「飛ばねぇ豚は……」と言えば、日本人のうち1億人くらいは「ただの豚だ」と答えると思う。それほどに印象的な名言で知られる映画『紅の豚』が、2018年11月2日金曜ロードショーに登場する。
飛行艇乗りの生きざまを描く本作は、ジブリアニメの中でもグッと大人な作品。語るのは野暮といった雰囲気のキャラたちのやり取りがビターだ。ただ、あまりにみんなが大人すぎて、私(中澤)にはどうしても気になってしまうことがある。野暮だけど言わせてもらおう。結局、ポルコって人間に戻ったの?
・余韻を残すエンディング
本作の主人公ポルコ・ロッソは豚である。比喩でもなんでもなく豚である。ポルコを初めて見た小学生の頃はギャグかと思った。だがしかし、作品を見ているうちにそんなポルコがとてつもないイケメンに見えてくるのだから「男って顔じゃないんだなあ……」と思わされる。
それはさて置き、どうしても気になってしまうのが物語の最後。ライバルの飛行艇乗りドナルド・カーチスとのリベンジマッチの後、ヒロイン・フィオにキスされるポルコ。その直後ポルコの顔を見たカーチスは「ああ! オメエ、その顔!!」と驚きを隠せない。
カーチスの雰囲気から察するに、人間に戻ったと考えるのが一番しっくり来るのだが、物語中で言及されることはない。宮崎駿監督はなんちゅう罪な余韻を残すのか……。
・プロレスマニアに聞いてみた
そこで、編集長のGO羽鳥(プロレスマニア)と先輩記者P.K.サンジュン(プロレスマニア)に聞いてみた。これって人間に戻ったってことですかね?
GO羽鳥「いや、戻っていない」
──えっ、なぜ分かるんですか?
GO羽鳥「それを説明するためには、まずポルコが何者かを明かす必要があるだろう」
──えっ、マルコ・パゴットじゃないんですか?
GO羽鳥「違う。佐山聡(さやまさとる)だ」
──えっ、佐山聡って誰ですか?
P.K.サンジュン「佐山聡とはズバリ “タイガーマスクの中の人” です。タイガーマスクは80年代、日本中のプロレスファンを熱狂させた伝説のプロレスラーで、いまなお佐山聡を越える天才は現れていない……そう言ってもいいでしょう。
佐山はプロレスラーとしてだけではなく、総合格闘家としても秀でていて、シュートを設立したのも彼です。佐山がいなかったら総合格闘技ブームはあと20年遅れてやってきたかもしれませんね」
──佐山聡については分かりました。しかし、なぜポルコの正体が佐山聡なんですか?
P.K.サンジュン「佐山聡は空中殺法の名手として知られています。タイガーマスク時代の信じがたい空中殺法の数々は今も伝説となっているくらい。一方、ポルコも作中で随一の飛行艇乗りとして描かれています。空中戦No.1……この符合は見逃せない」
GO羽鳥「さらに言えば、本当は『黄金の虎』を描きたかった……けど、それではタイガーマスクだとバレバレなので、やむなく設定を『紅の豚』にしたとも推測できる」
──なるほど。しかし、ポルコが佐山聡を描いているとして、冒頭の質問に戻りますが「戻っていない」とはどういうことですか?
GO羽鳥「詳しく言うと、ちょっと戻ったりはしているが、戻ったままにはなり得ないということだ」
──と言うと?
GO羽鳥「ポルコが佐山聡を表現したものと考えると、豚状態がタイガーマスク、人間状態が佐山聡ということになるだろう」
P.K.サンジュン「あ! そういうことか!!」
──えっ、今ので何が分かるの?
P.K.サンジュン「実は佐山聡は、タイガーマスクとしてデビューして以来、マスクを脱いだり剥ぎ取られたことはあっても、『佐山聡』としてプロレスのリングに上がったことはないんですよ。タイガーマスク引退後も『ザ・タイガー』や『スーパータイガー』としてリングに上がっています」
GO羽鳥「そう、つまりポルコも『ザ・ポルコ』や『スーパーポルコ』になることはあってもマルコ・パゴットには戻らないということだ。もちろん、一時的に仮面を外したり外されたりすることもあるだろうが、心はずっとポルコ・ロッソなんだ」
──なるほどなるほど。繋がってきたような気がします。
GO羽鳥「そして、ポルコが佐山聡ということは、『なぜ豚になったのか?』も見えてくる」
──あ! それ気になってました。
P.K.サンジュン「タイガーマスクになる前、イギリスでブルース・リーの従弟こと『サミー・リー』のリングネームですでにブレイクしていた佐山が新日本プロレスのオファーを受けた理由……それは……」
GO羽鳥・P.K.サンジュン「アントニオ猪木の顔をつぶさないため!」
──つまり、豚になった理由も……?
GO羽鳥・P.K.サンジュン「アントニオ猪木の顔をつぶさないため!!」
──な、なんだってェェェエエエ!? ポルコ・ロッソが佐山聡であるだけではなく、豚になった理由が「猪木の顔をつぶさないため」だったなんて……! だがしかし、その共通点の多さには説得力がなくもない。
後半ほとんど何言ってるか分からなかったが、宮崎駿監督がタイガーマスクが好きなことだけはビンビンに伝わってきた。今後もロケットニュース24編集部では、ジブリ作品に隠された謎を追い続けていきたい。
執筆・イラスト:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
こちらもどうぞ → シリーズ「プロレスマニアに聞いてみた」