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正気の沙汰じゃない……! 模型製作の最強クラス「ボトルシップ」に初心者が翻弄される一部始終をここに公開

2020年4月25日

昨今の社会情勢で、以前に比べて圧倒的に在宅時間が長くなっているのだが、どうにも調子が出ない。ずっと家にいて人と会わずにいると、余計なことばかり考えてしまう。何か現実を忘れて何時間も没頭できるものが欲しい、と思っていたところ「これは!」というキットを見つけた。

模型づくりの中でも難易度が高く「キングオブホビー」とも呼ばれるらしい帆船模型。さらにそれを小さなボトルに詰める「ボトルシップ」のキットだ。船に限らず物理的に不可能なものを入れる「不可能ボトル」という遊びもあるそうだが、ボトルシップの場合はカラクリ、つまり作り方が確立されているという。

難しいとは言われていても、初心者用キットだし、ユーザーが簡単に脱落するようなものはメーカーも出すまい。半日もあればできるだろう、と始めたのだが……結論からいうと甘かった。激甘の砂糖菓子だった。帆船模型とは、人の忍耐力や克己心を試す人間修行である。時間を忘れるどころか正気を失うところだったので一部始終をご報告したい。


・基本的な作り方

ボトルシップの作り方は大きく分けて3種類あるという。難易度の高い順に、①ボトルの中でイチから模型を組み立てる、②途中まで組み立てた模型を小さくたたんでボトルに入れる、③ボトルを分解して模型を入れる、だそうだ。

今回のキットは中難易度の「ある程度まで作ってから、マストをたたんでボトルに入れる」という方法。これなら初心者の筆者でもできそう。パッケージにも「模型製作のベテランでも困難とされるボトルシップを誰でも手軽に楽しんで頂けるようにしました」と書いてある。


・ウッディジョー「No.1 日本丸」(税抜4800円)

製品は株式会社ウッディジョーによるボトルシップシリーズ「No.1 日本丸」で、難易度は5段階中の2とされている。コンパクトな外箱に驚くが、ボトルや工具は自分で用意することになる。

船体は木製で、あらかじめレーザーカットされているので簡単に切り離すことができる。

木片を重ねて形を作るのだが……言うまでもなく船は曲線で出来ている。四角い木片から、自分の指先の感覚を頼りに立体を削り出す作業が必要だ。この時点で、最初からパーツが出来上がっているプラモデルとはコンセプトがまったく違う、という現実に気づき始めた。

型紙がついているのがありがたい。正解と照らし合わせながら、ひたすらヤスリがけ。木彫りの装飾品はみんなこうやって作るのだろうが、目の前にない完成形をイメージしながら削るのはなかなか難しい。

しかしながら、初心者でも加工しやすい木材が選ばれているのだろう。簡単に欠けることもなく、磨き上げるとツルツルとした手触りが心地いい。木材という自然素材を無心に削るのも、ヒーリング効果があるように感じられる。なんだか心が穏やかになってきた。……この時までは。


・船体の塗装

船体ができたら塗装をする。十分にヤスリがかけられた表面に、気持ちいいくらいスッと塗料が吸い込まれていく。

アクセントになるライン引きにはマスキングテープを利用。テープをはがすと、鮮やかなブルーのラインが……

……現れない! どうしてこうなった……!

大丈夫。これまでの人生で培ってきた “ごまかし力” で、これくらいの修正はチョチョイのちょいだ。もっと大変な局面もごまかしてきた。

人の手で描けないほど細かい部分はステッカーの助けもあった。ステッカーで文字が入るとグッとリアルになる。

金属部品もあるがかなり小さい。スクリューの羽根なんて1枚1mmほど。なくしそうだ。


・マストづくり

続いて帆船模型の醍醐味、マストの制作に入る。

が、ここでも角材で出来ているパーツを円柱になるまで「丸く削れ」という作業指示が入る。何本あると思ってるんだ。1本1本は爪楊枝ほどの細さで、作業途中で折れない保証はまったくない。

