ロケットニュース24

千葉県の無人駅から徒歩7分の「理想郷」がある!? 軽い気持ちで行ったらとんでもないことになってしまった…

2024年6月30日

涼しいことで話題になっている千葉県の勝浦市に取材に行ったときのこと……。

観光地図を見ていたら「理想郷」という文字が目に入った。なんでも隣の鵜原(うばら)駅に理想郷があるらしい。

理想郷……英語にするとユートピア。人はみな理想や魂の救済を求めて旅に出るもの。まさかこんなに近くにユートピアがあったとは。

思えば夏は涼しく冬は温暖だという勝浦は限りなく理想郷に近い。いざなわれるようにして、私は「理想郷」へと向かったのだが……。

・鵜原理想郷という名のユートピア?

千葉県勝浦市にある「鵜原理想郷」。そこには「幸せの鐘」に「青の洞門」や「黄昏の丘」といった絶景が沢山あり、あの与謝野晶子もこの地を愛したとか……。

きっと素晴らしく美しい景色が眺められるのだろう……。しかも、地図の案内によると勝浦駅の隣の鵜原駅から徒歩7分という近さ。


駅から歩いて7分の理想郷。すごい。理想郷のわりにアクセス至便すぎる。

あまりにも気になるので、1時間に1本しかない外房線の各駅停車に乗り、鵜原駅を目指した。



・鵜原駅

電車に乗ること数分……。鵜原駅に到着してまず驚いたのだが、緑に囲まれた何もない駅だということ。

鵜原で降り立ったのは私だけ。

待合スペースはあるけれど、他には何もなく、改札に人はいない。

まさかの無人駅である。隣の勝浦がそこそこの大きさだったのに比べると、ちょっと怖いくらいだ。

本当にこんなところに理想郷が……!? と思ったら


駅を出たところに手書き文字で「ようこそ 理想郷」と手書きで書かれた看板を発見。赤い字がむしろ怖い。


グーグルマップを見ながら理想郷の方に向かって歩くのだが、ほとんどすれ違う人もいない。

そして、地図が示したルートには……


トンネルがあった


夏の昼間とはいえ、トンネルは薄暗い。さっきから人が全然通らないし、駅が無人だったことを考えると怖くなる。

このトンネルを抜けないと理想郷にたどり付けないというのか……!

かなり逡巡して、一歩踏み出そうとしたら、トラックがトンネルを通り、荷物がガタガタいう音が反響してめっちゃ怖い。ビビリのワタシは怖すぎて動悸がしてきた。



・迂回ルートで理想郷を目指す

よく見ると、もう1つ、トンネルを通らなくて良さそうなルートがあったのでそちらから向かうことに……。

人と全然すれ違わないと思っていたのだが、そのルート沿いにはたくさんの民宿があって驚く。


もしかして、理想郷に魅入られた人たちが帰らずにそのまま鵜原に住みついてしまうとか……? 

無人駅、トンネルの先の理想郷、大量の民宿……なんか横溝正史のミステリーの世界に迷い込んだようだ。



・この海が理想郷か?

と思っていたら、突然視界が開け、青い渚が広がった。

静かな波と白い砂浜、光る水面、自然が作り出したオブジェのような切り立った岩……


青い砂浜に白い鳥居が立っている姿も美しい。これは絶景だ!

これか!? これなのか? 理想郷は!


と思ってグーグルマップを見るが……地図には離れた場所にピンが立っている。

この砂浜は守谷海水浴場といって「日本の渚100選」にも選ばれている名所だが、ここは理想郷ではないらしい。


よくみると、「この先 理想郷」の看板が出ていたのでそれに従って……


さらに渚沿いを10分ほど歩いていくのだが……


それらしき場所が見つからず、行き止まりだ。


勝浦は涼しいとはいえ、西日の厳しさと潮風の湿度が体力を奪ってくる。おかしいな……と思って近くにいた漁師と思しきおじいさんに

「理想郷はどこですか」と聞いたら「理想郷はずっと向こう、トンネルがあったでしょ、その先だよ」と教えられる。

なんと、行き止まりだと思ったのはトンネルの入り口だったのだ!



・理想郷の入口?

暗くて行き止まりに見えた場所はたしかにトンネルがあった。ガラクタみたいなのがたくさんあるけど、ここが理想郷の入り口なのだ。


しかし、わざわざトンネルを避けて歩いてきたのに、結局トンネルをくぐらなければならないのか。


トンネルの中は暗いうえに雨漏りがしている。本当にここが理想郷の入り口なのか?


冷静に考えたら「理想郷はどこですか」「理想郷はあっちだよ」って会話も奇妙すぎるし、私はここで何をしてるんだろう……。



・トンネルの先には…

そんなことを思いながらトンネルを抜けると……

「ようこそ理想郷へ」という看板が目に入った!

やっと着いたぞ! 理想郷!

と思ったら、どうやら理想郷はハイキングコースになっているらしいことが発覚……。



途中から道がほぼ整備されておらず、凸凹した不安定な岩場の上を歩いていくことになった。ほぼ山登りじゃないか。

手すりなどはなく、濡れた場所でうっかり滑りそうになる。あぶね〜!


しかも、ぶんぶんハチが飛ぶ音がする! 怖い!


・理想郷っていうか迷路

この岩場を登っていけばきっと絶景が見えるんだ……と思いながら、必死に理想郷を登っていくのだが……。


実はルートがいくつも分かれていて、看板の矢印だけを見てもどの名所に通じる道なのか全然分からない。


似たような景色が続き、自分がどこにいたのか分からない。岩場の迷路のような状態である。

こんな険しい道とは知らずに、ピラピラのスカートを履き、手にはパソコンが入った思いトートバッグがある。

岩の上にパソコンを落としたら大変なことになるし、手すりがない場所でバランスが取りづらい。

スマホのグーグルマップで道を確認しようとしたが、そもそもグーグルの車が入れない場所なので、地図にハイキングコースは出てこない。

もしここで滑って転んで怪我しても、誰も見つけてくれない可能性がある。ていうか、1時間に1本しかない帰りの外房線に間に合うだろうか……。


詰んだ。完全に詰んだ。


できれば全部の絶景ポイントをめぐろうと思っていたが、全部回るのは1時間くらいかかるらしい。

さっきから完全に道に迷っているし、この足場の悪さでは無理である。

しかたないので、近くにあった毛戸岬というポイントだけ見て、慌てて理想郷から帰る羽目になったのであった……

正直、帰りの道も合ってるかわからなかったので出口に出られたときは心底安心した。



駅から徒歩7分のはずの理想郷は想像以上にハードな場所だった。いや、最初にトンネルをくぐるのを怖がって迂回したから険しい道程になってしまった可能性もある。

手すりの無い岩場の道を迷いながら、これはまるで理想を追い求めながらさまよう人生のようだな……と思った。

人はそうカンタンには理想郷にはたどり着くことができない……。そして、たどり着いた場所が本当に理想的だとは限らないのである。

きっと全部まわることができたら、美しい景色が眺められたはずだ。だけど、ときには諦めたり、引き返すことも大事なのだ。

ちなみに、夜とか雨がふった後は危ないと思うので、鵜原理想郷に行かれる方は晴れた日の早めの時間に、歩きやすい格好で行くのがオススメです。

参考リンク:鵜原理想郷
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

▼ちなみに理想郷というネーミングは、大正末期に別荘地として開拓予定があったのが由来らしい

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

モバイルバージョンを終了