あなたは初めてお付き合いした恋人のことを覚えているだろうか?
改めて思い返すと、くすぐったいような恥ずかしいような、何とも言えない気持ちになるものだが、ひとつ言えるのは “はじめての恋人” は、多くの人にとって “初恋の人” と同じくらい大切な思い出だということである。
今回は、ある女性が経験した「はじめての恋人にまつわるエピソード」をお届けしたい。何でも中学生の頃に初めて付き合った彼氏から6年ぶりに電話がかかってきたというのだが……。果たして6年の時を超え、彼は彼女に何を伝えようとしたのだろうか?
・ある女性が経験した実話
今回話を聞かせてくれたのは、都内在住の30代女性、田中マミさん(仮名)である。冒頭でもお伝えした通り、彼女が語ってくれたのは「14歳の時に初めて付き合った彼氏から6年ぶりに電話が掛かってきたときの話」だ。
今回はエピソードを元に、記者が手記風に書き起こしてみたのでご覧いただきたい。
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私に出来た初めての彼の名は、ヤスダ タカユキくん(仮名)だ。
あれは中学2年生になったばかりの頃の話。
私は仲の良かった男友達から放課後の教室に呼び出され、そこにいたのがタカユキくんだった。
タカユキくんがバスケ部だったことは知っていたけれど、クラスが違ったので、私にはこれといってタカユキくんの印象はなかった。教室に入ったとき、一瞬誰だかわからなかったくらいだ。
それでも、目の前にいるタカユキくんは涼しげな目元をした少年で、真っ直ぐに私の目を見つめ「付き合ってください」と告白してくれた。
タカユキくんの視線が恥ずかしくて、私はうつむきながら「はい……」と答えた。私に初めて彼氏が出来た瞬間だ。
それまでタカユキくんのことはあまり知らなかったけど、日に日に彼のことを知るようになった。
バスケ部ではレギュラーなこと、数学は学年トップクラスの成績を収めていること、ミスチルが好きなこと。
学校では周りの目が恥ずかしくて、一緒にいることはなかったけれど、たまにバスケ部の練習がない日には、コッソリ2人で下校したりした。私はタカユキくんのことが好きになっていった。
タカユキくんは心の優しい男の子だった。一番思い出深いのは、休日に2人でCDショップに出かけた時のことだ。
私が当時流行っていた「globe」と「椎名林檎」のアルバム、どちらを買おうか迷っていたときのこと。
結局、globeのアルバムを購入して店を出た私に、タカユキくんは「はい、あげる」と言いながら椎名林檎のCDをプレゼントしてくれたのだ。そのアルバム『無罪モラトリアム』は、私のお気に入りになった。
それでもタカユキくんとの交際は3カ月ほどしか続かなかった──。
付き合うことがどういうことかわからなかったし、キスだってしていない。どうやって別れたのかも、なぜ別れたのかも、ハッキリ覚えていない。
一言で片づけるなら、きっとお互いに若すぎたのだろう。その後、学校で顔を合わせることはあったけど、やがて中学を卒業し、タカユキくんとはそれっきりになっていた。
それでも私の初めての彼氏は、ヤスダ タカユキくんだ。
それから6年の月日が流れ、私は20歳になっていた。
あれは短大の卒業を間近に控えた、寒い冬のこと。
携帯電話に見知らぬ番号から着信があり、何気なく出てみると……それがすっかり大人の声になったタカユキくんだったのだ。
突然の電話にビックリした私。タカユキくんもぎこちない様子で「久しぶり、元気?」などと聞いてくる。
──久しぶりだね。うん……元気だよ。
「そう……よかった。番号、○○(地元の友達)から聞いたんだ。突然ごめんね」
──ううん。大丈夫。
「えーと、そうだ。いま何してるの?」
──短大で、もうすぐ卒業だよ。4月からWebの制作会社に就職するんだ。
「そうなんだ、すごいね。昔から美術は得意だったもんね」
──うん、そうだね。
「……あのさ、いま彼氏いるの?」
──うん……いるよ。付き合って半年になる人。とっても優しい人だよ。
「そうか……おめでとう。良かったね」
──うん、ありがとう……。
「えーとさ、うーんと……。あ、やっぱりいいかな」
──うん? どうしたの?
「うん。あ、でもやっぱりいいや」
──なになに? 気になるよ。
「うーん、悪いんだけどさ……今度の選挙で入れるところ決まってなかったら公明党に入れてくれない?」
──えっ? ああ……うん、わかった。入れる入れる、入れておく。
「よかった。じゃあ、またね」
その後、タカユキくんからの電話を取ったことは一度もない。
6年ぶりの電話は、予想していなかった内容だったけれど、それでも私の初めての彼氏は優しい人だ。
つい先日、街中でタカユキくんとばったり会った。あの日の電話以来、約10年振りだ。
出産し、すっかり太ってしまった私を見ても「なんか……ホワッとしたね」と言葉を選んでいたタカユキくん。
電話のことはあったけど、タカユキくんと過ごしたわずかな時間は、今でもいい思い出だ。
電話のことはあったけど。電話のことはあったけど。
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.