なにかと暗いニュースが続く毎日である。仕方がないと言えばそうなのだが、なにかこう、爆発的に元気の出そうなニュースが欲しいぜ……。
──と思ったら! 底抜けに明るい話題が! なんと、『トイレの最中(もなか)』なる和菓子が発売されたという。中身は便器型の最中とあんこのセット。これはつまり………ウ〇チだ!!!!!
・意外にも味は本格志向
さっそく開封してみよう。
ツヤのある黒い箱を開ければ、手のひらに乗るぐらいの小さい最中の皮でできた便器と、パウチの中に入った粒あん。
ご丁寧にも正しいお召し上がり方の紙まで入っている。
便器の中にグニュっとあんこを入れれば……
完成!
こんなになみなみと溜まったトイレ、怖いな~。笑
いろんな意味で食べるのに勇気がいる外見なのだが、一口いただいてみるとコレ、意外にも素朴な味で美味しい。
それもそのはず。『トイレの最中』は、住宅設備メーカーのLIXILが老舗和菓子店「大蔵餅」と共同制作したガチ和菓子。
最中はもち米のみ、あんこは小豆と砂糖と水あめのみというシンプル過ぎるが故に素材や技術によって味に違いが出る、勝負の品なのだ。
この『トイレの最中』は2021年9月現在、愛知県常滑(とこなめ)市にある『INAXライブミュージアム』内にあるミュージアムショップにて販売されている。(INAXは旧社名。現在は新社名である株式会社LIXILの中にある水回りを中心とした陶器のブランド名として使用されている)
そのINAXライブミュージアムの広報担当にお話をうかがってきたから、以下で紹介しよう。
・やきものをもっと知ってほしい
まずは、あまりにもインパクトが強すぎるというか、あまりにもチャレンジングではないかと聞いてみたところ、
「むしろトイレメーカーだからこそできることだと思っています」
トイレに真剣に向き合っているからこそ、その気持ちをお菓子に落とし込めたのだそうだ。
「見た目がリアルなお菓子ですのである程度の反響は予想していましたが、ここまでとは予想外でした」
と、担当者も驚きの大きな反響があったようだ。
もちろんデザインにもこだわっており、最中の型は普段からトイレの設計を手掛けている技術班がCADで作成しているというガチっぷり。
ふざける時こそ、本気。なんだかかっこいいな。
少し観察しているだけでもミュージアムショップを訪れた方のほとんどが購入しており、技術を持った大人が本気でふざけた物を作るとウケるんだなあ、と思わず唸ってしまった。
この『トイレの最中』、元々はトイレを製造しているLIXIL榎戸(えのきど)工場を見学された方へのお土産として考案されたもの(一般見学は不可)。好評だったことをきっかけに一般販売が決まり、2021年7月末よりINAXライブミュージアムショップでの先行販売が始まったのだそうだ。
一般販売を決めた理由をうかがってみると、
「やきものの街・常滑をもっと知っていただきたいと思い、販売を始めました。この商品をきっかけにやきものに興味を持って、常滑に遊びに来ていただきたいんです」
その狙い通りというべきか、ミュージアムショップのついでという気持ちで覗いたはずのINAXライブミュージアムにて、筆者はすっかり陶器・タイルに魅了されてしまった。魅力的過ぎる展示内容を少しだけご紹介させてほしい。
・INAXライブミュージアム
INAXライブミュージアムはやきものにまつわる多数の展示を見学できる、いわばやきもののテーマパークのような場所。
といってもゴチャゴチャと展示物が詰め込まれているわけではなく、まるで公園や美術館のように美しい展示物、洗練された建築物、手入れが行き届いたお庭を見ることができる場所なのだ。
実際に訪れる方に注意してほしいのが、INAXライブミュージアムに入ったらまずは『窯のある広場・資料館』の建物の中にある総合案内へ行って施設共通の入館料を支払うこと。
入館料は700円(税込)。展示物のボリュームを考えると安すぎるんじゃないかと思ってしまった。建物内にはかつて常滑市の一大産業であった土管づくりに使われていた本物の窯がある。
当時作られていた土管のツヤは、釉薬(ゆうやく)ではなく塩と粘土に含まれる成分の化学反応によるもの。その影響を受け、窯の内面の壁はまるで土管の表面のようにツヤツヤだ。
『トイレの最中』が購入できるミュージアムショップは総合案内を正面に見て右側。なお、写真の左から『ミュージアムショップ』、『世界のタイル博物館』、『レストラン』となっている。
ショップの中はアーティスティックで洗練された商品がたくさん。そんな中にもトイレに関連するアイテムが多い。たとえば、ミニチュアトイレの置物。トイレなのにオシャレって、ちょっと悔しい。
・世界のタイル博物館
世界のタイルの歴史を見ることができる『世界のタイル博物館』では、世界最古とされる4700年前のエジプトのタイル(本物!)や、
なかなか目にすることができないタイルの裏側や、
中国の染付に影響を受けたと考えられる18世紀ヨーロッパで使われたタイルの暖炉の再現など、貴重なタイルのコレクションを見ることができる。それぞれ時代や国によって特徴が出ていて面白いのだ。
ちなみに、白地に藍色の絵のやきものは18世紀のヨーロッパの人々の憧れだったらしい。
・レストランに庭園に……
一方、レストランに行くと窯で焼いた本格ピザがいただける。
デートにも良さそうな庭園は、『テラコッタパーク』。テラコッタとは、建物の外壁などを装飾するやきものを指すのだそうだ。
・建築史に残る展示物も
建築史に残る偉大な建物の壁面をまるごと切り出しているような展示物もある。例えば2001年に解体された自治省庁舎の装飾。壁が丸ごと切り出されていて迫力がある。
1986年に解体された大阪ビル一号館のテラコッタ。個性豊かな鬼の面はちょっと怖いが愛嬌もある。
便器のメーカーらしく古便器コレクションの展示も。今ではすっかり見なくなってしまったが、当時のお金持ちの間ではお客さん用のトイレを華やかに飾る文化があったらしい。
こちらは、非常に珍しいという大と小とをわけられる便器。残念ながら使いにくかったらしく、普及はしなかったとのこと。
ご紹介したのは展示物のごく一部。INAXライブミュージアムはこういった形で陶磁器に関する知識をこれでもか! と詰め込んでくれる。非常に知識欲を満たしてくれる場所なのだ。
ここに行くだけでやきものに関する知識が爆増するだけでなく、気が付けば街の中でタイルを探してしまうようなやきものファンになってしまうことを保証する。
『トイレの最中』を買いに行くことを考えているのであれば、ミュージアムを見ずに帰るのは非常にもったいない。なんといったって、入場料は700円。安いもんだぜ!
参考リンク:INAXライブミュージアム
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
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▼映えるスポットもたくさんあるのでご紹介しよう。色とりどりのタイルたち
▼2021年10月12日までの期間展示、『DISCONNECT/CONNECT 【ASAO TOKOLO×NOIZ】幾何学文様の律動、タイリングの宇宙』にて
▼東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムのデザインを手がけた野老朝雄さんが参加されている展示なのだ
▼すべての壁がタイルに覆われた『土・どろんこ館』のトイレ
▼大きすぎる!光るどろだんご
▼本物は全長80mあるというトンネル窯の一部。中に入ることもできるぞ!
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