいボリューム。デフォルト状態では陸で立ち上がった姿勢のペンギンになった。さっそく歩かせてみたい!



・動かしてみよう

電池を入れると手足のパタパタが始まる。そぉっと床に降ろしてやると……


……あっ!


わぁぁ、一歩も歩かずぶっ倒れた!


手を離した瞬間、その場で転倒してしまった。首が折れ、じたばたと動く両手両足のせいで、床の上でもだえ苦しんでいるような絵面になってしまった。断末魔の叫びが聞こえてきそう! ごめんなさい、ごめんなさい!!



足の角度など調整できる場所が複数あり、バランスが悪いと転倒したり直進せず曲がったりしてしまう。いろいろいじりながら再挑戦。


何度目かの微調整で、まっすぐ歩くようになった。パタパタと歩いてカワイイ! ただし、このプラモデルの本領はここからだ。


動力は完全防水。水に浮かべると自然に首が持ち上がって、泳いでいるような体勢になる。これだけでも十分すごいのだけれど……


陸地を用意してあげれば、果敢に飛び込むファーストペンギンを再現可! 落水してもどこ吹く風、そのまま姿勢を整えてスイスイと泳ぎ始める! うわぁぁぁ感動する!!

※GIFアニメが表示されない場合は「ロケットニュース24」のサイトへ

ひと泳ぎ終え、どこかドヤ顔をしているペンギン。たぶん「からくり」を物理的に想像できる人なら、そのバランスやギミックにも感動できるのではないだろうか。各所の調整により、右旋回や左旋回も設定できる。

ほどよい手応えと、動いたときの感動が得られる秀逸キット。大人のホビーとしても楽しめるし、夏休みの工作にもぴったりだ。お子さんと作ってみてはいかがだろうか? 


参考リンク:株式会社タミヤ
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.