しかも、ロープ(糸)を通す穴は、針の穴よりも小さい。この穴に、場合によっては往復2本も糸を通さないといけないのだ。

木材の硬度や密度はおそらく一定ではない。スッと糸が入っていく木片もあれば、引っかかってなかなか進まない木片もある。また、糸も切ったばかりの新鮮な糸であればハリやコシがあるが、何度もいじっているうちにクタクタになっていく。そうなるとますます入りにくくなる。裁縫の経験がおありなら「糸通し」を思いつくだろうが、糸通しの先端部すら入っていかない細さなのだ。

この、目を凝らして木材に糸を通す、という作業が何時間も延々と続いた。苦労して通した糸が、何かの拍子に「さようなら〜」と抜けてしまった日には……絶叫しても誰も筆者を責められないだろう。

なんとかマストが完成した。なお、ヤード(横棒)は糸で縛っているだけなので完全には固定されておらず、左右にグラグラと動く。これがボトルに入れる時の肝になる。だいぶ作業は進んだが、この時点で実は2日かかっており、「半日もあればできるだろう」という安直な目論見は霧散した。


・マストを立てる

翌日、マストを立てる作業に入る。はじめに船尾からジガーマスト、ミズンマスト、メインマスト、フォアマストの4本を通して基準ロープを張る。これが各マストの間隔や角度を決める基準になるのだが……

作業自体は楽しかった。徐々にマストが立ち上がっていくのは船に命を吹き込んでいる感覚になるし、こうやって支えているのか〜と感心もした。各マストの名前や「ガフ」「ブーム」「ボウスプリット」などの船舶用語も興味深い。

なるべくピーンとなるように細心の注意を払って糸を通していく。ほんの1mmほどの先端部に糸を結びつけるなど、「無理でしょ」と言いたくなる部分も多かったが、接着剤の力を借りながらゴリ押しした。

なんとかすべてのロープを結び、改めて基準ロープをほどいてみると……

メチャメチャたるんでるー!!


たるみが大きいところだけでも直そうと試みたが、4本のマストは連動しているので、どこか1カ所を縮める → マストが引っ張られて別のところがたるむ、の繰り返し。どうにもリカバーできず、ドツボにハマっていく……。


・ボトルに入れる

キリがないのでロープの修正は諦めた。あぁ、ゆるゆるなロープがカッコ悪い……。

が、とにかくボトルに入れる作業に移る。用意するボトルはサントリーレッドが例示されていた。安定性のある角瓶で、おしゃれな模様入りガラスなどでなく、透過性の高いものがよい。ふと説明書を見ると「やり直しがききません慎重に行ってください」と警告文が書いてある。ここまでだって十分にやり直しがきかない作業だったじゃないか。

……怖い、怖いよ! 助けて……!

細長いボトルの内部はピンセットでは届かない。説明書に従って、割り箸と両面テープで「とりもち状」のものを作る。台座などを接着して……

いよいよ大詰め、船体を差し込んでいく。この作業からは本当に後戻りができない。おそらく内部で何か失敗した場合、ボトルを割るという方法しかない。


1時間後……


完成した。完成はしたが。

遠目には今にも華々しく進水できるように見えるかもしれない。しかし、我が日本丸は作業中の不幸な事故によりブリッジが脱落した。

さらにひどいことに、ミズンマスト、ジガーマストが船体から抜けている。左右からロープで引いているので倒れてはいないが、ぶらぶらしている状態である。船員の叫びが聞こえてくるようだ。これは帆船にとって致命的。航行不能だ。

これは筆者が重要な部品である真鍮(しんちゅう)線を紛失したためにホチキスの針を代用しており、十分な長さがなかったために起きたことで、キットに不具合はなかったことを報告しておきたい。また、狭いボトルの中で狙った場所に部品を着地させることが難しく、船体がゴロゴロと七転八倒したためでもある。


・選ばれしものの世界

おそらくボトルシップ製作には、ロングタイプの鉗子(かんし)や先が曲がったピンセットなど、専用の工具を使うことが望ましい。そのような工具も持たぬ筆者には、この世界は少々早かったようだ。

通常、このような工作品は一度作ると要領がわかり、二度目からはもっと手際よく、美しく作業できるものである。しかし帆船模型に関していえば、もう一度やっても上達する気がまっっったくしない。深く恐ろしい世界であった。もし「我こそは」と思う猛者がいれば、その深淵を覗いてみて欲しい。新しい自分に出会えるかもしれない……。


参考リンク:株式会社ウッディジョー
イラスト・Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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