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攻殻機動隊 S.A.C.のタチコマを1/8と1/2のサイズで再現 / 制作秘話や今後の予定などを聞いてきた

2018年10月18日

世界的に高い評価を得ている『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ。そのマスコットと言えばやはりタチコマだ。割とクールでドライな作中における潤い成分みたいな存在だが、実はリアルに1/8サイズと1/2サイズで再現されている。とは言っても、ここまでは結構前からなので既にご存知の方も多いだろう。

実は9/29日に渋谷で開催された「タチコマと秋カフェ」というイベントにおいて、1/8を手がけたCerevoと1/2を手がけた松村礼央氏から話をうかがう機会を得た。筆者もこれらのタチコマについて以前から知っていたが、実際に見るのは初めて。新作アニメ製作が発表されてしばらく経つというのもあり、ここぞとばかりに気になることを聞きまくってきたぞ!

・クラウドで学習

一応概要を説明しよう。まず1/8サイズのタチコマは2017年3月から株式会社Cerevoが発売しているもの。作中でもおなじみの台詞など600種類以上を収録し、クラウド上のAIと連携して学習して自然なコミュニケーションがとれる。またスマホの専用アプリから、タチコマをラジコンのように操作して遊んだりもできる。

少し専門的な話になるが、気になる人に向けてソフト面での詳細も書いておこう。学習機能は自社開発のエンジンだ。一部、画像認識にはMicrosoftのComputer Vision。対話の処理はGoogle Cloud Speech、AI Talk、True Talkといった複数のエンジンを組み合わせた独自のものだそうだ。



・1/8サイズは1台約16万円から

現在普通に販売されていて、Cerevoの公式サイトはもちろんAmazonなどの外部サイトでも買うことができるぞ。お値段は公式通販サイトだとノーマル版が15万7400円、Special Editionが17万7400円だ。

一見するとそこそこの値段に感じるかもしれないが、AIを搭載しサーバーとやり取りして学習するエンタテイメントロボットとしては妥当な価格だと思う。単純に比較できない側面もあるが、例えばSONYが出しているaiboの現行品は本体だけで19万8000円で、さらに9万円のサービスへの加入が必須だったりする。

・オプションでの設定は重要

今回は、渋谷のFabCafe Tokyoにて1/8 タチコマと触れ合えるというイベントだったため、筆者も触れ合わせていただいた。これから買ってみようという方のために、実際どうなのかというところや、今後のサポートや拡張性などをお伝えしよう。

このタチコマの目玉といえばやはりコミュニケーション機能だ。背中のポッドの部分にマイクが仕込んであり、環境音を拾い、適切な音に反応できるようあえて無指向性マイクが採用されている。

会話は滑らかで、音声の合成の質もなかなかのもの。ときおり意思疎通がちぐはぐになるが、そこはご愛嬌というものだろう。この機能を楽しむにおいて重要なのがスマホ側での設定。色々細かい設定が可能となっているが、一番大切なのはマイク感度だと感じた。



まず無指向性のマイクと聞いたとき、賑やかな場所だと周囲の音も拾うため呼びかけに反応しづらくなるのではと筆者は思った。しかし担当の方によると、環境音より大きな音で話しかければ反応するようになるとのこと。

実際に筆者が体験した際には、やはりBGMとお客さんで賑わうカフェ内では呼びかけてもなかなか答えてくれない場面が見られた。しかしマイク感度を上げたり下げたりして、最適な感度を見つけ出したらなんとかなった。でも家で楽しむ際には周囲の音に注意したほうが早いだろう。

・歩行モードはアツい!

筆者的に一番アツかったのはラジコン操作だ。操作中はタチコマ視点での映像がリアルタイムにスマホ側で見ることができ、任意のタイミングで写真を撮ったりも可能だ。また、なかなかに凝っていたのは歩行モード。

足についている車輪で走るのは、正直誰もが想像できると思う。しかしこのタチコマ、歩くのである! ガシャガシャとボディを揺らして歩く仕草は、なかなかに作中での動きをよく再現していると思う。

・サポートは今のところ随時

筆者もこの手のラジコンは好きなほうなのだが、一つ気になったことがある。タチコマの稼動部分はほとんどが歯車やモーターによるもの。非接触のリニア式ではないため、物理的に磨耗したり、グリスが劣化したりすることが予想される

