漫画「推しの子」が話題であるが、リアルに「推しの子」を見られるのが競馬である。
私が競馬を本格的に見始めたのは2016年のこと。
それから約8年……。ついに、かつての私の「推し」の子供が競走馬としてデビューした。競馬ファン冥利につきる喜びである。
ブラッドスポーツと言われるほど血統が重視され、血のドラマが脈々と続く競馬。ウマ娘のブームなどで、その魅力も広く知れ渡ってると思う。
・私が愛した桜花賞馬
かつて私が地方遠征するほど応援した馬。それは2017年の桜花賞馬・レーヌミノルという牝馬であった。
メッシュが入ったような栗毛のたてがみに、赤白ストライプのメンコという可愛さ。パドックでの厩務員の方との仲の良さなども有名で、一部で熱狂的なファンがいた。
1200mという短距離の「小倉2歳ステークス」という重賞を6馬身差で圧勝。
序盤から前目で走っていき、ゴール前で後ろから差されそうになっても、抜かせそうで抜かせない根性の良さに惚れた。私自身は根性がないタイプなので、粘って粘って抜かせない根性のある先行馬が好きなのだ。
ただ、桜花賞の前の前哨戦では勝ちきれず、桜花賞は8番人気と低評価。私も応援しながら、さすがに桜花賞を勝つのは難しいだろう……と思っていた。
雨降る中で行われた2017年の桜花賞、レーヌミノルは低評価を覆して粘り勝ちした。
私はちょうどその頃、仕事で悩んでいた。自分の「好き」を優先するか、世間の「人気」を優先すべきか……。低評価の中、桜の中を1着で駆け抜けたレーヌミノルの姿に「自分の好きな気持ちを信じろ」と言われたような気がした。
桜花賞以降、レーヌミノルが勝つことはなかったが、レースがあれば競馬場に足を運んで応援していた。
そしてレーヌミノルは2019年2月の京都牝馬ステークスを最後に引退。その後は繁殖にあがった。
・すべての馬がデビューできるわけじゃない
競走馬が走る時間は3年ほどと短い。推しに会える期間が短いのだ……。その代わり、子孫に夢の続きを見られる…というのも競馬の醍醐味。
レーヌミノルの最初の子供は2020年(父・リオンディーズ)に生まれた。2022年にデビュー予定だったが競走馬としてデビューすることはできなかった。生まれてきたサラブレッドすべてがレースに出られるわけじゃないのだ。
2021年に生まれた第二子の牡馬(父・ブリックスアンドモルタル)は、北海道のセレクションセールという競走馬のせりで6600万円という高値で落札されて話題となった。後にグローリアミノルと名付けられた。
ただし、高額で落札されたからといって、デビューできるとは限らないのが競馬の厳しさ。かつて、6億3千万円の高値で落札されてデビューできなかった馬もいた。
新馬のデビューは毎年6月頃からだが、2023年6月をすぎ、2023年12月になっても、グローリアミノルはデビューしなかった。
・中山芝1800m 3歳未勝利戦で待望のデビュー
もしやデビューできないのか……! と諦めかけていた2024年3月24日、ついにデビュー戦が決まった! 母・レーヌミノルの引退からは5年の月日が経っている、待ってたよ!
残念ながら、私はコロナになってしまい競馬場に行くことは叶わず……。私の熱狂的なレーヌミノル愛を知る夫が代わりに中山競馬場へと行ってくれた。
前日からJRAのサイトなどで、何番人気になっているか、競馬新聞の予想ではたくさん印がついているか、どんなコメントがついているかチェックしまくった。
ちなみに2才新馬戦は毎年12月末に終わり、翌年1月からは「3才未勝利戦」という、レース経験馬のに混じってのデビューとなってしまう。
経験馬といっしょに走るので、不利っちゃ不利である。
・波乱のデビュー戦!
いよいよ迎えたデビュー当日……。
レースが始まる前のパドックでも、新馬とは思えないほど落ち着いている……とは夫の談。仕上がりはよさそう。
そうでしょうそうでしょう、だって推しの子だもの。せりで6600万の期待馬だもの。
推しの子が圧倒的1番人気に決まってるでしょうが! と思っていたが、結局2番人気に落ち着いたそうな。
単勝2500円、複勝2500円の計5000円分の応援馬券を購入した。
いつもより金額多めだけど、推しの子とはいえ破滅するほどの金額は買わない。競馬を長く「楽しむ」ためのマイルールである。
さて、手に汗握るドキドキのスタート。私は自宅のテレビから観戦。
競馬のスタートは重要で、母のレーヌミノルはスタートが芸術的に上手かった。スタートの瞬間だけで酒が飲めるほど上手かった。
きっと息子のグローリアミノルも推しの血を継いでいると思いきや……めっちゃ出遅れた!!!!!!
まさかの最後方からの競馬。母のレーヌミノルは前方を走る先行馬だったので、ぶっちゃけグローリアミノルの位置取りを見て絶望的な気持ちになった。
道中、田辺騎手の手が動いて、めちゃくちゃ追いまくっている。
中山競馬場は最後の直線が短いうえに最後に急な上り坂があって、後方からだと届きづらい。
最後の第4コーナーで先団に近づきはしたが、まだ前との距離はかなりある。
届くのか……これ……さすがに厳しくないか……?
と思ったそのとき……
ビックリするくらいの伸び脚を見せて、ぐんぐん馬群を追い抜いていく!!!
もしかしたら1着あるかも!!!! うおおおお!!!!!!!!!!!!
結果は惜しくもクビ差の2着!!!!!!!!!
競馬にタラレバはないのだが、出遅れがなかったら勝っていたな!!!
・何もかも母と違う、だけど……
早熟だった母のレーヌミノルと違って、デビューは遅かった。栄光の皐月賞やダービーにはきっと間に合わない。
スタートが上手で先行馬だった母と違って、出遅れて末脚勝負。レーススタイルも全然違う。
だけど、そんなことはどうでもよくなるくらい、「推しの子」グローリアミノルは鮮やかな末脚を見せてくれた。
贔屓目ぬきにしても、強い競馬だったので、次は多分勝つだろう。
だけど、きっとダメだ……というところで根性を出すってところは、母子でよく似てるのかもしれない。
ゆっくりでもいい、この先、少しずつでも勝ち星を重ねて、いつか重賞に出られれば……いや、どうか無事に競走馬としての馬生を終えてほしい。
ただのギャンブルというには、あまりにもドラマティックすぎる、それゆえに破滅も導く競馬のロマン。8年目にしてようやくその入口に立った気がする。
この先の大きな楽しみができるレースだった。夢の続きとはこのことだったのか。頑張れ、グローリアミノル!
参考リンク:JRA、netkeiba
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.