ロケットニュース24

看板に名前の書かれていない立ち食いそば屋に入ったら「感銘」を受けた話 / 立ち食いそば放浪記:第189回 森下・深川『芭蕉そば』

2019年12月8日

月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり──。これは松尾芭蕉の『おくのほそ道』の一節だが、時間を旅人に例えるところがなんとも芭蕉っぽい。

それほどに旅をしたのが芭蕉で、最後の句も「旅したいなあ」という感じの歌である。そんな松尾芭蕉もほっこりしすぎて永住するレベルのそば屋が、縁の地・東京の深川にあるためお伝えしよう。

・深川芭蕉通り

松尾芭蕉の拠点だった東京の深川。都営新宿線森下駅から少し南下して深川芭蕉通りに入ると、なにやらのんびりとした空気が漂っていた。真っすぐな道に立ち並ぶ街路樹がなんか欠伸してるみたいである

頬を撫でる風は冷たいが昼時の光は優しい。散歩日和である。そこで、私(中澤)ものんびりとした気分で歩いていると……

バラが咲いてた。


私が芭蕉ならば一句詠んでいただろう。ピンクのバラには「感銘」という花言葉があるが、情報の濁流に流されるような日々を忘れのんびりバラを見ている今の気持ちこそ、ひょっとしたら感銘と呼ぶにふさわしいのかもしれない。

・謎の立ち食いそば屋

そんな深川芭蕉通りの終わりに立ち食いそば屋があった。いや、立ち食いそば屋かどうかも最初は分からなかった。なぜなら、看板には何も書かれていないからである


だが、正面に回ってみると「深川芭蕉そば」というノボリを発見。そこで初めてそば屋と分かったわけだ。


店外のメニューを見てみると、カレーセットが680円とまあ高くはない価格である。と、その時、謎のメニューを発見した

「奥の細道うどん(550円)」「芭蕉そば(550円)」。


まるで観光地のお土産屋のようなネーミングである。しかし不可解なのは店の外観だ。絶対観光客入らないだろココ。一体狙いは何なのか……? そこで入ってみることにした。

・謎のメニューの正体

店内はカウンターのみで、5人並べばいっぱいくらいの広さ。カウンターの前に立つとすぐ後ろが出入り口のザ・立ち食いそば屋さんである。女将さんに「奥の細道うどんってどういうのですか?」と聞いたところ、笑顔で次の返答が返ってきた。

女将さん「芭蕉そばのうどんです!」


──マジかよ……! 芭蕉そばさえ知らない私は、奥の細道うどんの内容を知ることはできない。だが、愛嬌がある女将さんを困らせたくはなかった。そこで、芭蕉そばを注文したところ……


玉子焼き入ってるゥゥゥウウウ!!

そばのトッピングとしてはかなり珍しい部類に入るのではないだろうか。そんな玉子焼きは、ほろっとしていて甘みがあるのだが、これがなかなかどうして甘めのそばつゆと合う。ちなみに、他には野沢菜やワカメ、かき揚げをバラした天ぷらが少し入っていた。

・店の味

そうこうしているうちに、店主のオヤジさんが戻ってきて客も入り始める。いずれも近所の常連という感じで、オヤジさんから話を振っている。そんな時、私の様子を見た女将さんがこっそり話しかけてきた。「これ入れると美味しいよ」と

すすめてくれたのは赤い柚子胡椒だ。他に緑の柚子胡椒も備え付けられているが、これは冷やしに使った方がいいとのこと。そこで、赤い柚子胡椒をそばに入れてみると、ピリッとした刺激でそばの味が締まる。ウマイ。

そうやって食べているうちに、なんだか一緒に食べているお客さんにもちょっとした親近感を抱くようになった。この店で一緒に食べていることに意味がある。袖振り合うも多生の縁。そんな下町の温かさのようなものがこの店には息づいている気がした。全て含めて感銘の味である

この道や 行く人なしに 秋の暮れ──。時間も旅人ならば、人生もまた1人ぼっちの旅である。そんな旅路にたまにこういう交差点があるから、人は旅を続けられるのではないだろうか。

・今回紹介した店舗の情報

店名 芭蕉そば
住所 東京都江東区常盤1-15-4
営業時間 月~金6:00〜14:30
定休日 土・日・祝日

Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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日本、〒135-0006 東京都江東区常盤1丁目15−4
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