私(佐藤)はパイナップルが苦手だ。正直美味しいと思ったことがない。酢豚にパイナップルが入っていることが許せないくらいだ。しかし本当に美味しいお店なら、酢豚のパイナップルを食べられるかもしれない。
そう思い、パイナップル入り酢豚のルーツ「南国酒家」を訪ねた。ところが訪問店舗では酢豚にパイナップルを入れていなかったのである。そうと知らずに頼んだ私にスタッフは神対応してくれたのだ。予期せぬ出来事に感動してしまった……。
・「入っている」というので
南国酒家は1961年、渋谷に1号店をオープンしている。60年を経て現在は東京を中心に各地にお店を展開する高級中華料理店だ。
公式サイトによると、南国酒家には4つの名物メニューがあり、そのひとつが「広東風酢豚」だ。これはパイナップル入りの酢豚のはじまりと言われている。つまり、日本のパイナップル酢豚はここからが始まったのだ。
元祖なら酢豚のパイナップルも美味いはず? ってことでお店を訪ねてメニューを見てみると「国産豚の黒酢酢豚」(税込1210円)を発見。これにパイナップルが入っているのかな?
ネットの情報では、2~3年前に「フレッシュフルーツの黒酢酢豚」というのがあったらしい。それにはちゃんとパイナップルが入っていたようだ。ひょっとして名前が変わっちゃったのか?
念のためにスタッフに「この酢豚にはパイナップルが入ってますか?」と尋ねると、「入ってます」というので安心して注文。一緒にご飯(税込330円)と海老蒸し餃子(2個税込660円)もお願いした。
・パイナップル、入ってる?
そしてこちらがお願いした品々である。
まずは餃子から。焼き餃子を食べてみたかったけど、あいにくこのお店では蒸ししか出していなかった、残念……。しかしこの餃子も高級店にふさわしい代物だった。
透き通るような美しい皮の中には、プリっとした海老の餡がギュッと詰まっており、上品な海老の旨味が口に広がる。最近続けて町中華を食べていたので、ひと際上品で美味しく感じられる。
さて、本題の酢豚だが……。パイナップルは入っているかな? 一般的には、厚めのイチョウ切りにしたパイナップルが入っていると思うんだけど、それらしきものは見えないな。
この細長いヤツがパイナップルかな?
食べてみると……、違う! これパイナップルじゃなくて芋だ。入ってないよね。自分の味覚が疑わしいけど、ほかには豚肉と玉ねぎとピーマンとパプリカだから、やっぱ入ってないよね!
ちなみに酢豚は、豚肉がとてもやわらかく優しい酸味と甘さをまとっており、とても美味しかった。この甘酢あんだけでもご飯のおかずになるレベルである。
それはさておき……、困ったな。パイナップルが入ってなかった。一応確認すべきだよな。ってことで、先ほどオーダーを取ってくれたスタッフに、「パイナップルが入っていませんでしたよ」と伝えた。すると……。
スタッフ「え? すぐに確認いたします」
といって厨房の方へと向かった。何かの手違いかもな。そもそも酢豚にパイナップルが入っていることに納得していないので、なかったらなかったで問題ないんだけどね。スタッフが戻ってきた、そして。
スタッフ「申し訳ございません。こちらの店舗では酢豚にパイナップルが入っておりませんでした。このお店(南国酒家)は酢豚にパイナップルを最初に入れたお店なんですけどね」
と、丁寧に詫びると共に説明までしてくれた。その口ぶりから、彼がこのお店に常駐しているスタッフでないと思った。もしかしたら他店からのヘルプか、ひょっとすると派遣のスタッフなのかもしれない。
私も高級飲食店の派遣スタッフをしていたことがあるので、こういうことがあるのは理解できた。メニューを把握していたつもりが、完全に把握しきれていなかったことは何回もある。
同じようにお客さんに誤ったメニューをオススメしたことがあったっけなあ。
南国酒家は店舗によってメニューが少しずつ異なるようだ。いずれにしても仕方ない、元祖のパイナップル酢豚はほかの店舗に食べに行くことにするか。
・まさかの神対応
食事を終えて席を立とうとしたところ、彼が改めてやってきて、「申し訳ございませんでした。よろしかったら召し上がってください」といって、お茶とデザートを提供してくれたのだ。これは予想外の対応だ。
お茶は凍頂烏龍茶だろうか。名前を聞き忘れたからわからないけど、すっきりとしていて食後の口中をさわやかに潤してくれる。
デザートの杏仁豆腐は、いままで食べてきた中で1番美味しいかも! とろりとした食感に上品な甘さ、上にのった焼き菓子のカリっとした歯ざわりが心地よい。
酢豚にパイナップルが入ってなかっただけなのに、まさかデザートを出してもらえるなんて。むしろ、お店の正しいメニューを提供している。何も間違っていないのに、余計な気をつかわせてしまって申し訳ない気がした。この真摯な神対応にお店のファンになってしまったよ。このホスピタリティにあふれるサービス精神が南国酒家が60年も続く理由のひとつなのかもしれない。
・今回訪問した店舗の情報
店名 純中華 南国酒家 伊勢丹新宿店
住所 東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店 本館7F イートパラダイス内
時間 11:00~22:00(L.O.21:00)
定休日 なし(施設に準ずる)
参考リンク:南国酒家
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24