宮崎駿監督作品の魅力はたくさんあるが、「匂いまで想像できるリアルで美味しそうな食事シーン」は満場一致だろう。過去には食にフォーカスした企画展が実施されるほど、食べ物の描き方が印象的だ。
作中に出てくる料理を再現する「ジブリ飯」は一大料理ジャンル。先日、公式監修レシピ本『子どもりょうり絵本 ジブリの食卓 天空の城ラピュタ』が満を持して登場した。
・『子どもりょうり絵本 ジブリの食卓』シリーズ
これまで同シリーズの既刊は『アーヤと魔女』『となりのトトロ』があったのだが、より多くの人の心を掴むのは、ラピュタ、ハウル、千と千尋など「どこかにあるようで、どこにもない」「知っているようで、知らない」世界の料理ではないだろうか。
とくに欧風料理は、遠い異国へのほのかな憧れを刺激してなんとも美味しそうだ。ハイジのパンも同じかもしれない。
今回のラピュタ料理本に出てくるのは、あの「目玉焼きパン」はもちろん、パズーが買いに行く「残業の日の肉だんご入りスープ」や、タイガーモス号の厨房にあった「カラフルピクルス」など、聞くだけで想像力が爆発する料理ばかり。
しかも親子で作る「子どもりょうり絵本」となっており、それほど難しいレシピではないだろう。ちなみに筆者の料理経験値は見習い戦士ほどだ。
というわけで「タイガーモス号のシチュー」と「ドーラの食べたかたまりハム」を作ってみた!
・シータは夕食づくりにいったい何時間かけているのだろうか
レシピ詳細は本書を見ていただきたいが「ドーラの食べたかたまりハム」は正確にはハムではなくローストポークにアレンジされている。
1晩、漬け込む必要があるので前日から準備する。なお、必要なのは重量1kgのブロック肉だが、筆者の最寄りのローカルスーパーではそんなものは売っていなかった。精肉専門店やコストコなどが近くにあれば入手しやすいかもしれない。
本書のレシピには「くすんだ緑色の葉っぱ」もとい「ローリエ」が頻出する。
写真は見るからに使いすぎだが、筆者宅のキッチンでは二度と登場する機会がなく死蔵し、数年後に戸棚の隙間からミイラ化して発見されることが確実なので大盤振る舞いしてみた。
このあたりの作業は簡単だったので、お子さんに手伝ってもらうこともできるかな?
翌日、しっかり寝かせて漬け込んだ肉をタコ糸でしばる。チャーシュー作りと同じ要領だ。やったことはないが。
そしてオーブンレンジを予熱。普段は冷凍食品のチンにばかり使用されている我が家のレンジも、急に予熱などと言われて驚いていることだろう。20分以上かかった。
焼き時間は60分から70分。そうだった、オーブン料理は時間がかかる。
レシピよりも肉が小さいので短縮できるとは思うが、準備から余熱時間まで合わせたら2時間は見ておいたほうがいいだろう。
待つあいだに「タイガーモス号のシチュー」に挑戦してみよう。ドーラの服を着たシータが、船の厨房でキビキビと働く印象的なシーンだ。
ジブリ飯の「美味しそう」の秘密は、現実よりもちょっとだけオーバーに誇張された表現にあると思う。たとえばスープ系のメニューなら、握りこぶしくらい大きなゴロゴロ具材とか!
タイガーモス号のシチュー肉の正体はビーフだったようだ。大ぶりのかたまり肉を用意する。
普段は「時短」とか「火が通りやすいように」とか、実用重視で小さくする野菜たちも豪快にカット。
そして再び登場する葉っぱ! レシピによると、ここから肉を煮込むこと1時間……
1時間!? これもすごい時間かかるな!
このあいだにシータはパンを焼いたり食器を洗ったり……不潔だった厨房をピカピカに磨き上げ、重労働をこなしている。
1時間が経過したら、次は野菜やソースを投入してさらに30分加熱!
