音楽市場はデジタル配信化が進み、「CD不況」が叫ばれて久しい。実際 Apple Music や Spotify が普及し、月額料金を払って好きな曲を好きなように端末にダウンロードするスタイルが浸透しつつある。その一方で、アナログレコードは再評価されているという。同じくアナログ音源であるカセットテープもまた、見直されつつある

そこで私(佐藤)はカセットプレイヤーと共にカセットテープを購入し、その音源を約20年ぶりに聞いてみた。改めて聞いてみると、聞き慣れた曲でも響きが変わっていることに気がついたのである。

・私とカセットテープ

私の記憶が正しければ、最初にカセットテープに触れたのは、3~4歳の頃だったと思う。まだ若かった両親は、研ナオコや五輪真弓のテープを買って、当時(1977~78年頃)のデカいラジカセで聞いていたのだが、私と弟がテープを全部引っ張り出して台無しにしていた。記憶は定かではないが、その度に怒られていたような気がする。

自発的にカセットで音楽を聞くようになったのは、中学1年生の頃だろうか。ポータブルカセットプレイヤーが我が家にもやってきたのだ。ヘッドフォンで聞く音楽の臨場感に衝撃を受けた。たしか最初に聞いたのは、サンプルでついていたクラシック音楽だったかと思う。頭のなかに音楽が鳴り響き、めまいがした。


CDが登場した後も、私とカセットテープの付き合いは続く。バンドをやっていた私はタスカムというメーカーの「マルチトラックレコーダー」を使っており、音を録るのは当たり前のようにカセットだった。20代中ごろに携わったタウン誌の編集部には、デモ音源がカセットで大量に届いていた。

そして、当時所有していた軽自動車には、当然のごとくカーオーディオはなく、ラジカセを積んでカセットテープをガンガン鳴らして走っていた。ちなみに車にラジカセを持ち込んでCDを再生すると、車がバウンドする度に音飛びをするから、カセットテープの方が都合が良いという理由もあった。


・尽きない思い出

小学生の時には、友達と声を録音してラジオ放送のマネをしたり。高校生の頃は大好きだった女の子に、自分がチョイスした曲を録音して渡したり。インデックスシールを使って、録音したテープを飾ったり……。思い出を振り返るとキリがない。青春のあらゆるシーンにカセットテープがあった。だが、それももう20年以上も前のことになってしまったとは。私も歳をとる訳だ。


・カセットテープは売っている

さて、最近カセットテープが見直されていると聞き、さっそく最寄りのレコードショップを訪ねた。幸いなことに、東京・新宿の新宿アルタ6階にあるHMVに取り扱いがあるそうなので行ってみると、品数は少ないものの、中古カセットが販売されていた。そのなかで、アナログで聞いてみたいと思ったものを3本チョイス。


アニマルズ コンピレーションベスト『朝日のあたる家』

ガンズ・アンド・ローゼズ 『LIES』

スキッド・ロウ 『SLAVE TO THE GRIND』



本当は、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルを聞きたかったけど、残念ながらここにはなかった。中古販売なので、品ぞろえがマチマチ。選ぶのにも思いのほか時間がかかってしまった。


・プレーヤーもバリバリ売っている!

次にプレーヤーの購入。ありがたいことに、最近のカセット復権の動きは大手家電量販店にも影響を与えている。新宿3丁目のビックカメラに行ってみると、意外にも種類が豊富。ポータブルカセットプレーヤーもラジカセも、数千円くらいで買えるものがいくつもある。そのなかで2980円(税込)のレトロなテープレコーダーを購入した。


懐かし~! ボタンの並びが懐かしい。「REC」と「PLAY」を同時に押して録音するのが懐かしい。「EJECT」を押した時のフタの開き具合が懐かしい。全部懐かしい~!!


何がいいって、電池(単2、4本)で持ち運びも出来るぞ! 音楽を持って街に出られる、素晴らしい!!


・「間」がいい

実際に聞いてみると……テープ伸びてる~! 保存状態がどうだったのか知らないけど、劣化は否めないだろう。それでも再生して聞けるだけマシな気がする。音に歪みがあるものの、アナログならではの音の強さと温もりが耳に心地いい。どれだけデジタルの技術が進化しても、物理的に刻んだ音の温もりにはきっと勝てないと思う。


何より良いのは、カセットテープ特有の「間」だ。曲の頭出しをしたとしても、音が鳴り始めるまでに少しの間がある。その一瞬の沈黙。いや、正確にはホワイトノイズが入っている。その「サーッ」という小さなさざ波のような音が、音楽を聞く気持ちを高揚させてくれる。

あいこくこのプレイヤーはオートリバースではなく、A面が終わったらカセットをひっくり返してB面にセットし直さなければいけない。その間もいい! 一旦手を止めてカセットを裏返すと、たった今聞いていた曲の余韻が胸に広がって来る。

最近はスマホで音楽を聞き流していることが多いのだが、正直聞き疲れすることもよくある。それは余白もなく耳に音を与えているからだろう。カセットなら、ほどよく耳を休めつつアルバムを通して作品を聞くことができる。とにかく、音楽に対して間をとれるのが良い。


・アナログの良さ

そういえばここ数年、レンズ付きフィルム「写ルンです」の販売が好調なのだとか。現像・プリントするまで何が写っているのがわからないのが良いという声があるらしい。利便性を追求してスマホやデジカメは進化してきたが、不便のなかにも楽しみがあることを、若い世代は理解している。同じように、今後さらにカセットテープの価値が見直されることになるかもしれない。


Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24