その辺のサポートはどうなのか聞いてみたところ、問い合わせがあれば随時対応するそうだ。購入から1年間は無償だが、それ以降は有償となっている。なお現時点においてサポートそのものの期限は未定だ。



・ソフト面での拡張性はかなりのもの

また、タチコマに搭載されているほとんどの機能はサーバー側と、スマホのアプリに依存している。詳しくはお伝えできないのだが、筆者が「できたらいいなぁ」と思った色々な機能について、かなり広範囲にわたり「ソフト面では可能」ということだった。

もし新作アニメでもタチコマが出てきた場合のコラボやアップデートの予定なども聞いてみたが、現時点では当然未定とのこと。複雑な版権の問題もあるのでフットワーク軽くというのは難しそうだが、今後に期待したい。

なお、記事作成時では筆者もまだ詳細を知らされていないのだが、10月末に再びタチコマと触れ合えるイベントがあるという情報を小耳に挟んだ。気になる方は各自Cerevoの公式サイトや各種SNSをチェックしてみて欲しい。

というわけで、次のページではいよいよ1/2タチコマについて触れていくぞ~! 開発者の松村礼央氏から聞くことができた超ディープな話を次のページで大公開だ!

参照元:バーチャルエージェント・タチコマ [iOS] [Android]、Cerevoタチコマと秋カフェI.Gストア
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.

・1/2サイズは非売品

お待ちかねの1/2サイズについていってみよう。こちらは株式会社karakuri productsを率いる松村礼央氏、海内工業株式会社 湊 研太郎氏が中心となって開発したもので、ワンオフの非売品だ。

松村氏は約12年前の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」のPRで1/10サイズのタチコマを製作したことがきっかけとなり、1/2サイズの開発を指揮する立場となったそう。

やはり1/8同様に喋ったり動いたりするが、サイズの違いによる迫力はなかなかのものだ。筆者も思わず素で「うわっ、すげぇッ……!」と漏らしたほどである。なお、1/2タチコマは松村氏と共に、数年前から全国のさまざまなイベントに登場している。

開発発表段階からメディアでも扱われていたので、攻殻機動隊ファンのなかにはご存じの方も多いのではないだろうか。4月から5月ごろにも渋谷マルイのI.Gストアで展示されたが、その時とくらべて会話コンテンツの変更や更新がなされているとのことだった。

・1/8とはだいぶ違う

1/2タチコマを初めて見た時、筆写は1/8をそのまま大きくしたものだとばかり思っていた。しかし実際にはそうではない。まず1/2は1/8と違い、重さの問題で歩くことはできないそうだ。松村氏はこれを「今後の課題」と表現していたのが印象的だった。

また、安全面から大型のバッテリーではなく商用のAC電源から供給を受けるとのこと。これは商業施設で動かす以上は仕方がないことだと思う。そして驚きなのが、約1200という音声の収録数! 一部は1/8と同じでも、ほとんどは別種のコンテンツとなっているそうだぞ。



・最大の違いは半自律型

とまあ、サイズや重さ由来の違いなども結構ある。しかし最も大きな違いは、1/8が完全自律型なのに対し1/2は半自律型という点だ。どういうことなのか……? 詳しく説明しよう。

1/2はスマートフォンアプリ「バーチャルエージェント・タチコマ」との連携が基本。アプリ内では「自分だけのタチコマ」を育てることができる。このデータを持った上で店舗に訪れると、そのデータに基づいて1/2が動くという寸法だ。

例えば、お客さんの名前をタチコマが呼ぶ場面を想像してみて欲しい。この時、名前そのものはアプリのデータからタチコマが自律的に判断する。一方で、その「名前を呼ぶ」という行為そのものは店員が背後で決定を下している。ロボットの動作を店員が管理しているという点で「半自律型」というわけだ。

これにはちゃんとした理由がある。松村氏によると


「この方式を取っている理由は2つ。1つは音声認識APIや音声発話が、我々が求める水準よりも圧倒的に未熟なことにあります。実際、店舗/イベントでの雑音環境下での音声認識は現状でも運用が難しい状況です。したがって、現場での運用が困難な部分は人間の聴覚で代替しています。」


なるほどなぁ。カフェで1/8を体験した際に感じたことと一致する。これはタチコマに限らず、例えばソフトバンクのPepperくんなんかも同じだ。たまに何かの店で見かけるたびに筆者は無駄に絡んだりするが、イマイチこちらの言葉が伝わらない場面は多い