すでに調理開始から1時間半が経過しており、工数は多くはないものの、かなり本格的である。少なくとも「腹が減ったらサッと作れる」メニューではない。
スマホでゲームしたり排水溝の汚れを黙殺したりスープの様子を見たりしているうちにローストポークが焼き上がった。
いい感じ! だが、これで完成ではない。アルミホイルで包んで、ここから20分ほど余熱で寝かせる。
調理開始から2時間が経過し、シチューのほうも作中の姿に近くなってきた! シータはフタつきの大きな寸胴鍋を使い、かなりグツグツと煮立てていたと思う。
これやってみたかった!! 最後の仕上げ、チェダーチーズ!
シータが手際よく、鍋にさっさっとチーズを削り入れるシーンをご記憶だろうか。
本書には作中シーンもふんだんに掲載され、ビジュアルブックとしても楽しめる構成。「このシーンだ!」とすぐにわかるようになっているのが嬉しい。
・海賊気分で実食
完成である! とにかく時間のかかるメニューだった。ハムはシータの料理ではないが、たぶん彼女、厨房から1日中出られない。
しかし上記2品の難度レベルは「かんたん」から「ふつう」にカテゴライズされていた。これで「子どもりょうり絵本」ってウソだろ? 大人の筆者でも途中で空腹に音を上げそうだったぜ……?
「ドーラの食べたかたまりハム」とはかの名シーン、「ちょっと借りてるよ、坊や」からの「40秒で支度しな!」でドーラが食べていたもの。
とすれば、食べ方はこう!
ナイフをぶっさし、ヒモごとガブリ!!
う、う、うまぁぁぁぁぁぁい!
自分でローストポークを作ったのは初めてだが、岩塩やハーブ、ニンニクがしっかり肉に染みこみ、旨味となってあふれ出てくる!
味も濃すぎず、薄すぎず、肉の滋味が口中に広がる。自家製ローストポークが、こんなに美味しいものだとは思わなかった。手前味噌で恐縮だが、びっくりするほど美味しい。
ちょっと火が通り過ぎてしまったが、大成功と言えるだろう。これまでの人生で食べた肉の中で、1、2を争う旨さだった。
……しっかし、ヒモあると食べにくいな!!!!
続いて「タイガーモス号のシチュー」は、乗員全員で囲む夕食のメニューだ。海賊たちの「おかわり!」が連呼されるシーン。こちらも、ものすごく美味い!
長く煮込んでいるため牛肉もほろほろ、アニメ表現ならではの特大の具材にも、しっかり火が通っている。
ソース缶やトマト缶から作られたシチューは、市販のルウを使ったものよりもサラサラしており、トマト感が強い。だいぶ酸味があるが、チェダーチーズがまろやかなコクを加えている。
チェダーチーズは「隠し味」といわず、主役級に後から入れても美味しかった。入れれば入れるほど美味しくなる。
最後は照れずに大声で叫びたい。「おかわり」!
・作業時間だけは十分に確保せよ
『子どもりょうり絵本 ジブリの食卓 天空の城ラピュタ』は主婦の友社発行、定価1760円 (税込)。作中に登場する料理のほか、作品をイメージしたオリジナル料理も掲載される。
もし親子調理をするなら、自由研究のつもりで「半日がかり」を覚悟すべし。
たとえば「残業の日の肉だんご入りスープ」は、ただの煮込みではなく、肉だんごを揚げる工程あり。もっとも簡単なメニューは言わずと知れた「目玉焼きパン」……かと思いきや、粉からパンを焼くレシピが載っていたぞ。
「作ることを楽しむ」ためのプラスアルファのひと手間がある丁寧なレシピ集。けれど、手間をかけたぶん、とびきり美味しいジブリ飯にありつけることを約束する。
参考リンク:『子どもりょうり絵本 ジブリの食卓 天空の城ラピュタ』(主婦の友社)、PR TIMES
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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