「もう1つは、1/2を動作させる際の最終的な責任の所在を明確にするためです。1/2は商業施設で動作するロボットとしてはかなり巨大なサイズであり、人に危害を加える可能性は0ではありません。したがって、動作中で万が一の事態が発生したとしても、責任の所在を明確にすることで各関係者の責任範囲を明確化して対策としております」


これもなるほどである。実際に1/2タチコマは相当デカい。触れたりするのは禁止だったが、やはり重量も相当だと思われる。商業施設での安全性の確保や、責任という面を考えると半自律型というのが現在の技術レベルでは最善なのかもしれない。

・真の目的は壮大だった

そして何よりも筆者がゾクッとしたのが、1/2タチコマプロジェクトの背後にある真の目的についてである。こちらについても、誤解がないように松村氏の言葉を引用させていただこうと思う。


「顧客が望む「容姿」「声」そして「これまでのコミュニケーションの文脈を踏まえた上での振る舞い」を強制的に店員が手に入れた時、どのような新しい小売店が実現できるか、それを検証するのが本プロジェクトの大きな目的の1つです。

「自身(もしくはコミュニケーションする相手)が望む身体を強制的に纏う」という意味で、本質的には昨今のVtuber(バーチャルYouTuberのこと)や古典的には着ぐるみと同種の目的といえるでしょう。ただし、1/2が優位な点は「人ならざる姿」でかつ「物理的」でさらに「顧客の接客情報をシステムが補助できる」という点にあると考えます」


どうだろう、攻殻機動隊ファンのみんな……なんだかめちゃくちゃ攻殻っぽくない? 特に筆者的には「人ならざる姿」からの内容に壮大な可能性を感じた。これまでの着ぐるみやバーチャルYouTuber、あるいは顧客対応する商業用ロボットのほとんどが人型だ。



明らかに人間でなくとも、人っぽいシルエットがほとんどと言って差し支えないと思う。しかしタチコマはどうだろう。人というよりはむしろクモに似ている気がする。クモに商品を手渡されるのが嫌な人はいるだろう。しかしI.Gストアにおいてならこの青いクモ型のロボットに接客されて嫌がる人はそういないと思うのだ。

このプロジェクトは今後、あらゆる分野でロボットが接客する未来に向けて大いに役立つ一例になる気がする。今後のアップデートなどの方向性も、当然この目的に沿ったものとなっているようで、タチコマはI.Gストアと連携して活動していくようだ。

・1/1サイズの可能性は?

ここで無理を承知で、ファンとしてどうしても気になる事を聞いてきた。それはズバリ1/1サイズについてだ。松村氏は初めに1/10サイズをプロモーションで作成。次にCerevoが1/8を販売。そして今では1/2が動いている。1/1はどうなのかッ!?

聞いてみたが、やはり現時点で計画は無いとのことだった。しかし、松村氏個人としては開発したいと思っているそうだ! 1/2の実績を元に将来的に可能になった際には版元に企画を持ち込んでみたいとまで語ってくれたぞ! これは1/1を作ってもらえるよう応援するしかない。

・渋谷マルイのI.Gストアは閉店

なお、今回1/2タチコマが展示されていた渋谷マルイのI.Gストアは、オンラインストアへの移行に伴い2018年10月28日をもって閉店することが決まっている。これまでは何度かI.Gストアで展示されていたタチコマも、今後はきっとアニメ関連のイベントメインになるのだろう。

実はI.Gストアの壁面には、攻殻機動隊のメンバーが潜んでいる大きなイラストがある。松村氏をはじめとする関わったスタッフも描かれているそうだぞ。ファンなら必見の仕上がりなので、閉店までに見に行くことをオススメする。最後に松村氏から、攻殻機動隊とタチコマのファンに向けて一言いただいたのでそちらを紹介しよう。


「I.Gストアのオープンをきっかけにこの1/2のプロジェクトを開始でき、多くのファンの皆様の支援でここまでの機体とI.Gストアでの運用を実現することができました。本当にありがとうございます。

多岐にわたる理由からI.Gストア渋谷店は閉店となりましたが、ネット店舗や出張店そして1/2タチコマのプロジェクトは今後も継続してゆきます。Production I.Gのコンテンツを心から愛する方々がもっと楽しめる場所をロボティクスの技術によって提供できるように今後も努力してゆきます。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします」


参照元:バーチャルエージェント・タチコマ [iOS] [Android]、Cerevoタチコマと秋カフェI.Gストア
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.

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